48話 ドワーフの廃坑ダンジョン②
ズシンと閉じ切ってしまった坑道入口の岩扉。俄かに泡を食うさくらと獣人青年だが…教師陣は違った。
「これなら壊せそうですのぉ」
「えぇ。でも下手に爆破するのも怖いですね」
コンコンとそれを叩きながら話し合う竜崎とログ。流石は百戦錬磨であろう2人、とても落ち着いている。
「大丈夫ですかー!皆さん!」
と、音を聞きつけたのだろうか。外から残った面子と案内役の兵が心配する声が聞こえる。それに応えるため、竜崎が声を張る。
「聞こえてますよー!この岩って前も出てきたんですかー?」
「いえ、ありませんでしたー!」
ドワーフ兵のその答えに、教師2人ははて…?と首を捻った。
「この短期間で追加の罠?それか偶然に発動していなかった?」
「誰も引っかからなかったというのも変ですしな。とはいえ追加というのも…決めかねますの」
結局解はまとまらず、とりあえず竜崎は対処策を提案することに。
「機動鎧かなにか持ってきてもらって、この岩をどかしてもらっていいですか?私達は子供達が心配なので先に奥に進みます。残った面子は手筈通り調査を優先で、何かあったら通気孔から精霊をそちらに送ります」
「承知しました!すぐ手配します!」
「お気をつけて!」
兵と隊長の返事を受け、とりあえずは一段落。竜崎とログは、くるりと回れ右。
「さ、行きましょうか」
「そうですの」
彼らはそのまま、廃坑内部へと歩を進めていく。さくら達もそれについていくしかなかった。
竜崎が言った通り少し進むと道は広くなり、横並びでも歩けるほどに。相変わらず灯りはランタンしかないが、圧迫感が薄れたさくらは少し気持ちが楽になる。
「そうだ、君の名前は…」
ふと、獣人の青年に尋ねる竜崎。問われた彼はぺこりと頭を下げた。
「オカムといいます。リュウザキ様方とご同行できるなんて夢のようです!」
「お、嬉しい事を言ってくれるね。じゃあオカム、子供の匂いとかわかるかい?」
そう聞かれ、鼻を鳴らすオカム。モカと同じように耳や尻尾以外は人間と同じ姿の彼だが、そんな鼻でもしっかりと獣の力を引き継いでいるらしい。
「微かに誰かの匂いがしますが…。薄くて判別できません…」
「そうか。なら、獣の匂いは?」
もう一度ふんふんと匂いを嗅ぐ。彼は意外そうな声で結果を伝えてきた。
「全くしません…?」
「やっぱりか」
「ですのぅ」
勝手に納得する教師陣。なにがやっぱりなのか。さくらは首を傾げる。
「どういうことですか?」
「いくら罠がしかけてあるとはいえこんな絶好の隠れ家、獣達が逃すはずはないってこと」
竜崎はそう答えると、近場にあった石をどけてみる。見ると、裏には何かの魔術が刻まれていた。
「獣除けの魔術ですな。匂いもしないということは…子供が獣に襲われたという心配はしなくて良いですかな」
無論、ここに潜んでいればですが。ログはそう付け加えた。
そのまま、廃坑を進む一行。竜崎に頼られたのが嬉しかったのか、獣人青年オカムが自然と一番前に立ち、注意深く進む。
―が…。
ガコンっ
「ひっ…!」
…警戒虚しく、何かを踏んだオカム。一瞬で顔面蒼白に。さくらは思わず竜崎の後ろに隠れる。
パカッ!
一拍空いて、オカムの足元の床が勢いよく開いた。あわや彼は真っ逆さま…だったが、間一髪で竜崎の手が伸び、引っ張り上げられた。
「あ、ありがとうございます…」
礼を述べるオカム。だが、彼の耳と尾は完全に恐怖で縮こまってしまっていた。
「…うーん…?」
オカムを助け上げた直後。竜崎は何故か唸る。どうやら何かが気になるようで、落とし穴を覗き込んでいた。
「ニアロン、ちょっと見に行ってくれ」
―あぁ―
頼みを受け、ニアロンはふよふよと穴の底へ。が、すぐに戻ってきた。
―下にはクッション替わりに草が厚く敷いてあるな。殺すことが目的ではなさそうだ―
「生かして捕えることが主目的ですかな?」
「ですかねぇ?」
教師陣がそんな推測をしている間、さくら達は一足先にカニ歩きで端を進み、落とし穴を避ける。
「それっ…と!」
なんとか乗り越え、一安心。 ほっと息ついたさくらは、勢い余って数歩先にでてしまう。…それがいけなかった。
プチッ
「え゛っ…」
どうやら、今度は足で何かを引きちぎってしまったらしい。慌てて飛び退こうとするさくらだが…時すでに遅し。
ボワッ!
「きゃああああっ!!」
巧妙に擬態されていた網が床から勢いよく浮き上がり、彼女はあっという間に宙づりにされてしまったのであった。
―さくら、お前…―
網目を至る所に食い込ませ、狭い坑道内に微妙に吊られたさくらを見て、ニアロンは溜息をつく。竜崎も、あらら…と苦笑い。
まさか罠の次にすぐ別の罠が仕掛けられているとは考えつかなった…。さくらは脱出しようと試みるが、もがけばもがくほど網はどんどん食い込んでくる。このままではどんどんと変態的な格好に…!
