第14話 一人遊び
「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ……うあああああ! 『滅魔』『氷河期』! 『飛翔』……よいしょっと! ふぅ……あ〜飽きた。もうやだこの単調作業」
俺は数と種類こそ増えてきたが、魔力が無くなると動きを止め崩れ落ちる地竜やバジリスクを狩るのに飽き飽きとしていた。
探知して滅魔を撃って念のため足を凍らせてから、30階層の宝箱から手に入れたユニークスキルの飛翔で上空から剣でトドメを差すの繰り返しだ。
知ってる漫画ネタをやるのも飽きた。誰も仲間がいないのに、『ここは俺が食い止める! 俺に構わず先に行け! 』とかもやったりした。 虚しかった。
もうこれ以上の工夫は不可能に近い。
別にナメプしてるわけじゃない。このダンジョンはそんなに甘くない。が、それでも毎日毎日同じ景色を見て似たような魔物を相手に戦ってるとウンザリするもんだ。
ここは最下層から数えて58階層目。地上を目指してから1年と7ヶ月が経とうとしていた。
え? 掛かりすぎだって?
色々あったんだよ色々。
ラノベでとかでさ、ソロでダンジョンに何年もいたとかいうのあったけど、あれはやっぱ架空の話だなと実感したよ。
こんなネットもないアニメもないそしてM-tubeもなく安全な家でもない敵だらけの場所で、たった一人で戦い続けるには強靭な精神力がないと無理。
30階層までの4ヶ月間は途中で折れそうになりつつも、死んだ仲間を思い浮かべて頑張った。
けどこのダンジョンの、絶対お前生きて返さないからなって意思を感じてからはもう色々嫌になって心が折れた。
このダンジョンは絶対生きていて意思を持ってると思ったね。急に大量の下級竜と地竜が現れたからな。
そんな折れた心の時に、俺は引きこもりグッズに出会ってしまったんだ。
そう、あれは最下層から数えて40階層のボスの上位火竜を倒し終えた時。最下層やほかのボス部屋に必ずある大量の骸。その数は減ってきてはいたが、40階層にも30体ほどの骸が散乱していた。
俺は毎度のことながら倒れていた大量の骸に手を合わせた後に、その装備を回収していた。
するとその中の一体がはめていた収納の指輪から、追加でマジックテント(高級)を見つけたんだ。
そしてそのテントの中を確認してみたら、なんと内装がとても近代的だったんだ。
ほかのやたらとゴージャスで装飾の多いテントと違って、ソファやテーブルのデザインもとってもシンプルでさ、クローゼットに入っていた服も現代で着ても通用するんじゃね?ってレベルだった。
そして書庫にはスキル書が10冊も保管されていた。さらにさらに! 机の引き出しには、なんと写真で撮ったエロ本まであったんだ! 最初見た時はえ? 異世界? え? って軽く動揺したよ。
机の上にあった奥さん? との写真なんかオレンジ色の髪の超絶美男美女でさ。タキシードにドレス姿で幸せそうに笑ってんのよ。リア充爆発しろ! って、もう死んでるのか。骸になるとみんな同じ顔だよな〜南無南無。
んで、書庫にはダブったスキルを保管していたのか、色々なスキルがあったんだ。
俺が覚えてないスキルとしては【危機察知】に【地図】に【言語】のスキルがあったから早速覚えた。
そう! 言語スキルがあったんだよ! 俺は歓喜したね! これであの小説が読めるって! 挿し絵が気になって気になって仕方なかったんだ。我慢できなくて解読しようとしたけどダメだった。
でもこれで読むことができる!
さっそくスキル書を開いて覚えたら、言語だけじゃなくて全部当たりスキルだった。
【言語】は理解したい言葉を聞くことと、理解したい文字を一定数見るとわかるようになるらしい。
【危機察知】は読んで字のごとく。人間の動物的な防衛本能を鋭敏にするようなイメージが伝わってきたから、危険なことが起こる寸前に知らせてくれるものだと思う。このスキルは熟練度上げるの大変そうだ。危険な目に遭わないと発動しないからね。
そして【地図】は自分が歩いた道を脳内でマッピングしてくれるらしい。周囲の壁とかをよく見ればそれも記録されるみたいだ。
これで紙とボールペンからおさらばできる!
