127話 意外とお転婆
「は、はい!喜んで!」
突然に飛んできた白羽の矢。さくらは思わずアルバイトのような返事をしてしまう。それを見て、姫様はにこりと笑顔を見せた。
「他の兵を何人かつけるべきか?」
一方の王はまだ不安らしく、そんなことを竜崎に聞く。が、彼はそれを断った。
「いえ、その必要はございません。かの地は迷路のようなもの。下手に人足を増やすと迷いやすく、その分案内人を複数人雇う必要がでます。気軽に行ってきましょう」
朗らかなその一言に、王もようやく納得したようだ。
「そうか。では済まぬが宜しく頼む」
「竜崎さん、『竜の魔神』ってなんですか?」
転移魔術式準備までの間、竜崎達は控え部屋で待機することに。そこでさくらは先程の疑問をぶつけていた。魔神、なんとも恐ろしい響きである。
「魔神とは簡単に言ってしまえば神のような力を持つ存在のことでね、高位精霊達もその枠組みに入っているんだ。『竜の魔神』というのは竜の祖ともいえる存在。その名は『神竜ニルザルル』というんだ」
―丁度良かった。あいつからさくらと会って見たいと連絡が来ていてな。いつ連れて行くべきかタイミングを探していたんだ―
そう説明してくれる彼らに気負う様子はない。そこまで怖い存在じゃないのだろうか。
さくらには他にも気にしていることがあった。
「なんか、メストさんに悪い気がします」
裏事情があるだけに、姫様がメストの登用をわざと取り止めたということはさくらも感づいていた。だが、自分よりも年上かつ強い彼女が選ばれず、しかも楽しみにしていたバルスタインによる騎士団案内も半ば中止になってしまった。メストに対して申し訳ない気持ちが胸を占めていたのだ。それならせめて彼女を同行させてもらったほうが…
それを察してか、竜崎は自身の考えを教えてくれた。
「いや、もし姫様がああ言ってくれなければ私が止めていたよ。メストは良い子だから今回の事情をつまびらかに話しても絶対にバラさないと思う。でも、余計なリスクは払わないほうがいい。確かにちょっと心苦しいけどね」
「でも…」
それでもまだ気が晴れない。そんなさくらを彼は衝撃的な言葉で慰めた。
「大丈夫。こんなことがあろうと思ってバルスタインの絵を渡しといたんだ。予想通りメリッサさんと仲良くなったみたいだし、残念がってはいるだろうけど多分そんなに気にしてないよ」
確かに彼女達はまたもや別室でトークしているらしい。先程うきうきと部屋に入っていくのをさくらは目撃していた。
「竜崎さん、メスト先輩がバルスタインさんのことを慕っていること知ってたんですか?」
「うん。彼女はメストが私以外に初めて興味を持ってくれた人だから」
それはどういう…?そう問いかけようとしたさくらだが、先に遮る声が。姫様である。そこに控えるようにバルスタインも現れた。
「リュウザキ様、先程は意図を組んで下さりありがとうございます。おかげで事情を知る者だけで赴くことができます」
「いえ、こちらこそありがとうございます。実はこの後どうすべきかご判断を仰ごうと思っていた次第で…。そのお話は道すがら、向こうに着いてからにいたしましょう」
はい、そういたしましょう。そう答えた姫様は次にさくらへと顔を向ける。
「申し訳ありませんさくらさん。都合も聞かずに護衛を頼んでしまい…ですが乗りかかった船、もう少しお付き合いくださいませ」
勿論です。さくらのそんな答えに、彼女は有り難そうに微笑んだ。
と、姫様は少しモジモジしたような様子に。
「それで、リュウザキ様。お願いがございまして…」
「何でしょうか」
「はしたない話ですが、私を冒険に
「子供の時より色々な冒険譚に興味がありましたもので…。実はお供を願い出ましたのも、そんな思いが先走り…」
以前見た、国の行く末を案じる姫様の姿はどこへやら。もしかしてこの人意外とお転婆? さくらはそう思ってしまう。たしかにゴスタリア王の様子だと彼女は箱入り娘でありそうだし、先程ドワーフの国での出来事を話した際は目を輝かせていた。さらに父親を叱ってもらうため隠れて竜崎を呼ぶほどである。素質は充分かもしれない。
そんな中、バルスタインが言いづらそうにとある事実を伝える。
「あの…姫様…。大変申し上げにくいのですが、竜の魔神殿がいる場まではそこまでの要素はありません。確かに迷路のようになっており、多少竜に襲われる可能性こそありますが、案内人を雇いますので…」
「えっ…そうなの…。そう…わかったわ…。リュウザキ様、お忘れください」
ワクワクした顔から一点、かなり意気消沈とした顔になる姫様。少々可哀そうに思えるが、さくらはその地の事情を知らないため無闇に励ますこともできない。
が、竜崎は少し考える素振り。ボソボソと何かを呟いている。
「内容が内容だし…さくらさんの事もある。どうせ王位についたらいずれ知ることもあるだろうし…ニアロン、どう思う」
―いいと思うぞ、この姫は信頼の置ける子だ。あいつも多分許すだろう―
その答えを聞き、決心したらしい竜崎は改めて姫様に向き直った。
「では姫様、出来るだけ動きやすく、汚れても構わない服装をご用意してもらって宜しいですか?ご期待に添えるかは少々不確かですが、出来る限りお答えしましょう」
「―!はい!」
パアッと顔を明るくした彼女は、裾をあげ一礼。高貴な所作ながらも少し早足で自室へと向かっていった。それを急いで追いかけようとするバルスタイン。その前に竜崎に怪訝そうな顔で尋ねた。
「リュウザキ先生、一体何を…?」
「まあ行ってからのお楽しみ。そもそも行けるかは魔神のみぞ知るところだし。あ、バルスタインは鎧のままでもいいよ。寧ろそっちのほうがいいかな、危険っちゃ危険だし」
と、そこにメストとメリッサが合流する。それを見て、バルスタインは深く頭を下げた。
「メストさん申し訳ありません、兼ねてから約束をしておりましたのに」
「いえ!バルスタイン様!そうお気になさらないでください!メリッサさんに案内していただけることになりましたので」
「そうでしたか。重ね重ねの非礼をお詫びいたします。ではメリッサ、メストさんをよろしく頼む」
「はっ!お任せください!」
そのままバルスタインは足早に姫様を追う。一方のメストとメリッサはというと…。
「ではメストさんこちらに。どちらからお見せいたしましょう。騎士団と、私の秘蔵コレクション」
「悩ましい…」
そんな会話をしながらどこかへと向かっていった。
「ね、大丈夫でしょう?」
竜崎のそんな一言に、さくらは心配して損したというような声しか出せなかった。
「みたいですね…」
「遅くなってしまい申し訳ございません。支度が済みました!」
転移魔法陣上。先に移動していた竜崎達は勇んで戻ってきた姫様&荷物を持ったバルスタインと合流する。一応は外行きのドレスに着替えた姫様だが、どうにも竜崎が指定した服装ではない。さくらがそこについて問うと―。
「それはこちらに。一応体面上は魔神様にお話をお伺いしにいくのですからね。着換えは向こうでさせていただきます」
持ってきたバッグをポンと叩く。どうやらそこに全て詰め込んだらしい。
全員が魔法陣内に入ったことを確認し、ゴスタリアの魔術士はスイッチを入れる。
「では姫様、どうかお気をつけて。転移魔術式、起動!目的地は『竜の生くる地』です」
カッ!と音と共に、さくら達の目の前は光に包まれた。
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