126話 いざ結果報告

それから少し経ち、どうやら最終会議は終わったらしい。調査結果を報告するために一行は王の元へ移動を行う。


「いやー…有意義な時間でした」


「はい、でもあっという間でしたね…」


さくらと合流したメリッサとメストはずっとその調子。存分に語り合っていたと見える。


「そうだメリッサさん、これを。僕が持っているよりも貴方が持っていたほうが」


と、バルスタインの絵を渡そうとするメストをメリッサは止める。


「いえ、それは頂けません!貴方が貰った物、私がとるわけにはいきません。大切にしてください!」


そんなやり取りに苦笑いしつつ、さくらは列の先頭を歩くバルスタインの元に向かいさりげなく話を振ってみる。すると―。


「メリッサはメストさんと仲良くなったみたいですね。何で盛り上がってるのかはわかりませんが、楽し気なのを見るとこちらまで楽しくなってきます」


とのことである。


「しかし、いつもは冷静なメリッサがあそこまで感情を出すとは…一体何なのでしょうね。さくらさんは検討がつきますか?」


「え、いやー…あはは…」


貴方についてです、とは口が裂けても言えない。恐らく普段のメリッサは表面に出さないだけで、バルスタインの行動を見るたびに内心「尊い」とか言ってそうだなと思うさくらだった。世界違えど、ファンの心中は一緒なのだろう。





謁見の間に案内された竜崎達。そこは広く、さくら達も端の方に立たせてもらった。正面の高い席に座っているのはゴスタリア王とその王妃、そして一足先に移動していたテレーズ姫である。その横にバルスタインが控え、彼らの前には調査隊が持ち込んだ資料が掲示された。


「準備できました」


調査隊メンバーの合図を聞き、竜崎はうやうやしく一礼をした。

「では、調査隊の調査結果をお伝えさせていただきます。まずは先程確認いたしましたサラマンドの様子ですが…」





「…以上の事柄と記録からこのような結果に。火を吹く竜は確かに存在しますが、彼らにサラマンドを作り出せるほどの能力はありません。その点を考慮すると…」


持ってきた資料を大いに活用し、要点を的確に説明していく竜崎の姿は確かに教師。ゴスタリア王だけでなく、王妃王女、バルスタインをはじめとする騎士兵士も聞き入っている。これならば充分に信用させることができそうだ。



「…ですので、可能性として最も高いのは火の高位精霊イブリート様の介入です。あの方の性格上、自らの行いをひけらかすといったことは致しません。王の問いかけに対してお答えにならなかったのも道理です」


「ふむ…リュウザキ殿がそう仰るのならばそうなのだろうな。確かにあの夜、お叱りを受けた際も遠回しに民を危惧してくださった。あの方らしいといえばらしいのか」


そもそも竜崎が得ている信頼が大きい。高位精霊と仲が良い彼の言葉に王は疑おうともしない。今弁舌を振るっている目の前の男が大嘘つきかつ熱望している竜の正体だとはどうやっても思わないだろう。まあそのためにわざわざ手間をかけて調査を行ったのだが。甲斐があったというものである。



しかし、とさくらは思う。一国の王を相手取り、竜崎は一切ボロを出していない。もし自分がそんなことをやったらたちまち露呈してしまうだろう。今までも要所要所でさくらを庇い平然と嘘をついてきた彼だが、それは大人の特権か、はたまた本人の性根か。それとも、この世界で鍛えられたのか。どれかはわからないが、この調子だと自分にも何か隠していることがありそうだな。そう頭の端で考える彼女だったが、それ以上に思考が回るものではなく、それきりとなってしまった。



「ということですので、王の許可が頂けましたら私自らイブリート様の元へ向かわせていただきます」


「良いのか?」

竜崎の提案にゴスタリア王は驚く。彼はそれを見て胸を叩いた。


「えぇ。彼のことです、再度王が向かったところで絶対に正直には答えないでしょう。ならば私が無理やりにでも事の仔細を聞き出してみせます」


どうやらそこでイブリートと口裏合わせをするようだ。魔神とも呼ばれる高位精霊が起こした奇跡、それを伝説の勇者一行の1人として名高い竜崎が証言すれば国に寄ってくる悪い虫もいなくなるだろう。


王妃と王女もその提案に頷き有難がる。これで終幕と思えたが、そこに待ったをかけたのは他ならぬゴスタリア王であった。


「実は前々から気になっていることが合ってな。かの精霊は竜の形をしていたという。私も叱られ、剣を交えたからわかるが、イブリート様はリュウザキ殿の言うような性格で合っているのであろう。だが、わざわざ竜を模して飛んでいたというのが引っかかるのだ。突如私の寝室に現れることの出来たあの方ならば、そのようなまだるっこしいことはせずに各火山に転移しそのままサラマンドを生まれさせるということも出来たはず。これは勝手な推測だが、私としては『竜の魔神』殿が関わっている気がしてならない」


「竜の…魔神…?」

聞いたことのない単語に思わず耳を澄ますさくら。対して竜崎はなるほど、と頷いた。


「確かにその点に関しましては調査隊のメンバーからも疑問の声が上がっていました。ですが、本件にあの方が関わっているような痕跡は無いため可能性は低いものとしていましたが…」


学者達にアイコンタクトをとる竜崎。送られた彼らもまた、竜崎の考えを支持するかのように頷いた。


「確かにあの方のお力ならばサラマンドを作り出すことは可能です。それに、火の高位精霊と竜の魔神が協力している可能性はあるかもしれません」


「やはりか…!」

予想が当たり嬉しそうなゴスタリア王。竜崎は続けて提案を行う。


「では、この後に私が向かい聞いて見ましょうか。イブリート様のことです、一日二日では口を割らないことも容易く想像ができます。ならば、先に魔神殿に話をお聞きし、王のお考えが当たりましたら占めたものです」


と、それに乗っかるように声を挙げた人物が1人。ゴスタリア王女、テレーズ姫である。


「そのようなことでしたら、お父様、私もリュウザキ様についていってよろしいですか?」


「な!?」


思わぬ提案に大口を開ける王。姫は自らの考えを説明する。


「流石に王族が一人も向かわぬのは魔神殿に失礼です。しかしお父様は執務がございます。その点私ならばある程度自由に動けます」


「だが…」


渋る王。そこに竜崎が助け船を出す。ただし姫側の。

「私としては構いません。必ずや姫様の身を御守りいたしましょう」


それでもまだ王は不安らしく、声を漏らす。

「リュウザキ殿の実力は存じておるし、信頼がおける方だ。だが、男女2人旅というのは…」


気にすべきところはそこなのか。さくらは思わずズッコケかける。


―私もいるんだが―


ニアロンはニアロンで不満そうに腕を組む。


「これは失礼をニアロン殿。しかし…そうだ、バルスタイン。リュウザキ殿と共に行ってはくれないか?」


「はっ!」


いくらこの後に予定が入っているとはいえ、王命とあらばそちらが優先。彼女は即座に応じた。



そんな中、姫様は何かを思いついたらしく…。

「でしたら、リュウザキ様。一つ我が儘を言ってもよろしいかしら?」


「はい、なんなりと」


「リュウザキ様がお連れしたお弟子さん方、さくらさんとメストさん、お二人共先の代表戦で大活躍だったそうではないですか。是非道中の護衛に来ていただきたいのです。あ、でもメストさんは確か腕に怪我を負っていらしたのでしたね…。後ろ髪を引かれる思いですが、怪我人を無理に登用するのもいけませんし…。さくらさん、是非共にいらしてくださいませんか?」

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