それからはこの近代的な部屋が気に入ってここで生活するようになった。広さは30帖のリビングに20帖の部屋2つ、8帖の部屋4つの6LDKと特級の部屋よりは狭くなるけど、俺一人にはまだまだ広すぎるくらいだ。浴室も少し狭くなった程度だしね。
ああ、トイレはオマル座りのままだった。もうアレで固定されたようだ。
その他は設備も同じだし、食糧なんかもまだまだ大量にあるから問題ない。
竜の肉なんてサイコーに美味かったしな。
待望の官能小説の感想としては期待通りの内容だったよ。
もうさ、男の言葉責めが巧みすぎて大変勉強になりました。
目隠しプレイに羞恥プレイ、道具まで使ってアブノーマルプレイもあって目が離せなかった。
それに異世界にもコスプレさせて楽しむ文化があって驚いたよ。どこの世界の男も業が深いよな。
まあそんなこんなで、進めど進めど終わりのないダンジョン探索に心折れてた俺は、この最高の娯楽がある部屋に引きこもってしまった。
もうなにもかも嫌になってたんだ。1人で寂しかった。街の喧騒でもくだらないテレビでもなんでもいいから魔物以外の音が聞きたかった。情けないことに一人でずっと泣いてた日もあった。
人の声が聞きたかった
人の温もりが恋しかった
俺は孤独に押し潰されそうだった
そして俺は一日中マジックテント特級や高級の書斎から持ってきた本を読んでいた。
本を読んでいるときは寂しさを感じなかったからだ。
だってそこに書いてあるのはファンタジー小説も真っ青な、本物の異世界のことが書かれてるんだ。
そりゃファンタジー好きからしたら読むのに夢中になって当たり前だよ。
のめり込むと抑えが効かない俺はずっと読んでた。
そうそう、『帝国と迷い人』って題名の本を手に取った時に、その中にとんでもないことが書かれてたんだ。
なんとこのダンジョンのある異世界に日本人がいたんだよ! いや〜マジ凄い!
現地では迷い人と呼ばれてるらしく、大昔から色々な国の地球人が何人も来ているらしいんだよね。
そんな彼らは現地の人に知識を与えたりして、幸せに生を全うしたらしい。
迷い人は全員がテルミナ帝国ってとこで保護されたそうだ。どうやら異世界には一つの大陸しか存在しなくて、国はこの帝国しかないみたい。
しかもそれが2000年以上続いてるんだって。凄いよな。
まあそんな国の書物だから検閲もあるだろうし、地球人が本当はどうなったかはわからないけどな。
貴族とかが善人だけなはずないし、民主主義とか広められないように一生監禁した可能性だってある。
やべぇ、こんな異世界行きたくねぇ。
一国しか世界に存在しないなら逃げれそうもないな。そりゃ迷い人を全員保護できるか。
地球だったら絶対見逃すだろ。異世界の人の肌や髪の色は地球人と同じだし。ああでも目が赤っぽいかな?