「これですかのぅ、ほいっと」
と、ログが近くに垂れているロープに気づき、ひょいっと引っ張る。カラカラと見えないところで音がし、さくら入りの罠は地面に降りてぱらっとほどけた。
「酷い目に会いました…」
一番前は歩かない、竜崎に助け起こされながらさくらはそう決意した。
ということで、気づけば先頭はログになっていた。彼もドワーフ、坑道内のちょっとした違和感はわかるのか、ちょこちょこ罠に気づき、それを避けていく。
……が、思わぬことが起こった。
「ん?おぉ!あれは魔鉱物の原石では!?」
突如、道端にちょこんと落ちている岩に駆け寄るログ。素人目にも怪しさ満点だったが…悲しきは魔法鉱物学教師の性。誰が止める間もなく、しゃがみこみそれに手を触れ―。
バッシャア!
…彼の頭上から、バケツをひっくり返したような水が振ってきた。回避する間もなく直撃してしまったログは、自慢の白髭までびしょ濡れになってしまった。
「そうですよな…こんな場所に残っているわけないですよな…」
濡れ鼠のようになった彼は、相応にしょぼくれ戻ってくる。なお、その後竜崎が呼び出した精霊たちによって全身乾かされ、彼の髭はふっさふさにはなった。
「これはドワーフ兵達が逃げ帰るのもわかりますなぁ」
その後も幾つもの罠を切り抜けつつ、しみじみとログは呟く。さくらがどういうことかと聞くと…。
「ドワーフは開拓された坑道は安全なものと無意識化で思っておりますからな。我らの卓越した掘削技術ならば落盤事故も滅多に起きませぬ。故に…こうも罠だらけだと常識が通じず恐怖が勝ってしまうのでしょう」
とのこと。確かに色々と罠があったが、崩れる様子はおろか、石欠片一つ降ってくることすら無い。ドワーフの技術に感服するさくらだった。
暫く進んでいると、曲がり角に差し掛かった。そこから先は、長い下り坂。しかも…。
「あれ、間違いなく罠ですよねぇ…」
「でしょうなぁ…」
教師陣がそう話す通り、地面にはこれみよがしに生える出っ張り。今まで一番分かりやすいスイッチである。
絶対踏んではいけない―。恐る恐るそれを避けていくログ、さくら、オカム。…と、何故か竜崎だけ立ち止まっていた。
彼は、ぼーっと天井を見上げたまま動かないのだ。?マークを浮かべつつ、さくらが声をかける。
「竜崎さん、早くいきましょう」
「―あぁ、ごめんごめん」
そう返事を返す竜崎だが、やはりその間も天井を見つめたまま。ようやく前を向き歩き出すが―。
―清人、足元―
「あっ」
ガタン!
…ニアロンの忠告間に合わず、彼はスイッチを踏んだ。そして、罠は起動した。
ドスゥウン…!
先程まで竜崎が見上げていた天井、そこから…通路を埋め尽くす大きさの岩が落ちてきたのだ。そしてここは坂道。当然、どうなるかと言うと―。
ゴロゴロロロロロロロロッッ!!!
本当に大掛かり。さながら宝物を守るガーディアンのように、通路にいる侵入者を全て押し潰さんと勢いよく転がり迫ってくるではないか!
「きゃああああああああああ!」
「ぎゃああああああああああ!」
死に物狂いで逃げるさくらとオカム。竜崎達も急いで坂を下っていく。追いつかれたらペシャンコ。逃げろや逃げろ。
ひたすらに一行は走り、坂の終了地点。幸いにもそこは屋根が少し低くなっており…。
ズゥウウウン…
そこで岩はピタリと止まった。なんとか圧し潰されるのは回避できたのだ。
「「た、助かった…」」
揃って腰が抜けたように座り込む若者2人。もうできれば帰りたい、そんな思いが一致していた。
一方、教師2人は色々と物色を済ませていた。
「どうやら兵士の皆さん、ここまでは来ていたみたいですね」
地面に落ちていた兜を拾い上げる竜崎。確かにそれは、先程の兵達がつけていたのと同じものだった。
「ここから帰ることができるみたいですぞ?」
ログが発見したのは小さな穴道。4つんばいになって進まないと通れないほど狭い代物。どうやらそこからドワーフ兵達が逃げたらしく。証のようにところどころに装飾品等が落ちていた。
「な…なら…いったん帰りませんか御二方…」
まさかの罠に疲労困憊なのだろう。オカムはそう提案するが…竜崎は軽く首を横に。
「まあまあ、もう少し奥を調べてからね。そしたら決めよう」
彼を宥めながら立ち上がらせ、一行は更に奥へと。…が、すぐに立ち止まることになってしまった。
「うわっ…!なにこれ…!」
「落とし穴…じゃない…! デカい…!」
待ち受けていたのは…なんと大穴。そしてその周囲には、とんでもないものが。
「きゃあっ!?」
「ひっ!人骨!?」
悲鳴をあげるさくらとオカム。そう、そこに落ちていたのは…大量の人骨。
頭蓋骨だけではない、肋骨、骨盤、大腿骨…ごちゃごちゃに混ざりあっているものから、確実に人の骨とわかるように整っているものまで。
10人分ほどの骨が積み重なっているところもあれば、、壁にも数体貼り付けにされている。
加えて周囲は血が飛び散ったような跡が残っており、引きちぎられてボロボロな布切れが散乱していた。まさに、スプラッタ。
「ば、化け物の棲み処だったんだ…!せ、先生方!逃げましょう!食べられちゃいますよ!」
無理やり竜崎達の手を引っ張り連れ帰ろうとするオカム。さくらもそれに乗じたかった。
そして当の教師陣達も…流石にこの凄惨な光景に、あ然と立ち尽くしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます