180話 学園教師の仕事ぶり

オズヴァルドとさくら達は商業組合本部へと向かう。すると、向かうにつれ周囲から次第に店が減っていくのにさくらは気づいた。店が減れば観光客も減る。代わりに商人然とした人々が多くなり、周りの建物は倉庫が主だってきた。そしてもっと目立つのが…。


「機動鎧ばかり…!」


所謂パワードスーツの役割を果たす、竜崎起案ソフィア製作の鎧『機動鎧』。戦時中に初めて開発されたそれは今や一般用に改良が加えられ全世界に広がっている。


ソフィアが住むアリシャバージルに限らず、ゴスタリアやドワーフの国、魔界の村や魔神の棲む地、ここレドルブの街中などなど…どこでも結構見かけていたその鎧だが、ここの数は尋常でない。荷卸し積み込み運び込み…。元の世界ではフォークリフトとかで行われるその仕事を機動鎧が行っていた。流石はパワードスーツ、どんなに重そうな箱だろうがひょいと持ち上げ運んでいく。中には馬や竜に代わり大量の荷物が積まれた荷台を引いている者もいた。


そんな様子を物珍しそうに見回すさくら達を連れ、オズヴァルドはとある建物に。


「学園のオズヴァルドです。リュウザキ先生に呼ばれました!」


元気よく挨拶をする彼。既に話は通ってるらしく、受付担当に案内される。その道中、受付担当はとても嬉しそうにオズヴァルドと話していた。


「今年はリュウザキ様とオズヴァルドさんとは…。この後が楽しみですね!」


「ふふん、まあ任せてください!」


竜崎達は任務で来ているのに楽しみとは?首を傾げるさくらだが、それを聞く前にとある部屋に到着した。


「オズヴァルド、只今到着しました!」

扉を勢いよく開け彼は中へ。さくら達も続けて中に入る。


「お、来た来た。お疲れ様オズヴァルド先生、皆」


―その様子だと全員街を堪能してきたようだな―


部屋の中に並べられた机には沢山の書類が山積み。竜崎は椅子に座り、それらを次から次へと確認していた。



「どうぞお土産でーす!」


オズヴァルドは竜崎の元にいの一番に寄ると、竜崎達用に買っていた食べ物や飲み物を渡していく。


「わぁ有難う!お、これ好きなんだよなぁ」


―妙に私達の好みを心得てるよなオズヴァルドは。 うーん美味い―


早速食べ始めているニアロン。と、オズヴァルドはもう一つお土産を竜崎に手渡した。


「ん? 伊達眼鏡?」


「似合うと思いまして!」


屈託のない笑顔のオズヴァルドを見て竜崎は微笑み、カチャリと眼鏡をつけた。


「どう?似合っている?」


さくら達にもその顔を見せる竜崎。優し気な彼の印象に合わさり理知的な雰囲気が加わった。ますます教師みたいである。


―ほぉ。結構似合ふもんはな―


「飲み込んでから喋ってくれニアロン、行儀が悪いぞ。…じゃあ今日一日つけたままでいようかな」


もぐもぐしながら感想を述べた彼女を軽く嗜めながら、竜崎は何かを思いついたらしく座ったままもそもそと姿勢を変える。机に両肘をたて、両手を軽く組み口元へ。そして、何を思ったか詠唱。魔術で眼鏡のレンズを光らせた。


「眼鏡をつけるとこれがついやりたくなるなぁ…。あの人は確かサングラスだったし、髪色は黒だったけど…」


そう小さく漏らしポーズを決める竜崎。オズヴァルド達は首を傾げていたが、さくらには少し見覚えがあった。どこかのロボット(正確には違うらしいが)アニメだか映画だかで司令役かつ主人公の父親だったとあるキャラに。



「髪色と『先生』って職業的にあっちの方が合ってるんだろうけど…。あの人、太ってるのが特徴だしなぁ…」



更にそんなことを呟きつつ、数秒それをやって満足したのか、眼鏡の光を消し座り直す竜崎。表情も元の柔らかなものに戻り、今度はさくら達に声をかけた。


「どう?頼んでおいたお仕事できた?」


それを聞いたアイナは作ったノートを竜崎に手渡す。どれどれ…と中を確認する竜崎をさくら達は固唾をのんで見守る。気分は作文や宿題の添削である。


「うん!すごく読みやすくまとまってる!内容もここには無かった情報ばかり!皆やるね!」


顔を上げた竜崎はそう褒めちぎる。ほっと胸を撫でおろすさくら達であった。



「あ、そうだお金を…」


と、アイナは身に着けていたお金入りの袋を竜崎に返そうとする。情報収集用に貰った資金なのだから、任務が終わったら余りを返却するのも当然だろう。さくらとモカもそれに倣う。