それも色付きの眼鏡やコンタクトしたらわからないか。
まあそういう訳で、この帝国はそういった迷い人から得た技術で発展してきたんだって。
ただ、その迷い人は凄く古い知識しか持ってない人だったり、かなり近代的な知識を持った人だったりバラバラらしい。
多分ラノベ風に解釈すると、次元の渦か何かに巻き込まれて異世界に行く時に、その異世界の過去に行ったり未来に行ったりしたんじゃないかと思うんだよね。
現代人が異世界の過去に行って先進的な技術を伝授したりもすれば、江戸時代の人が技術の進んだ異世界に行っちゃったり? そんな感じなのかなとも思った。
大きなもう一つの発見としては、エルフや獣人がやはり異世界には存在していた。
いたんだけど、どうやら人として扱われてないみたいだった。小説なんかには常に下等な生き物として扱われてた。獣人が言うこと聞かないから殺したとか普通に書いてあって読むのをやめたよ。
人間が2000年も大陸を支配してるんだもんな。その他の種族は迫害される時代もあるか。かわいそうにな。
俺が異世界に行くことがあれば助けてやりたいと思ったよ。エルフに猫耳にウサミミに狐耳を迫害するとかありえないし。
あと日記とかは無かったな。恐らく時の止まってないマジックバッグに入れてたんだろう。それっぽい紙らしき束があったような気がするけど、ボロボロだったから捨てた気がする。あれば情報として見たかったけど、書いた人も死んだあとに見られたくなかったんだろうな。
えっちな本はまあ誰のかわからないしな。ありがとう。
こうして俺は長い期間あらゆる本を読み漁り、えっちな本にお世話になったりの毎日を過ごしていた。
途中このままじゃいけないと思って探索の続きをしたりしたこともあったけど、長くは続かなかった。
それでも亀の速度でも少しずつ探索を進めていくうちに、現れる魔物は弱くなってきた。もしかしたら地上が近いかもと思えるようになってきた。
今までゴールの見えないマラソンをしていたけど、少しだけゴールに近付いてるという実感をしだしたんだ。
もう60階層が近い。次はヴェロキラプトルが現れるかもと、読む本も無くなったこともあり一昨日から本格的に探索を再開したんだ。
そしてやっとこの58階層までやってきたってわけだ。
それでも単調な作業に飽き飽きしているけどな。
俺はトドメを差した地竜とバジリスクを空間収納の腕輪に入れ、魔鉄の剣も腕輪に入れた。
「時間は掛かったけど、あの本を読んだのは正解だったな。お陰で装備の本来の力を引き出すことができるようになったしな」
そう、書斎にあった本の大部分はダンジョンに関するものだった。まあダンジョンで野営するためのテントの書斎だから当然なんだけど、その本を読んだことで鑑定では見れない、ダンジョンでドロップした装備独特の性能や使い方を知ることができた。
鑑定は熟練度ⅣかⅤにしないと高性能な装備の全てはわからないらしいんだ。
だからこういった過去の偉人たちが残してくれた知識は大切だと実感したよ。
結果として俺が手に入れた装備は、神話級・伝説級・英雄級とあるランクのうちその全てだった。
魔鉄の装備は最高級らしく、神話級だったよ。
ただ、使い方が魔力を通さないとその性能を引き出せないようで、俺はハーフプレイトメイルをただ身に付けていただけだったから余計な怪我をしたらしい。
剣は魔力を込めるほど斬れ味が上がり刃先が伸びるらしいけど、魔力を込めて使っていた俺は恐らくそうなんじゃないかなと思っていた。
詳しい性能はあとで話すとして、とりあえず防具は目立つので黒竜の革鎧に変えた。マントもブーツも鎧も黒竜で揃えてみたんだ。これ全部伝説級だけどね。
厨二っぽいけど性能が使いやすいから仕方ない。こっちの方が雑魚相手にはいいんだよ。
剣は魔鉄の剣をメインにして、ミスリルの剣をサブに使うことにした。
ミスリルの剣は英雄級で全然良いものだ。神話級ってのがレア過ぎるんだ。
普通は英雄級が宝箱から出ると大当たりみたいなことが書いてあった。
