162話 グレミリオの査定
「なるほど、そんなことがあったのねぇ」
竜崎から説明を受け、グレミリオ達も巨兵を見やる。上空には未だに警戒するように迎撃用のゴーレムが浮き、先程白狼に蹴り飛ばされたゴーレムは次々と立ち上がってきた。ダメージはなさそうである。
「グレミリオさんならあのゴーレムを操れるんじゃ…」
そんな中、さくらはおずおずと尋ねる。使役術を極め『裏切りの悪魔』とまで呼ばれた彼(彼女)ならば他人の召喚獣やゴーレムを奪い取ることも可能、そう聞いていたからだ。しかしグレミリオは謝ってきた。
「ごめんねー、しっかり対策されてるわ。小さい方でも乗っ取るには数分要しちゃう。この巨大なのは早くても丸一日はかかるわね」
一応できることにはできるらしい。だがそんな時間をかけるわけにもいかない。残念がるさくらは続いて興味本位で訪問にきた魔術士が作ったゴーレムを指さす。
「あっちのゴーレムはできますか?」
それを聞いたグレミリオは試しに詠唱、魔術を当ててみる。すると彼(彼女)の顔は曇った。
「あら、これ随分と脆いわね…。乗っ取り対策をしてないのはまだ良いとして、この出来は酷いわ…」
「え!そうなんですか?」
『ゴーレム術を極めた』と豪語していたらしい魔術士の作品。さぞ質が良いのだろうと思っていたさくらだったが、グレミリオのその言葉に驚いてしまう。グレミリオが手を横に肩を竦めるとゴーレムの方も同じ行動をした。もう乗っ取りは済んでいるらしい。
「正直、これじゃ簡単に壊れるわよ…。そうだ、さくらちゃん」
グレミリオはそこで言葉を切り、足元に落ちていた石ころを一つ拾う。それをさくらに手渡してきた。
「これをゴーレムに向けて打ってみて。優しくで良いわ」
乗っ取られたゴーレムはその間に両腕で胸を守るポーズをとっていた。そしてグレミリオはその部分を指さす。どうやらそこに当てろと言う事らしい。
「えっ?は、はい」
さくらはとりあえず言われた通り自身のラケットを取り出し、狙いを定めて石を打ってみることに。
「せーのっ」
パコンッ!
打たれた石は勢いよく飛ぶ。とはいえそこまで力を入れていないのだが…。
ボゴゴゴッ!
「えっ!?」
なんと石はゴーレムの腕と胸をいともたやすく貫通し、奥にあった建物の壁に当たって落ちた。いくら神具によって強化された一撃とはいえこれは…。呆気にとられるさくらに、グレミリオは苦笑いを見せた。
「ね、脆いでしょ。いくら早く作りだせたとしても、これじゃあ実用性はほとんどないわね…。早けりゃいいってものじゃないのよ、全く…。学園の生徒達の方が数倍良い出来してるじゃない」
ボロクソである。その会話を聞いているのか聞いていないのか、可哀そうに件の魔術士は腰を抜かしたまま呆然としていた。
となると次に気になるのはイヴのゴーレムの方である。グレミリオ達に許可を貰い、同じように打ち込んでみると…!
バキャッ!
貫通しないどころか食い込みもしない。しかも打った石の方が砕け散った。
「流石イヴさん…!ここまで堅いなんて…!」
「しっかり土と魔力を練りあげてあるわね。20年前からどんどん強くなって嬉しいわ!」
メルティ―ソンとグレミリオもまた感嘆の声をあげるのだった。
「それで、メルティちゃんを呼んだ理由って?」
改めてグレミリオは竜崎にそう問う。彼は今回の作戦を説明した。
「イヴ先生のあの様子だと、興奮魔術を解除しても暫く残った術式が影響して暴れ続けると思います。なのでメルティ―ソン先生の『眼』の力で意識を呼び戻して欲しいんです」
「確かに『愛眼』で直接心に呼びかければ暴走している子でも正気を呼び戻せるわね!」
納得するグレミリオ。メルティ―ソンもやる気満々。子供のころからの友人であるイヴを絶対に助けるという意気込みさえ感じられる。
…ズシン!ズシン!
そんな中、またも十数体のゴーレムが降り立ってくる。今度は端のほうでへたり込んでいる他魔術士を狙い、進撃を開始しはじめた。
流石にそれを見過ごすことは出来ず、杖を構える竜崎とメルティ―ソン。と、それよりも先にグレミリオの声が響いた。
「キメラ達、白狼達、出てきなさい」
グレミリオが呼び出したのは顔が複数ついた魔獣達と、先程も召喚していた巨大な白い狼数匹。それをゴーレム達の前に立ちはだからせた。
「ここは私が抑えとくわ。メルティちゃん、リュウザキちゃん、イヴちゃんをお願いね」
その言葉に竜崎達は頷き、詠唱を始めた。召喚魔法陣が輝き始める。
「シルブ!」
竜崎が呼び出したのは巨大な鳥と竜巻が合わさった姿の風の上位精霊シルブ。
「白鳥!」
メルティ―ソンが呼び出したのは「霊獣」の一体である純白の羽に身を包んだ美しい巨大な鳥。
それぞれの乗り物を呼び出し、彼らは空高くまで飛び上がる。目標、巨兵の頭頂部。『軍団長』の解放である。
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