唯一ネリーだけは少し渋っていた。仕事に集中していたさくら達は(ちょこちょこ色んなものを買ってきてくれたオズヴァルドのおかげもあって)ほとんどお金を使わなかったのだが、ネリーのだけは中身がかなり減っていた。それが恥ずかしいのか、返すのが勿体ないのかは定かでは…いや後者であろう。


すると竜崎はそれを断った。


「良いよそれ持ってて。今回の報酬としよう」


思わぬ回答にアイナ達は喜びの声をあげる。さくらにも喜びがこみあげてくるが、彼女はそれを隠すように竜崎に質問をした。


「ところでこれ、何をやっているんです?」


「最近レドルブで起きた事件の報告書や情報屋からの報告書を読んでいるんだ。ここから危険分子がいるかいないかを探していくんだよ」


「何かお手伝いしましょうか?」


任務に無理やりついてきて、しかも予想外の大金を貰ったのだ。流石に手伝いをしなければ気持ちが悪い。ネリー達も同じように手伝いを申し出た。


「いいのかい? じゃあ資料の整理をお願い。色々な場所から貰ってきたものだから結構ぐちゃぐちゃなんだ」


「「「「はーい!」」」」



竜崎の指示通り、さくら達は資料を整理していく。地域毎、時系列順、解決済みや未解決への分類…。竜崎とオズヴァルドはそれらの資料とさくら達が集めたノートを見比べながらああでもないこうでもないと話し合っていた。


「…ん? オズヴァルド先生これ…」


「お、これはもしや…!」


何かあったらしく、竜崎達はさくら達のノートへ顔を寄せる。少しの間男性2人は小さいノートを囲み真剣に話し合っていたが、突如立ち上がった。


「ちょっと出かけてくる。4人はここで待ってて」


ノートを懐にしまい、どこかへと出かけていく教師達。さくら達は呆けながらも了解、資料整理をしながら待機することに。



そして十数分が経った時だった。


ボンッ!

「わっ!」

「なに!?」


突如、外から聞こえてきた謎の爆発音。さくら達が慌てて外を見ると、少し離れた倉庫の屋根から煙が出ていた。


「行ってみよう!」


そう遠くはない。ネリーの提案に他三人も頷き、部屋を飛び出した。






―やりすぎだぞオズヴァルド。ある程度壊してしまうことは了承済みとはいえ―


「いやー!まさかこいつらが煙幕代わりに撒いた小麦粉に引火するとは!」


「粉塵爆破ってやつか、珍しいものを見たなぁ。なんとか即座に鎮火できてよかった、火と水の精霊さまさまだ」


白粉だらけ小傷だらけで気絶している盗賊を数人足元に転がし、屋根が一部吹き飛んだ建物を見上げる男性2人。勿論オズヴァルドと竜崎である。そして、その周りには拍手する兵が数人。


なんだなんだと様子を見に来る商人達に混じり駆け付けたさくら達だったが、騒ぎの渦中にいるのが竜崎達だと知り、驚きながらも彼らの元に走り寄った。


「何があったんですか?」


「お、さくらさん達来たんだ。皆お手柄だよ。集めてくれた情報のおかげで最近この辺りを荒らしまわっていた盗賊の根城を突き止められたんだ。まさかこんな近場に隠れていたとは誰も思っていなかったって」


そう説明した竜崎は先程貰ったアイナ達のノートを広げ、参考にした場所を幾つか指で指し示す。


「あっ私が!」

「集めた情報…!」


ネリーとモカは揃って声をあげる。まさか本当に犯人逮捕の助力となるとは…。あっけにとられる彼女達であった。





盗賊達を兵に引き渡し、竜崎はノートをぺらぺら捲る。


「さてオズヴァルド先生。後何か所か気になるところあるし、行ってみようか」


「行きましょう!」


唖然とするさくら達に安全なところに戻るよう伝え、彼らはまたどこかへ。と、彼女達の耳にとある兵士の声が聞こえた。


「いやぁこの時期は有難いなぁ。捕まえあぐねていた悪人達を学園の先生方は次々捕らえてくれるんだもの。しかも今年はあのリュウザキ様とオズヴァルド先生ときた!」


「追悼式を狙う暴徒を警戒する」という任務がメインのはずだが、そんなこともするらしい。受付担当が「楽しみ」と言った理由も恐らくこれであろう。


兵も野次馬も続々引いていき、その場に取り残されたのは4人の生徒。そんな中、アイナが呟いた。


「…資料整理に戻ろっか」


「…うん」


あの2人の邪魔はするべきではない―。いつもは首を突っ込みたがるネリーやさくらもそれに賛成するほどに、彼女達の内心は一致していた。

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