これまでボス部屋の宝箱と通路の宝箱に、骸たちからの拾得物も含めかなりの数の装備と魔道具を手に入れている。そのうち整理しないとなとは思ってる。伝説級のビキニアーマーとかあって気になるしね。着せる子いないけど。
「恵美ちゃーん! ミサキちゃーん! 神の手の琴美ちゃーん! 会いたいよー! お店やめないでねー! あの腰使いをもう一度! むーなさわーぎ○ーこし○ーきー♪ ララララララー♪ 」
この時の俺は色々と溜まっていてアーパーになっていた。
そうしてしばらく歌っていると当然バジリスクなんかが寄ってくる。が、俺はその単眼から発せられる石化光線が出る前に滅魔で行動不能にして、魔鉄の剣に魔力をこめてサクッと首を落としまた歌いながら歩いて行った。
もう敵じゃないんだよこのレベルの魔物はさ。
ちなみに今のステータスはこんな感じだ。
阿久津 光 (あくつ こう)
種族:人族
体力:SS
魔力:SS+
力:SS
素早さ:SS-
器用さ:SS+
取得ユニークスキル: 【滅魔】.【結界】.【飛翔】
取得スキル:
【鑑定 Ⅲ 】. 【探知 Ⅲ 】. 【暗視 Ⅳ 】. 【身体強化 Ⅳ 】
【スモールヒール Ⅲ 】. 【ミドルヒール Ⅳ 】.【ラージヒール Ⅳ 】.【錬金 Ⅲ 】.【調合 Ⅱ 】.【硬化 Ⅲ 】
【鷹の目 Ⅳ 】.【遮音 Ⅳ 】.【 隠蔽 Ⅳ 】.【危機察知 Ⅱ 】.【地図 Ⅲ 】.【言語 Ⅳ 】
【風刃 Ⅳ 】. 【炎槍 Ⅳ 】 .【氷槍 Ⅲ 】.【氷河期 Ⅳ 】 .【圧壊 Ⅲ 】.【地形操作 Ⅲ 】
【 千本槍 Ⅲ 】.【灼熱地獄 Ⅲ 】.【豪腕 Ⅲ 】.【追跡 Ⅲ 】
備考: 【魔を統べる者】
まあヒール系は竜相手に斬ったり回復したりで上げまくった。俺の命がかかってるからな。そこは残酷とか言ってられない。その他は攻撃系スキルはなるべく使うよう意識している。
鑑定はやはり上がり難い。サボってたのもあるけど、Ⅳが遠い。言語が上がってるのはまあ察してくれ。毎日欠かさず読み返している小説があるんだよ。
ユニークスキルの【飛翔】はそのまんま空を飛べる。スピードは魔力を込めた分だけ上がるけど、地上なら結界張りながらじゃないと風圧や冷気が凄くてスピードは出せないかもな。それなら時速300kmは出せるんじゃないだろうか?
小回りも利くしなかなか使い勝手がいいスキルだ。スピードを出すと魔力消費が激しいから普通の人は出せないと思う。
これで将来恋人ができたら空のデートに連れて行ってあげれそうだ。
緑の服と帽子を被って彼女の家の窓から手を差し伸べ……不審者だな。通報されそうだ。
でもこのスキルを覚えた時は俺も下級竜みたいに壁を超えてショートカットとかできると喜んだんだ。
まあできなかったんだけどね。壁より高くは飛べなかった。滅魔も効かない見えない天井があったんだ。
マジでズルくね?
【灼熱地獄】は氷河期の炎版かな。広範囲を焼き尽くすスキルだ。インフェルノ! って叫んで遊んでたら熟練度が上がったよ。
【豪腕】 は力が2倍になるスキルだ。力の腕輪より効果が高いけど、効果時間は短い。熟練度Ⅲで15分くらいだった。それでも俺には十分過ぎる時間だけどな。
【追跡】はその名の通りマーキングした魔物や物を追跡できるスキルなんだけど、一定の距離まで近づかないとどこにいるかわからない。
一応熟練度Ⅲでこのフロア全体はカバーできてると思う。天空の城の光る石みたいに光でナビしてくれたら楽なんだけど、これは範囲内にマーキングした対象がいると感覚的にどの辺にいるかわかるというものだ。
一応ヤバイ魔物から逃げる時に役に立つから熟練度は優先して上げてるよ。
ステータスはまあ、ぶっちぎりで世界最強だと思う。
竜ばかり相手にしてたらこうなるよな。スキルが強過ぎてあんまり恩恵を感じないが……
ステータスが高くて悪いこともないからいいんだけどさ。
「おっ! 59階層行きの階段はっけーん! 琴美ちゃーん! 今いくよー! 」
この時の俺は、この先にこの後の人生を変えるほどの運命の出会いが待っていることなんて想像すらしていなかった。
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