第33話 変身





「オーケー、お前ら自分たちが魔物だって知らないのはわかった。神族だっけ? それならそれでいいや。その体内の魔石も神石なんだろ? それもいいや。どうせお前らはここで死ぬんだし」


 俺は未だに尻餅をついたまま立ち上がることすらできない侯爵と、その侯爵を盾にして隠れている令嬢にそう言い放った。


「な!? ……わ、私は侯爵だぞ……帝国を敵に回して生きていられると……」


「なに言ってんだ? 周りを見ろよ。お前んとこの兵士が何人死んでると思ってんだ? 今さらだろう」


 なんでコイツは自分だけ生き残れると思ってんだろうな。帝国というバックがあれば絶対不可侵の存在とでも思ってるのか? 過去に起きた奴隷の反乱からなにも学ばなかったんだろうな。


「ヒッ! か、下等種なにしてるの! その悪魔を殺しなさい! 私を助けなさい命……え? く、首輪……な、なぜ首輪をしていないのよ! 」


「今頃気付いたの? 本当にお馬鹿な女ね。外してもらったのよ。私たちを助けるために帝国に立ち向かってくれた私の大切な人にね」


「くくく……首輪がなきゃこっちのもんだ。お前らには随分世話になったからなぁ。楽に死ねると思うなよな」


 おお……ティナのゴミ虫を見るような冷たい目。あの切れ長の目を細めて見下ろす姿はゾクゾクするな。


 結構ティナってSっ気があるよな。凛としていて誇り高くて仲間には優しくて、リーダーシップがあってさ。いい女だよな。


 リズも相当溜まってたみたいだな。そりゃ可愛がっているシーナもろとも殺されるところだったんだ。


 酷薄な笑みを浮かべて令嬢を見下ろしている。

 こりゃ楽には死なせてもらえないだろうな。


「わ、私はテルミナ帝国貴族よ! 私を殺せばエルフの里が滅ぼされるわよ! 馬鹿なこと考えてないでその悪魔を殺しなさい! 」


「死人に口なしよね。自分がほかの令嬢にやったことじゃない」


「あ……ありえない……下等種に……奴隷にこの侯爵家の長女である私が殺される? そんな……そんなのあってはならない事よ! 調子に乗るんじゃないわよ下等種の分際で! 『ファイアーランス』 ! ……え? ま、魔力が……ファ、『ファイアーランス』! 『ウインドカッター』! 」


「呆れた……魔力切れに気付かないなんてホントど素人ね。ウンディーネ、お仕置きをしてあげてちょうだい」


「ヒッ!? な、なにをするの……あがぼぁ! 」


 うわぁアレはティナが魔物の動きを止めるためによくやるやつだな。

 ヒルデだったか? 頭全体を水球で包まれて苦しそうだ。普通は顔に思いっきり魔力を込めるか、魔力のこもった手刀かなにかで相殺するんだけど、魔力のないヒルデはもがくことしかできないだろうな。


 オイオイ、自分の娘が真後ろで苦しんでるのに侯爵は距離を置いちゃうの?


「オイ! 豚! 」


「ぎゃっ! 」


 俺は四つん這いで俺たちから離れようとする侯爵の尻を蹴り飛ばした。

 SSランクの俺の蹴りを受けた侯爵は、10mほど先までその巨体を何度も転がしながら吹っ飛んでいった。

 そして俺は魔鉄の剣を取り出し、侯爵へとゆっくり近づいていった。


「ぐうぅぅ……な、なにをするヒッ! そ、それは魔鉄! ど、どこでそのような貴重な物を! や、やめろ! く、来るな! わ、私は侯爵だぞ! 帝国軍がもうすぐやってくるのだぞ! 」


