第16話 変化した世界





「ふええええ! あ、あの伝説の悪魔さんなのですか!? う、兎たちの魂をた、食べるんですか? 」


「シーナ、違うそうなのよ。人族らしいわ。名前が似ていて私が勘違いしちゃったのよ。リズ? ちゃんと説明したの? 」


「あはははは! ごめんごめん。あたしたちを置いて勝手に囮になろうとしたシーナにちょっと意地悪したくなってね」


「ええ!? リズさん兎に嘘をついてたんですか!? ああ……悪魔さん、助けて頂いたのに申し訳ありません。あっ……」


「ぷっ! あはははは! シーナそれ謝ってないって! あはははは! 」


「もうリズ! 命の恩人に失礼よ! 」


「悪りぃ悪りぃ。アクツだっけ? ホント助かった。ありがとな」


「本当に助かりました。ありがとうございます」


「あ、アクツさん。悪魔などと言って申し訳ありませんでした。エスティナさんとリズさんを助けていただいてありがとうございました」


「いや……間に合って良かったよ」


 なんというか、個性あふれる子たちだな。ついさっきまで危機に瀕していたとは思えない元気さだ。

 それにしても3人とも美人すぎて緊張して思うように話せない。


 人と話すのでさえ1年半以上振りなのにいきなりハードル高くね?

 こ、コミュ症とか思われてないかな? できればシャイボーイ的な印象がいいんだけど。


 しかしギリギリだったな。あと少し遅かったら、地竜の一番近くにいたあのうさ耳の子は間に合わなかった。

 今日の探索であまりにも魔物の反応がないから、おかしいと思って広範囲を探索してよかった。




 俺はここに来るまではこの59階層の階段をさっさと見つけ、60階層のボスのとこに行こうと階段探しをしていた。


 そしたら途中トラップだらけの小部屋に赤い宝箱があったので、いつも通り滅魔でトラップを無効化してお宝を回収した。するとお宝の中に黒いサークレットがあって、鑑定したら『デビルマスク』と出た。


 効果に精神耐性みたいなのが書かれていたから、呪いとかもなさそうだし試しに額に装着してみたんだ。


 すると装着した瞬間、シャキーッンって音がして、目と鼻を覆う黒いマスクになってさ。

 さらにサークレットの側面からは蝙蝠の羽が飛び出した。

 なにこれカッコイイとか思ってしばらく『デ・ヴィーーール! 』とか言って変身して遊んでいた。


 そうしているうちにこれは風刃スキルを利用してデヴィルカッターもやりたいと思って、階段探しから地竜やバジリスク探しに移行した。

 でも全然見つからなくてこれはおかしいと思うようになったんだ。


 このダンジョンはまた俺に魔物の群れをぶつける気かも思って、先手を取ろうと飛翔スキルで飛び回って探知しまくって魔物を探し回った。


 そしたらかなりの速度で移動している2つの魔物らしき反応が引っ掛かった。

 魔物にしては少しおかしい反応だと思ったんだけど、一応遠くから確認してみようと反応のある場所に向かい、通路の角からスキル鷹の目で見たらなんと人間の男女がしきりに背後を気にして走っていたんだ。


 割と自信のあった探知で魔物と人間を間違えたのはショックだったけど、人がいたことに俺は歓喜したね。

 だって地上まで近いってことだし、なにより人恋しかった俺は話しかけようと思ったんだ。

 けど2人は突然止まってさ、赤髪の豪華な装飾の施されたミスリルっぽい鎧を着た美人が男性を怒鳴りつけてた。

 俺は何かモメてるなと思って彼女が落ち着くのを待つことにしたよ。


 それでもどこの国の人間なのかとか、探知した時の違和感とか色々興味が湧いたから、ちょっと鑑定してみようと思って鑑定の魔法を掛けたんだ。

 そしたらその瞬間、赤髪の女性が俺のいる方をキッと睨みつけて怒鳴ってきた。


 やべっ!鑑定って気付かれるのかよって思って咄嗟に身を隠したんだけど、聞こえてくる女性の言葉は聞いたこともない言語でさ。最初さっぱりだったんだけど、だんだんわかるようになって『出てきなさい』とかなんとか聞こえてしまった。


 俺は言語スキル発動してないのに言葉がわかったことに驚いてたよ。

 だって新たな言語を理解するためには、スキルを意識して発動しないといけないのに俺はこの女性に対してそれをしていない。なのに理解できたってことは、俺が知ってる言語だからとしか思えない。俺が知ってる言語。それは日本語とテルミナ帝国の言語だ。


 俺はまさかと思って角から女性をもう一度見たら、2人がいた場所の壁が突然横にスライドして部屋みたいなのがその奥に見えたんだ。

 女性は俺がいる方向を睨みながら、男性に連れられてその中に入っていった。


 俺は『は?』って感じで一瞬固まったけど、すぐにその壁の所に走っていった。

 でも壁はすぐに閉まっちゃってさ。、調べてみると壁の隅には見たことのある魔法陣が描かれていたんだ。


 確か30階層手前から10階層置きに見かけた気がする。どれもここと同じボスの手前、地上からならボスの次の階層にあった魔法陣だ。最初はこの魔法陣を見てもさっぱりだっけど、俺はこの時理解した。

