203話 迎え撃つ⑧
ズゥウン…とゆっくり倒れた竜。それとほぼ同時にソフィアと竜崎も降りてきた。
「ニルザルルじゃない!久しぶり!」
「ソフィアか。やはりその鎧姿では一瞬誰だが分からんものだな」
ガシャンガシャンと鎧を揺らしながら、賢者の手の上に召喚された神竜に手を振るソフィア。だが挨拶をそこそこに賢者が口を開いた。
「あの竜じゃが、『竜の生くる地』で行方不明となった竜の一体と特徴が一致しておる。ニルザルルも同意した。リュウザキよ、お前さんの教え子が送ってきた資料の34頁目に描かれていた竜じゃ」
「はい、確かに同じ竜だと思います。…最も、巨大化していますが」
その資料の存在こそ知らなかったものの、さくらもふっと思い出す。以前ニルザルルを訪ねに行った際、竜崎の教え子であるエルフの女性からそのような話を耳にした。まさかこの戦いに姿を現すとは…。しかも巨大化しているということは、間違いなく他の獣たちのように強化されてしまっているということであろう。
「残念ながら、わらわを以てしても竜達の動きを全て把握することは無理だ。故にあの
妖精のように小さいニルザルルは賢者のしわしわの手に腰かけ、そう説明する。いくら魔神と言えど不可能なことはあるようだ。とはいえそれなら有難いと喜ぶ竜崎達。さくらもほっと息をつき、ふいと眠る竜の方に視線を移すと―。
「ひっ…!?」
つい先ほどまで目を瞑っていた竜の眼が最大まで開き切っていたのだ。しかし、誰かを睨みつけるのではなく、焦点が全く定まっていないような目の動きである。さくらは思わず小さい悲鳴をあげてしまう。
それに気づき、竜崎達もハッと竜の方を見る。と、それと同時に竜はその巨大な身を起き上がらせた。
「ニルザルル、起こしたのかの?」
地を大きく揺らしながら立ち上がる竜を警戒しつつ、賢者は手元のニルザルルにそう問う。
「いや…わらわが命じたのは『起きる許可を出すまで眠れ』ということだけだ。そしてその許可は出しておらぬ。わらわの力を打ち消したのか…!?」
だが帰ってきた回答はそれ。ニルザルル自身も予想外の出来事らしく、眉をひそめていた。
「グアアアァア!!」
鼓膜をつんざくほどに大きく吼えた竜は、その口内にボウウと炎を溜める。そして青白い火焔を吹き出した。しかし、その勢いは先程までの火焔の比ではないほどに苛烈だった。
「これは危険じゃの…!」
賢者は即座に詠唱。魔獣退治をしていた勇者達をも包みこむ障壁を作り出す。そこにすぐさま火焔が襲い掛かった。幸い障壁が破れることはなさそうだが、外に居た獣達は即座に焼き焦げ悲鳴をあげることなく骨と化した。慰霊場の目の前までの草原や森も広範囲が焦土と化し、その威力をまざまざと物語る。
―む。清人、竜の口元を見ろ―
火焔を吐き終えた竜を見て、何かに気づいたニアロン。注視してみると、竜の口はグズグズに溶けており、黒焦げになった牙のようなものがボロリボロリと零れ落ちてきた。
「――!!」
竜は叫ぼうとするが、声が一切出ていない。追加で火を吐こうとするが、それも出てこない様子。どうやら、あまりの高火力に体内まで焼け焦げたらしい。
苦しみ悶える様子の竜は、そのままさくら達がいる障壁へ顔や首を叩きつけ、体や尾でぶつかり、足で踏みつぶす。そんな巨体の暴れ様は追加で走り寄ってきた魔獣の悉くを叩き潰した。しかし障壁は固く、ぶつかる度に竜の鱗は千切れ飛び、肉は裂け、血が噴き出す。だが、竜は攻撃を止めようとはしなかった。
「自らの身も顧みないとはの…」
「暴走してますね…」
その壮絶さに賢者と竜崎は思わず言葉を漏らす。このままでは竜が自滅してしまうだけ。なんとかしなければと必死にさくらは頭を捻る。
「そうだ…!オグノトスの時みたいに『魔術を壊せば』…!」
思いついたのは、霊獣『白蛇』の出来事。巨大化していた白蛇は学園長の妙技によって解呪され元の大きさへと戻った。もしかしたらその方法が使えるのでは…!
しかしこの場に学園長はいない。今から呼んでくるにも、その間に竜は死んでしまうかもしれない。だが、ここにはその技を受け継いだ娘がいるのだ。
「ラヴィさん…!」
そう。ラヴィ・マハトリー、魔王の護衛を務める彼女のことである。
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