202話 迎え撃つ⑦

「キヨト曰く、『真打ちは遅れて登場する』もんなんでしょ? 戦えなかった分、ここで活躍させてもらうわよぉ!」


機動鎧の兜のせいでくぐもっているものの、それを貫くほどにに溌剌とした声のソフィア。ガシャンと鎧の両手を打ち鳴らし気合を入れた。


「その機動鎧も空飛べたんですね…!」


以前の盗賊退治の際に見たソフィアの機体は細めだったのに対し、今回の機体は彼女の家に飾ってあるかのように重厚な機体である。およそ飛ぶとは思っていなかったのだが…。


「前のは高機動優先の試作機なのよ。ちょっち軽量化しすぎちゃったから飛行制御が上手く出来なくてすぐ降りちゃったけど…。これぐらいの大型の方が私は慣れてるの!」


明らかにソフィアの体格とは釣り合わないはずの機動鎧だが、彼女はクイクイと腕を足を指先を自由自在に動かす。少しジェットをふかしその場で三回転もしていた。軽やかである。


「空を飛ぶことを鳥人や魔族、魔術士達の専売特許にさせる気なんてないわ! でもとりあえず降りましょ!魔王城からずっと飛んできたから少し地面恋しいし!」


ドスンッと着地する機動鎧の横に、さくらと賢者も降り立つ。下から見上げるとなると、迫ってくる巨大竜は実に恐ろしい。


「まだ大量にあるわよ! 発射!」

追加のマジックミサイルを撃ちだし、竜崎達を支援するソフィア。戦力が増え、その分余裕ができた一行は一箇所に集う。


「このままあの竜の侵攻を許すわけにはいかない。仕留めるぞ」


方針を定めた魔王だったが、そこに待ったをかけた者が。賢者である。


「ちょい待て。少々試したいことがあるのでな、あやつの足を止めて少し時間を稼いでくれんかの?」




「そういうことなら私にお任せあれ!アリシャやラヴィちゃんだと勢い余りそうだものね。キヨト、行くわよ」


「わかった。アリシャとラヴィは魔王の護衛を」


立候補したソフィアとお呼びがかかった竜崎は共に空中へ。片やジェットをふかし、片や魔法陣を蹴ってようやくトリモチを千切った竜の顔へと突き進んでいった。


「グルルォオオ!」


腹いせと言わんばかりに、巨大竜は火焔を吐き出す。竜崎はソフィアの前に立とうとするが…。


「たまには私に守られなさいな!」

ぐいっ!


「うおっと!?」


ソフィアは竜崎を抱きしめ、炎に向け腕を出す。ブオォンと発生した障壁シールドは巨大な盾のように展開し、吹き付ける火焔から機動鎧、そして竜崎達を守る。


「これぐらいならお茶の子さいさいね!」


ふふんと誇らしそうに鼻を鳴らしたソフィアはジェットの勢いを更に強める。そのまま火焔の中へと突っ込み、最短距離で竜の眼前へと迫った。


「!?」


驚いたのは竜の方。丸焼きにされているはずだった小さな敵が五体満足で目と鼻の先まで来ているのだ。なんとか噛み砕こうと首を動かすが―。


「いくわよ!」

「おう」


即座に分離したソフィアと竜崎は示し合わせたように竜の周りをぐるぐると。ジェットの炎や精霊の輝きに惑わされ、竜はただ悪戯に首を動かされ、目を回してしまう。しかもそちらに集中してしまい、侵攻はピタリと止まってしまった。


「グルル…」


いい加減苛立った竜は機動鎧達の捕獲を諦め歩を進めようとする。だが勿論それが許されるわけなく…。


「キヨト、雷貸して!」

「腕にかい? はいよっと」


再度空中でランデブーした2人。すると、竜崎によって機動鎧の両腕に雷が付与され、バチバチと輝き始めた。


「よぅし! 痺れなさいな!」


ソフィアはブーストをかけ一気に竜の顎下へと潜り込む。そして―。


「どーーーん!!」

ドゴォッ!


機動鎧は全速力で急上昇。竜の顎に思いっきりアッパーを食らわせた。


「ギャフッ…!?」


その一撃に、竜は思わずよろける。しかも雷が付与されていたせいでその顔は痺れてしまい、火が上手く吐けず少しの間悶えるだけとなってしまう。


「へいへーい!竜さんこちら!」


―どうした?早く火を吹いてこい―


首をブルブルさせなんとか回復した竜が目にしたのは、空中で煽ってくる機動鎧とニアロンの姿。痛い思いをさせられた腹いせに、竜は勢いよく火焔ブレスを吹き付けた。


―お、来た来た―


「ソフィア、無理そうだったらすぐ言えよ? 全く無茶するんだから…」


「実験に危険は付き物よ!」


呆れた様子の竜崎は機動鎧の後ろに。と、彼は自分にだけ障壁を張った。そしてソフィアは…、なんとシールドシステムを展開せず、棒立ちのまま火焔を正面から受けた。


当然その身は火焔に包まれる。どう見てもただでは済まないが―。


「耐熱処理も結構いい感じ!これなら工房の窯の前にいるのと同じぐらいだし、『永炎の地』に新しく卸せそうね!」


火が消えた後も機動鎧は健在。表面が多少煤けた程度である。どうやら機動鎧の耐熱性能を試していたらしい。しかし、搭乗者ありでその実験とは…豪気としか言いようがない。




「ようやく来たかの」


と、賢者が空を見上げぼそりと呟く。ソフィア達の様子を口を開けて眺めていたさくらもそれに気づき視線を動かすと―。


「流れ星?」


空高く、一陣の光がどこからともなく飛んできている。だがそれは流星ではない。なぜなら…。


「わっ!曲がった!?」


巨大竜の真上にたどり着くと、その光はクンッと曲がり竜の頭へと降り注ぐ。すると、彼はまるで憑き物が落ちたかのようにストンと落ち着いた。


「あれってもしかして!」


空を翔けるあの光、そしてそれに当たった竜が突然鎮まる。これって…! とあることを思い出したさくらに、聞き覚えのある声がかけられた。


「わらわの力だ」


ハッと振り向くさくら。賢者の手の上にちょこんと立っていたのは―。


「ニルザルルさん!」


『魔神』神竜ニルザルル、そのだった。

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