彼女とBAR11p

 ドアベルが、乾いた音を立てて鳴ると、その数秒後に、部屋の内側から鍵が開けられた。

「ただいま」

 鍵を開けてくれた人物に、江子は笑顔で言ったが、その人物の江子を見る顔は奇妙に引きつっていた。

「ちょっと、なんなのよ、その顔は。そんな化け物でも見るみたいな顔をしないでよ!」

 江子が抗議の声を浴びせた相手は、江子の弟、卓(スグル)だ。

 江子は高校二年の弟、卓と、このアパートに二人で暮らしている。

 卓が在宅しているのなら鍵を中から卓に開けてもらえる。

 自分の部屋の窓から外へ明かりが漏れていたので、江子は、卓は部屋にいると期待したのだ。

「なんなんだよ、その格好は」

 顔を引きつらせたまま、卓はそう言った。

「ちょっと、ただいまって言っているんだからお帰りって言ったら? ……ああっ! この格好? すごいでしょ! なんかプレゼントされてね! ねぇ、どぉ? 似合う?」

 江子は、ワンピースの裾を片手の指でつまんで裾をヒラヒラと動かして笑顔で答えた。

「はぁ? プレゼント? どういうこと?」

 笑顔の江子に、卓は、より一層顔を引きつらせる。

「どういうことって、このワンピースと靴よ! プレゼントにもらったのよ」

「ワンピースと……靴。へっ?」

 唖然として、江子の話の意味が分からないでいる様子の卓に江子は今日あったことを話して聞かせた。




 江子から話を聞いた卓は、心底呆れていた。

「じゃあ、そのワンピースと靴を、知らない人からプレゼントされたってわけ?」

「そうなのよ! 初めは、しつこいナンパ男達って思って、すごく不愉快だったんだけど……でも、こんなに素敵なプレゼントをもらっちゃって……案外良い人達だったのかもね」

 部屋の台所で、二人用の小さなテーブルを卓と囲み、江子は緑茶をすすりながらくつろいでいる。

 そんな江子に対し、卓は深いため息を吐きかけた。

「良い人達って……姉貴……。ねぇ、姉貴、その……良い人達? なんだけど、どんな感じの人達だったわけさ」

「どんな感じのって……そう! それがね、双子なのよ!」

「双子?」

 江子の答えに、卓は訝しげな顔を江子に向けた。

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