「そうか、ならさっさと殺さないとな。とりあえず身に付けているアクセサリーと魔道具、全部外して前に置けよ」


「そ、そんなことしたら私を守るものが……ヒャッ!? ぎゃあああああ! 」


 俺は剣を侯爵に振り下ろし護りの指輪の効果を発動させた後に、今度は侯爵の腹部に剣を突き刺した。


「じゃあ死体から剥ぎ取るからいいや」


「ま……待て……待ってくれ……ぜ、全部やる……だから命だけは……ほら……こ、これで……祝福の指輪だけは許してくれ……グフッ……このままでは死んでしま……う……」


「おお〜! 収納の指輪になにが入ってるのかのメモまで。さすが色んな奴の命乞いを見てきた権力者は違うわ。わかってるなぁ。どれどれ……収納の指輪の中にマジックバッグを入れてんのか、なかなか楽しませてくれるじゃないか。その内容のメモもあるな。3等級の停滞の指輪に護りの指輪に力の指輪。魔力の腕輪まであんのか! マジックテントは上級か。やっぱ高級はないんだな。それに魔寄せの鈴? ああ、シーナに吹かせたやつか。これは後々に使えそうだな。あとは金貨に白金貨? 帝国のお金ね。そういえばダンジョンにいっぱいあったな。あとは帝国の簡易地図にポーションも3等級に隷属の首輪ねぇ……」


 さすが侯爵だ。いいもん持ち歩いてるな。全部持ってるし余ってるけどな。魔寄せの鈴とか珍しい魔道具は収穫だったな。

 こんな危ない魔道具や高価な物は、収納の指輪なんてあるなら肌身離さず持っておきたいよな。


「そ、それで全部だ! は、早くここから去ってくれ! 帝国軍が来てしまうぞ! 」


 そういえば連絡したってさっきから言ってたな。


「ああ、魔導通信だっけ? なんて話したんだ? 」


「あ、悪魔が基地を襲っていると……」


「ふーん。あそこのいかにも地球産のカメラは基地内のみで録画保存してんの? 」


 俺はグラウンドや建物のあっちこっちに付いている、どう見ても地球産の監視カメラのことを聞いてみた。


「…………そうだ」


「嘘くせえんだよ『風刃』 」


 俺は何か隠してる風だったので、風刃で太ももを切りつけ祝福の指輪で回復中の腹部を踏みつけた。


 隷属の首輪を付けて話させてもいいんだけど、一つしか入ってなかったからな。

 首輪は儲けるためか悪用されないためかわからないけど、使い捨てらしいからティナたちに使わせてやりたい。


「ぐあっ! ぐうぅぅ……ま、待て……帝国防衛軍に基地の者が送信したはずだ……」


「やっぱりな。まあ普通そうするよな」


 征服して一年以上経てば取り入れられる技術は取り入れるよな。

 テルミナ帝国には映像を録画送信する技術は無いみたいだしな。

 そりゃ防犯用に設置するわな。電気も作れるらしいし。


 まあいいけどさ。

 ここに来るまでにこの後のことは計画済みだ。

 それを実行するためには、帝国軍には集まるだけここに集まって欲しいもんだ。


「わ、私の指示ではない……規則なんだ。マニュアル通りしただけなんだ」


「ん? ああいいよ別に。それじゃああとから娘を行かせるから。さよなら」


「なっ!? ぐぎゃあぁぁぁ! あああああ! あが……ガガ……ガァァァァ! 」


「うおっ! マジか! 変身すんのか! 」


 俺はもう用無しとなった侯爵の心臓に深々と剣を突き刺した。

 すると侯爵の体内の魔石から魔力が身体に流れ出し、口が大きく裂けて牙が伸び、赤い目が蛇のように縦に割れ始めた。そして口に魔力が集まり、それを俺に向かって放とうとしているところで……


『滅魔』


 俺は侯爵の体内の魔力と魔石から全ての魔力を吸収した。

 すると侯爵は口を開けたままあっさりと息絶え、ゆっくりと後ろへと倒れた。


「命の危機に陥ると第2形態になるとかまさに魔族だよな。あのヒルデもこんな醜い顔になるのか……マジックテントにあったあの絵と写真の女も……人間の顔で2つのおっぱいがあれば、それがたとえ魔族でも興奮したのは仕方ないと自分を慰めていたけどこれはキツイな……よしっ! ヒルデのは見ないようにしよう! 」


