179話 レドルブを歩く
「あれも~♪ これも~♪ 色々買える~♪」
あっちへふらふらこっちへふらふら。ネリーは気になる店を片っ端から覗き、飲み食い買いを繰り返している。友人であるモカは流石に不安になり、少し注意をする。
「ネリー買い過ぎじゃない?」
「へーきへーき!だって
彼女の言う通り、ここで見かける商品はアリシャバージルで売られているものよりそこそこ安い。レドルブは商品の中継地であるため、輸送費護衛費による値段の上乗せ分が多少減額されているようだ。また、荷崩れ品も結構な数が出るらしく、割引価格の品も山ほどである。
更には人界魔界のあらゆる地域から様々な商品が集まる。魔神の棲む地で作られた質の良い武器防具や、各里の特産品、地方特有の植物動物などである。ネリーが狂喜乱舞するのも仕方ない。
「もう…しっかり仕事はしてよね」
「勿論! えっとね。さっき聞いたのは…」
とはいえネリーのような性格は情報収集にはうってつけ。裏心を一切悟られずに話を聞き出してくるのだ。モカもまた獣人としての能力を活かし、周囲の会話を盗み聞き。それを司令塔となったアイナとさくらがノートに纏めるといった形で任務を遂行していた。
「…あの店で聞いたのはそんな感じかなー。あ!あの店気になる!行ってきまーす!」
幾つかの情報をさくら達に伝え、ネリーはまたも近場の店へ飛び出していく。さくら達がそれを引き止めずに向かわせるのはネリーの腕前によるところもあるのだが、もう一つ理由があった。
「おっ!これ美味しそう!お姉さんこれ5つ!」
「あらまこんなおばちゃんにお姉さんなんて!良い男だし安くしてあげるわ!」
「わぁほんとに!気前良い!ありがとう!」
ネリー並みに、いやネリー以上か。まるでテーマパークに来た子供のようにはしゃいでいるのはオズヴァルドである。
教師である彼がここまでやりたい放題しているのだ。ネリーもそれに乗じてやりたい放題。街で情報収集という未知の任務であるため、さくら達にも何が正しい行動なのかが分からない状態である。ネリーを叱るに叱れない。
「はい皆、これ凄く美味しいよ!」
先程買ったおやつをさくら達に配るオズヴァルド。いつの間に購入したのか、帽子やマントを纏っている。もはやその見た目は学園の教師とはわからない。確かにここまで満喫していれば「追悼式」のため警戒にあたっている人だとは思われないだろうが、オズヴァルド自身はそれを考えているかというと…。
「やっぱこの街は良いなぁ!楽しい!」
考えてなさそうである。オズヴァルドのお守り、その意味が分かった気がするさくらである。
そんなオズヴァルドとネリーに振り回されつつ街を歩くさくら達。ふと、さくらはあることに気づいた。
「なんかここ、色々な国の兵士さんいませんか?」
時たま見かける警ら兵には見覚えのある鎧を着こんでいる者がちらほら。魔王軍、アリシャバージル、ゴスタリア、ラグナウルグル、オグノトス…。彼らは所属入り混じり、国の垣根を超えた様子で楽し気に会話をしながら見回りをしていた。
すると今度は果物を人数分買ってきたオズヴァルドがそれを手渡しながら肯いた。
「その通り。ここレドルブには魔王軍や各国騎士隊の一部が常駐しているんだ。商人を狙う盗賊達の討伐、それぞれの国に運ばれる品々の確認とかもしている。そしてもう一つ理由があってね。元主戦場であるこの地に各国の兵を集わせ仲良くさせることで、人界魔界、各国各里が共存共栄の道を進んでいることを商人達や観光客にアピールしているんだ。この発案者はリュウザキ先生なんだよ!」
何故か胸を張るオズヴァルド。と、何か思いついたらしく―。
「そうだ、リュウザキ先生に倣って献花しようか!」
突然のオズヴァルドの提案で、一行は花を買いとある一角へ。そこは商人でごった返す通りとは打って変わり、静かな雰囲気が漂っていた。
「ここって?」
「レドルブで亡くなった人達が眠っている場所だよ。リュウザキ先生はレドルブに来るたびここで慰霊をしているんだ。あ、『追悼式』が近いからか結構もうお花があるね」
率先して花を置き、黙祷を捧げるオズヴァルド。その後ろ姿ははどこか竜崎の祈り方と似ているようにも見える。
さくら達も彼を真似、黙祷をする。ここが主戦場だったということは、竜崎達もここで戦い、当時の魔王軍を追い返したのだろうか。そして、弔いの墓を作ったのもまた、彼らなのだろうか。自身が知らない世界の過去、しかし竜崎が経験したその過去に思いを馳せるさくらだった。
「お、あれ良いかも!さくらさんちょっと来て!」
墓前からの帰り際、オズヴァルドは何かに目をつけたらしく、珍しくさくらを名指しする。彼が入ったのは小物を売る店。そこの一角にある伊達メガネのところにオズヴァルドは足を運んでいた。
と、オズヴァルドはそのうちの幾つかを選び取りさくらの前に提示した。
「リュウザキ先生にどれが似合うと思う?」
「えっ! うーん…これですかね?」
突然のそんな質問にさくらは驚くものも、竜崎に似合いそうな眼鏡を指さす。するとオズヴァルドは一際嬉しそうな声。
「お、意見が一致した!これ買おう!」
そのまま彼は会計に走り、購入。あまりの早業に少々呆れつつ、戻ってきたオズヴァルドにさくらは問う。
「なんで私に聞くんですか?」
「だってさくらさん、学園に来てからリュウザキ先生と良くいるからね! そういえばさくらさんも私と同じくリュウザキ先生に助けられた口かい?」
「え、あはは…。まあそんなところです」
逆に鋭い質問を投げ返され、笑い誤魔化すさくらであった。
その後も暫く街を散策する一行。アイナが持っているノートは結構なページが埋まった。そろそろ引き上げ時なのかなとさくらが考えていると―。
「? あれって精霊…?」
人の隙間を縫うようにするりと現れたのは一匹の中位精霊。オズヴァルドの肩にふわっと乗ると、何かを耳打ちする仕草。しかし精霊は言葉を喋れないはずだが…。
「ふんふん…はーい。リュウザキ先生から。組合本部に来てくれ、だって」
「え、精霊が喋ったんですか!?」
さも当然のように伝達したオズヴァルドに驚くアイナ達。しかしさくらには思い当たる節があった。
「『精霊伝令』ですか?」
さくらがこの世界に来て直後、竜崎が行った謎の魔術『精霊伝令』。確か世界中の精霊に伝令を頼む技だと彼は言っていたが…。
「良く知ってるね!見たことあるの!?」
オズヴァルドはかなり面食らったような表情をする。さくらが思わず頷くと、彼は羨ましそうな表情を浮かべた。
「良いなぁ…私もあれまた見たいなぁ…。あ。ごめんごめん。その通り、この世でリュウザキ先生だけが使える大技『精霊伝令』その一端の技だよ。こうやって受け手をピンポイントで絞ることもできるんだ。最も、受け手に相応の精霊術の覚えが無ければ意味ないんだけど…。私はリュウザキ先生に直々に教わった1人なんだ!」
自慢するかのようなオズヴァルドはそのまま組合本部がある方向へと歩を進める。さくら達も慌ててそれについていく。
竜崎が、竜崎は、竜崎に、を繰り返すオズヴァルド。命の恩人に対して気軽に話しかける彼だが、その内心は竜崎に対してかなりの尊敬を抱いているようである。
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