第7話 挑戦
「こうか? 『吸魔』……おお〜入ってきてる。んで、『魔力譲渡』……お? 出ていってる。これなら……」
期待した宝箱から今はハズレの長寿セットを手に入れ、軽く5分くらい地面に頭を付けて落ち込んでいた俺は、ドラゴンのイビキの音で我に返った。
嘆いていても何も解決などできないし、今はそんな余裕はない。
今あるスキルと装備でここを出る方法を考えるべきだと思い、まずは宝箱にあった吸魔と結界のスキルを覚えその効果を正確に把握することにした。
鑑定じゃ名前しかわからないしな。
その結果、光明が見えた。
結界のスキルは正直言って今は使い物にならなかった。込めた魔力量により耐久度と効果が変わるからだ。魔力がFランクの俺が、いくら魔力を込めてもドラゴンの攻撃を防げるとは思えない。
光明が見えたのは吸魔のスキルだった。これは生物と物質に宿る魔力を、視界内であれば遠距離からでも吸収できるものだった。しかも範囲を指定してその範囲内にある魔力も吸収できるという優れものだ。
魔力譲渡スキルは触れる必要があったから、吸魔スキルも対象に触れないと吸収できないと思っていた。
けど実際は違った。触れなくても吸収できる。つまりドラゴンの魔力を安全な場所から吸収できる。
でもそんな強力なスキルは使用制限に引っかかるんじゃないか? またぬか喜びになるんじゃないかと思って自分を鑑定したんだ。
そしたらなんと使えることがわかった。しかも吸魔スキルと魔力譲渡スキルと結界スキルはユニークスキルという分野だった。俺の頭の中に浮かんだステータス表示はこんな感じだ。
阿久津 光 (あくつ こう)
種族:人族
体力:F-
魔力:F+
力:F-
素早さ:F
器用さ:F
取得ユニークスキル: 【魔力吸収】.【魔力譲渡】.【結界】
取得スキル: 【鑑定 Ⅰ 】. 【探知 Ⅰ 】. 【暗視 Ⅰ 】. 【身体強化 Ⅰ 】. 【スモールヒール Ⅰ 】.【錬金 Ⅰ 】.【調合 Ⅰ 】
使用制限 : 【風刃 Ⅰ 】. 【硬化 Ⅰ 】 .【炎槍 Ⅰ 】 .【氷槍 Ⅰ 】. 【ミドルヒール Ⅰ 】 . 【氷河期 Ⅰ 】 .【圧壊 Ⅰ 】.【地形操作 Ⅰ 】
ユニーク……確か独特なとか同じものが他に無いとか、とにかく特別なスキルのはずだ。異世界転生ものの小説では、ユニークスキルって言ったら少数の人しか持っていない特別なものだった。
それにこのユニークスキルには熟練度ランクが無い。つまり制限が無いってことだ。
攻撃スキルなんかだと熟練度によって出現させられる数が変わるらしい。炎矢だと熟練度 Ⅰ だと1本の矢だけど、Ⅱ になると2本になるらしい。威力は込めた魔力の量によって変わると思う。たぶん。
まあつまり制限が無いということは、無限に吸収できるってことだと思うから、魔力譲渡のスキルと組み合わせれば使い方次第で俺は最強になれる……はず。
そう思ってまずはスキルの練習をしてみた。本当に制限が無いのか試すためだ。
まずはマジックバッグに大量に入っていた、売れば1個100万はしそうな拳大の魔石を取り出し吸魔のスキルで魔力を吸収した。ほかにも人の頭ほどの大きさの魔石もあったが、見たこともない大きさだったので恐らく高く売れると思い魔力を吸収するのはやめた。
なのでマジックバッグに入っていた一番小さいこの拳大の魔石でやることにした。
ゴブリンの魔石がどんなもんだったかって? 粒だよ粒。拳とは程遠い砂利石みたいな大きさだったよ。
その拳大の魔石から魔力を吸収したあとは、ほかの魔石に魔力譲渡してみた。
魔力譲渡する魔石は、本当は魔力を使い切った魔石があればいいんだけど残念ながらバッグには入ってなかった。まあ当然だよな、使用済み魔石なんて保管しておかないもんな。
そういう訳だから仕方なく魔力のある魔石に追加で魔力を注いだ。すると魔力譲渡された魔石の色が濃くなった。
魔石は濃い色の方が高く売れるから、これは魔石に魔力が溜まったと判断していいと思う。
そして当然このスキルは魔力を吸収するわけだから、魔力は消費しなかった。小説とかでたまにある体力とか生命力的なものを代わりに消費するのかなと思ったが、特別身体が怠くなることもなかった。これは今の俺にはありがたい。
俺はこの動作をスムーズにできるようになるまで何度か繰り返した。
それから30分ほど魔石から魔力を吸収して別の魔石に譲渡することを練習し、コツを覚えた俺はなんとかスムーズに吸収と魔力譲渡をできるようになった。
イメージ的には上司のねちっこい自己満足の説教を右から左に流す感じだ。身体の中には溜めないことを意識すると、なんとなく魔力を譲渡する効率が良くなった気がした。社畜の経験がまさかここで生きるとはな……
魔力を吸収して自分の魔力を補充するスキルなのに、魔力を身体に溜めないとかこのスキルを作った人? 神? が怒りそうなものだが、今は俺のちっぽけな魔力タンクにはこれでいいんだ。
そして……
くっ……怖え……魔力を抜かれて起きないだろうな?
