天使になれなかったあの子。
その後の記憶が無い。
ただ、気がつくと俺はプールサイドであの子の首に手をかけ、彼女はぐったりしていた。
「なぁ、どうしたん、?」
何度俺が呼んでも、もう身体は動かず、呼吸もしていなかった。濡れたシャツをいつもみたいにボタンを外して抱きしめる。冷たい身体からはいつもの鼓動は聞こえない。ここでようやく俺が彼女を殺してしまったことに気づいた。
息をしていなくても、彼女はとても綺麗だった。
「ほんまに天使やったんやな……」
俺に翼を折られた天使の、濡れた髪を梳いて撫でる。
掃除されたプールに、彼女を浮かべる。悲しさよりも愛おしかった。
水泳部の部室を物色すると、クッションを見つけ、それをカッターで切り裂いた。宙を舞う羽根。それを両手に抱えてプールに浮かべた。
「とっても綺麗や……」
その光景を目に焼き付ける。
カッターを持ったまま、その場を去った。
*
荒れたままの家は、俺の心の中を表していた。俺は大切なものを自らの手で壊してしまった。彼女がいない世界なんて、生きる意味が無いのとイコール。
「いきたないなぁ……」
吐き出した言葉は、どうしようもなく弱々しかった。
ここで死んだら、彼女と同じ所へ行けるんやろうか。死んだ後もあの子のそばにおれたらええなぁ。
「待っててな、すぐそっちに逝くから」
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