 ここはダンジョンのショートカット用のエレベーターか魔法陣がある部屋だと。


 壁隅にある魔法陣に俺も手を置いて魔力を流してみたけど、壁は一向に動く気配が無かった。きっと何か条件があるんだろう。ネット小説的に考えるならば、地上から順当にボスを倒した者じゃないと駄目とか、地上で何か登録しないと駄目とか。


 それなら俺はこの存在を知らなかったし、最下層から来たから使えないんだなと理解できる。


俺は一旦諦めて、何かから逃げているようだった2人の様子を思い出し、彼女たちが走ってきた道を探知を掛けながら飛ぶことにした。


 そしたら3つの人間の反応と地竜とバジリスクの反応があったから、もしやと思って急いでその場所に向かったんだ。


 俺が到着すると案の定そこは戦場で、手前には2人の女性の死体があり、奥の壁際には怪我をしている様子の2人の女性がいた。そしてその先には、なにかを叫びながら地竜とバジリスクがいる方向にバンザイして走っていく女性が見えた。


 その女性たちはどう見てもエルフと獣人と呼ばれる姿形をしていて一瞬動揺したけど、今はそれどころじゃないと俺はすぐさま滅魔で地竜たちを無力化した。


 そして怪我をしている2人にミドルヒールを掛けて地竜たちを凍らせて改めて彼女たちを見てみると、やっぱりどう見てもエルフと猫獣人と兎獣人にしか見えなかった。


 しかも全員が幅が10cmはありそうな太い黒革の首輪を付けていた。

 さっき見た男女にも、近くでこと切れている2人のオレンジ色の髪の女性の首にもそれは無かった。


 冊子や写真で見慣れた赤髪の美女に言語のこともあり、俺は一瞬で察した。この子たちはテルミナ帝国と呼ばれる国がある世界の子たちだと。


 考えられるのは、ダンジョンが現れてからずっと日本かどこかの国が彼女たちを保護していたのではないかということ。


 身なりから恐らく特権階級の彼らは、奴隷と思われるこのエルフの子たちを解放することを拒んだ。政府は異世界やダンジョンの情報に彼らの武力が欲しいからそれを黙認した。

 世界のオタクたちが黙っているとは思えないが、これが一番現実的だ。


 考えたくない最悪の予想としては、俺がここにいる一年半の間にこのダンジョンが元の世界に戻ってしまったということだ。ある日突然異世界から来たんだから、異世界に帰ることだってありえる。


 もしそうなら俺はテルミナ帝国に捕まってしまう。

 大陸を一国で2000年以上治めている専制君主制国家とか怖すぎるんだけど……


 俺はこのエルフの子たちに色々聞いてみようと思い、緊張しつつも話しかけることにした。せっかくだから白馬の王子的に凛々しい声でね。


 結果は緊張しちゃってちょっとどもったし、名前を聞き間違えられて悪魔公とか日曜の戦隊モノの悪役みたいに思われてしまった。

 言語スキルの故障かなと、苦手な英語とかでも名乗ったけどずっと熱っぽい目で悪魔公様とか言われて大変だった。このエルフの子は悪魔が好きなのかね?


 すぐ近くにいた黒髪で猫耳のモデルみたいな体型の子がやっと理解してくれて、エルフの子に説明してくれたから良かったけどさ。


 そのあとは地竜たちにトドメを差して回り、その手前で尻餅をついて呆然と地竜たちを見ているウサミミのムチムチボディの子に、もう大丈夫だからエルフの子のところに行くようにと言った。

 これは優しい声で言えたと思う。


 そして地竜を空間収納の腕輪に回収して彼女たちのいるところへと戻ってきたら、冒頭の会話になったというわけだ。


 まあ助けられて良かったよ。手遅れだったら俺は自分を許せなかっただろう。こんな美少女たちを死なせたなんてことになれば、また引きこもる自信がある。

 側にこと切れてる女性2人もかなりの美人だが、首輪の存在と身なりからなんとなく同情する気になれなかった。


 それにしてもこのエルフとウサミミの子の胸は……FのエルフにGのウサミミか……いやHはあるかも。

 エルフスレンダー説の多い全年齢対象の小説やアニメじゃなくて、R指定の方のエルフか……いいと思う。


「クツさん……アクツさん? 」


「ん? え? なに? どうかした? 」


 俺がエルフの子とウサミミの子の胸を、何か考えごとをしてる風に装って見ているとエルフの子が話しかけてきた。

 俺は彼女の切れ長の青い目を見て、その整った顔立ちと金糸のような綺麗な長い髪から90度の角度で出ている笹の葉のような形の長い耳にも目をやっていた。


 綺麗だな……それに緑のチュニックに生足もまたイイ……その青い革の胸当てに俺はなりたい……


「はい。アクツさんはチキュウの世界のニホンの人ですか? 」


「ああそうだよ。そうか、君たちはやっぱりダンジョンと一緒にこの世界に……」


「え? 」


「え? 違うの? 」


 あれ? 俺が異世界転移しちゃったパターン? うげっ! それは困る! 俺には復讐しなきゃなんない奴らがいるんだよ。


「ダンジョンというより大陸ごと転移してきたんですけど……1年半ほど前に。知らなかったんですか? 」


「は? 」


「え? ではこのチキュウの世界の国々がテルミナ帝国に征服されてしまったことも? 」


「え? 征服? この世界がテルミナ帝国に? え? ……ええーーーー!? 」



 俺は予想の遥か斜めをいく言葉に、驚愕することしかできないでいた。








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