俺はドラゴンのぶっとい尻尾を見つめながら、扉の陰から顔と右腕を出していた。
扉の裏には大量の魔石がある。
逃げることに成功した時のために、目ぼしい装備と金貨や宝石類を空間収納の腕輪に入れてある。
この空間収納の腕輪は黒いなんの鉱石かわからない素材でできている腕輪で、腕にはめた瞬間に自動サイズ調整された。外し方が全くわからないけど、使い方としては小説なんかで見たように収納と念じるだけで触れた物を収納できた。
最初目の前からフルプレイトアーマーセットが消えた時は、思わず声が出そうになるくらい驚いた。これはいいものだ。
お宝はいくらでも入りそうだったが、お宝が発する魔力的なものをドラゴンが感知していて、それが急になくなったことで起きたら怖いから8割以上は残してある。
逃げれたらもう二度と来ることはないだろうが、逃げれなかったら俺がこの世に二度と戻れなくなるからな。命大事にだ。
よし! やるぞ! 完全に気付かれたらこの部屋を出て一か八かでダッシュする。この部屋にいてブレスみたいなの吐かれたら逃げ場がないからな。なんか出口が遠いが、ここを出てドラゴンの近くで魔石をゴロゴロ置きながら魔力を吸収するとか無理!
落ち着け……まずは少しずつ吸収して様子を見よう。
いくぞ……『吸魔』『魔力譲渡』
俺は覚悟を決めて震える手をドラゴンに向けて吸魔のスキルを発動し、すぐさま魔力譲渡のスキルで吸収した魔力を人の頭ほどの大きさの魔石に流し込んだ。
よしっ! ドラゴンはピクリとも反応していない。次はもっと多目に……『吸魔』『魔力譲渡』。
俺はドラゴンが無反応なことに歓喜し、少しずつ吸収する魔力を増やしていった。が、あっという間に魔石が色濃くなり、これ以上魔力を入れられない感覚が伝わってきた。
さすがドラゴンだな……この大きさの魔石でも10個じゃ足らなさそうだな。時間は掛かるが拳大の魔石に入れていくしかないな。
俺は魔石を次々と交換してドラゴンから魔力を吸収していった。
人の頭ほどの魔石全てがいっぱいになったところでドラゴンが身動きしたりして焦ったが、こちらを振り向くことはなく、俺は拳大の魔石に持ち替えて魔力の吸収と譲渡を繰り返していった。
それから1時間ほど経過し、緊張と集中で俺は心身ともにヘトヘトになっていた。
しかしその甲斐あってか、ドラゴンの身体から魔力を吸い取りにくくなった。
そして遠目に見えるドラゴンの口元からイビキと共に出ていた炎が出なくなった。ドラゴンも心なしかなんだか怠そうに見えるし、何よりドラゴンから強烈に感じていた威圧感のようなものが弱くなった気がする。
俺の周囲にはものすごい数の色濃い魔石が散乱していた。
危なかった。もう譲渡できる魔石がなくなるところだった。500近くはあった魔石全部使うとは思ってなかった。
俺はこれならドラゴンはもうブレスを吐けないだろうと思い、散乱している魔石を空間収納の腕輪に取り込んでいき部屋を出る準備をした。
そして扉からゆっくり出たところで、ドラゴンと目が合った。それはもうバッチリと……
え? あ……ああ……起き……た?
《 グルルルルル 》
俺はこの時、人生最大の危機を迎えたのだった。
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