彼女とBAR9p
「まぁ、うちの入り口の扉の前にあるんですから、このままにしてはおけないですよね」
紙袋を、このまま入り口に置いておいては、バーを訪れる客の邪魔になってしまう。
マスターは、仕方ないなと紙袋を手に取った。
そして、マスターは、手にした紙袋を怪しそうに見つめる。
そうしているうち、マスターは紙袋に貼られた、ある物に気付き、ニヤリと笑うと、紙袋を江子に差し出して言った。
「これ、コウコさんのですよ」
マスターの予期せぬ台詞に、江子は、そんな紙袋知らないわよと言って、首を思い切り横に振ったが、マスターが指を差して紙袋に貼られた物を江子に見せると、江子にもマスターが言っている事の意味が分かった。
紙袋には、白いメッセージカードが貼り付けてあり、そこには、しゃれた風な文字で、こう書いてあった。
『ライターのお礼です』
「あのお客様からコウコさんへのプレゼントですね。コウコさん、中身だけでも見て差し上げたらどうですか?」
マスターにそう言われて、自分が冷たくあしらった男からのプレゼントであるらしいそれを、江子は、複雑な気分でマスターから受け取ると、紙袋に手を突っ込み、中身を取り出し確かめた。
中に入っていたのは、黒い色のワンピースと赤い色の靴箱だった。
服を広げて見て、江子は目を光らせた。
服は今、若い女性の間で人気のブランドの新作だった。
靴も靴箱から、なかなか良い物である事が分かった。
「えっ……どうしよう、これ、本当に私に?」
マスターは江子に頷くと、「紳士からのプレゼントならコウコさん、ありがたく使わせて頂いては? それに僕は、コウコさんに濡れた格好のまま帰って欲しくないな」と囁く。
マスターの台詞に、江子は少し考えて、うん、と頷いた。
「……そうね! 濡れた格好でタクシーに乗るのは悪いし……マスター、私これに着替えてくるわ!」
江子はマスターに断り、化粧室で素早く男からのプレゼントに着替えた。
そして、江子はビックリした。
ワンピースと靴は、江子にサイズがピッタリだったのだ。
唖然とした表情で化粧室から出て来た江子にマスターは微笑みかけた。
「コウコさん、良く、お似合いだ。素晴らしい」
マスターが褒めるのも当然だ。
ワンピースも靴も、江子に本当にとても良く似合っている。
ワンピースは一見シンプルであるが、江子の美しさを、より引き立たせるデザインであったし、靴は黒いエナメルに、さり気なく効かせたシルバーのラメが江子の白く細い足を照らすかの様に光っている。
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