彼女とBAR10p

 輝く江子の姿は、それを選んだ男のセンスの良さを十分に語っていた。

(あの男達、なかなかヤルじゃないの)

 江子は心から感心した。

 そうして、男に対して高慢な態度を取ってしまった事に反省をした。

「コウコさん、まるでシンデレラみたいだ。さぁ、タクシーの運転手が表で待ちくたびれていますよ。気を付けてお帰り下さいね」

「えっ、ええ。でも本当に良いのかしら、これ。……私、あの人達にずいぶんな態度を取っちゃったし……」

 一応は遠慮して見せているが、江子がまんざらでないのは、彼女の口元が緩んでいることから知れていた。

「コウコさん、せっかくのサプライズだ。ありがたく受け取って良いと思いますよ。それに、そんなにお似合いなんだから」

「……そうね。ありがたく受け取る事にするわ。それで、また、もし、あの人達に会うことがあったら、その時は、お礼に……一杯付き合わせていただこうかしら」

「それが良い。さあ、コウコさん、もうお帰りなさい。良い夜を」

 にこやかに言うマスターに、江子は、うん、と頷き、「もし、ここにあの人達が来ることがあったら、よろしく言っといてね」と早口で言うと、軽い足取りでバーを出た。

 江子がいなくなり、静まり返ったバーの中で、マスターは、やれやれと息をついた。

「コウコさん、まだ酔いが残っているみたいだったな。無事に帰れると良いが……」

 この、マスターのつぶやきを聴く者は当然、誰もいなかった。




 バーを出てから、江子はずっと上機嫌だった。

(このワンピース、欲しかったのよね)

 ファッション雑誌で一目見て気に入ったワンピース。

 まさか、こんな形で手に入るだなんて、江子は思ってもみなかった。

(気持ちの悪いヒトタチって思って相手にする気は無かったけど、案外良いヒトタチだったわね)

 江子は、上機嫌のまま、タクシーを降りると、江子の目の前にある自宅へ、スキップでも始めそうな足取りで向かった。

 築五十五年の木造二階建ての古アパート、

 その、二階の角部屋、E号室が江子の住処だ。

 江子は、部屋の玄関口で部屋の鍵を探すために五分ほど、バッグを漁ったが、鍵は、なかなか見つからない。

(仕方ないわね)

 鍵を見つけることを諦めた江子は、自分の部屋のドアベルを力を込めて押した。

 そうしないと、このアパートと同様に古い、このドアベルは音を鳴らさないのだ。

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