 俺は一年半以上お世話になったえっちな本に対する精神防御方法として、ヒルデの変身した姿を見ないことにした。

 知らなければいい思い出だ。おっぱいに罪はないけどあの顔は駄目だ。ショックで不能になりそうだ。


 そしてティナたちのもとに行き、隷属の首輪を渡した。

 背後からずっとヒルデが苦しんでいる声が聞こえていただけあって、ヒルデは全身びしょ濡れの上に酸欠からか顔が真っ青になっていた。


 俺から首輪を受け取ったティナは俺にありがとうと笑顔で言ってから軽くキスをしてくれて、ちょっと牢に行ってくるとヒルデの髪を掴んで引きずって行った。


 俺はティナの後を追うリズとシーナに声を掛けて侯爵の姿を見せ、最後の悪あがきをするから気をつけるように伝えた。


 リズとシーナは侯爵の縦に割れた目と牙と、大きく裂けた口もとを見てかなりショックを受けていたな。

 これが帝国人が魔族である一番の証拠になったな。


 それから侯爵の指から祝福の指輪3等級を抜いて俺は上空に飛んだ。


「まだ来ないな。編成に時間が掛かってるのか? あの映像を見たらもうバラバラには来ないか。まだ時間があるならいいや。ティナたちを待とうかな」


 俺は探知と鷹の目で周囲を見ながら、カメラから映像が帝国本部にいってるならデビルマスクで顔を隠したの意味なかったな。でもビビってたからいいかなどと考えていた。


 そして15分ほどした頃、ティナたちがいる地下牢と思われる場所から一瞬魔力が膨れたと思ったら直ぐに消える反応があった。

 恐らくヒルデが変身したんだろう。地下に連れて行ってもらってよかったよ。


「コウ! 終わったわ。過去にあの女に殺された子たちの分もしっかり報復しておいたわ。それにしても最後はビックリしたわよ。あんなに醜い顔になるなんて、本当に魔族だったんだって実感したわ」


「サンキューコウ! 事前に教えておいてくれたから、便器に顔を突っ込んでいる間に首に剣を突き刺してやったぜ! そしたら破裂してさぁククク……いい気味だ」


「そ、そうか……良かったよ。報復ができたみたいで……」


 見なくて正解だった。見なくて正解だった。今後できれば赤髪の女は俺はスルーしよう。うん、そうしよう。


「ふええ……兎はトラウマになりそうですぅ」


「大丈夫だ。シーナには俺が付いてるから。おいで」


「コ、コウさん……あっ……う、兎をもらって……ください」


 俺はシーナを手招きして抱きしめながら、いただきますとシーナの耳元で囁いてお尻を撫でた。


「あっ! シーナばかりズルいわ。コウ、私も抱きしめて」


「コ、コウ……あたしを抱きしめさせてやってもいいんだぜ? キスもして欲しいんだろ? ん? 」


「2人もおいで。まだ帝国軍は来ないから、もう少し大好きな3人がここにいることを実感していたいんだ」


 俺はティナとリズも呼んだ。

 するとティナは俺の左腕にスッと巻きついて俺にキスをしてきた。

 リズはというと顔を赤くしてそっぽを向きながら、ちょっと大回りして俺の右腕を抱きかかえて目をそらしながら顔を俺に向けた。


 俺はそんな可愛いリズともキスをして、そのキュッと上がったお尻を撫でていた。

 リズとのキスの最中に視線を感じて俺の胸に顔を埋めていたシーナを見ると、上目づかいで見上げていたのでシーナともキスをした。

 シーナは舌を入れたらやっぱり受け入れてくれて、少しいやらしい音を立てながら俺はシーナとの大人のキスをじっくりと味わってた。


 ティナとリズは横でそれを顔を真っ赤にしながらジッと見つめていた。


 ああ……夢が叶った……あとはこの子たちを帝国のくびきから解放するだけだ。

 俺がこの3人の心も身体も全て帝国から引き剥がして幸せにしてあげるんだ。


「ティナ、リズ、シーナ。これからのことなんだけど」


「ゲートキーで逃げるのね! 」


「あたしはコウがいればダンジョンの中に一生いてもいいぜ! 」


「う、兎もコウさんと一緒なら……た、たくさん子供を作ればその……賑やかになりますしぃ……」


「いや逃げないよ……これから俺たちは帝都に乗り込んで皇帝と対決する」


「「「 ええ!? 」」」


 俺は驚く彼女たちを真っ直ぐ見つめることで、本気であることを証明した。



 俺は大好きなティナたちを救う。


 そのためにはティナたちの大事な人たちも救わなければ、本当に救ったことにはならない。


 だから絶対君主国家であるこの帝国の皇帝と対決する。



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