外伝39話 ミンフィル王国東南諸国同盟編 魔神賢王と呼ばれた男 10

 アースティア暦998年 ・8月13日・午前14時18分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸東南部・レノア地方北西部・クララ地方・フェルニー部族国とテルリーナ部族国との国境付近・テルリーナ・グルダーノ荒地平原とグルダーノ常闇森林地帯にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 クララ地方事変戦役の前半戦たるクララ王国ジーク・クーデター事変は、ユーゴ達の活躍によって発生から半月程で鎮圧に成功する。


 僅か20日程度の天下に過ぎなかったジーク王子の戦いは、後世に措いては、分別の判断すら出来ない愚か者として、永遠に語り継がれる事と成ってしまった。


 ニーナは武辺ものばかりが多かったクララ王族歴代の王族の中でも稀に見る稀有な存在と言える人柄であった事が、父であるザイール・クララ・クオッシュの目に留まり、次期国王と見なされて居たらしいが、その事が非業の最後を迎える事に成ろうとは、何とも皮肉な結果と言わざるを得ないと言えた。



 さて、クララ地方事変戦役の最大の争乱であった、 クララ王国のジーク王子によるクーデター事変が終わって、日付が変わり翌日の事である。


 クララ湖の北西部の・テルリーナ・グルダーノ荒地平原とグルダーノ常闇森林地帯では、激しい戦争が勃発して居た。



 テルリーナ部族国の魔族達が、カレールーナ帝国軍参謀総長のゲルヴァン・サリードスの口車に、まんまと乗せられて、ダークエルフ族の部族国であるフェルニー部族国へと全軍を向わせて、攻め滅ぼそうとして居た。


 対するフェルニー部族国は、テルリーナ部族国の魔族達に対抗せんと、グルダーノ常闇森林地帯とテルリーナ・グルダーノ荒地平原との境に、防護柵を築き、土嚢を積み上げて、野戦陣地を築き上げての徹底抗戦の構えしつつ、とある一報を聞いて居た。


 

それは何かと言うと、報せを寄越して来たのはナカハラドラス部族国であった。



 彼の国を通じて、フェルニー部族国・族長議会政府は、レノア地方東南諸国商業連盟条約軍が、援兵に馳せ参じてやって来るとの報せ聞いて居たのである。



 彼らは南からの援軍を待ち続け、ひたすらに耐える戦いを繰り広げて居た。


「構えっ!!」


「放てえええええぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」



 弩弓や長弓に短弓を含めた弓兵部隊を中心としたダークエルフ部族軍は、パワーで勝る魔族軍に対して、自分達の一番に優れた長所を生かした戦いを行いつつ、善戦して居ると言えた。


「フハハハハハっ!!黑き耳長どもよっ!!喰らうが良いっ!!我が漆黒の爆炎よっ!!我が敵を漆黒の炎で焼き尽くすせっ!!ダークネス・フレア・バーストっ!!」


 天高く羽ばたく位置から眺め見る様な所から、部族の戦士達を指揮して居るのは、テルリーナ部族国・部族総長であるラディアーネ・テルリーナこと、ラディアは、漆黒の爆炎魔法を彼女や同胞達の前に立ち塞がるダークエルフの軍勢に対して、撃ち放った。


「「「「「「「「「「ぐあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」


 撃ち放った黒炎の魔弾は、一度に軽々と、500人ものダークエルフ達を吹き飛ばしてしまう。


「くっ、まだ、まだなのっ!!援軍が間に合わなければ、私達は・・・・・・・・・・・・・・・」


 フェルニー部族国の部族総長を務めている フェルイエ・ハル―ドこと、通称・フェイは、フェルニー部族国の総兵力である1万五千人を率いて、8千人のテルリーナ部族国の軍勢を迎え撃って居た。


 その姿は、ツインテール風に結った髪と合わせた金髪ロングストレートヘアーの髪型に、褐色肌を持ったやや小柄な体型を持った穏やかな顔立ちのダークエルフの女性。



 その穏やかな顔立ちをして居るフェイが、この苦戦を強いられて居る最中に措いて、とても強張った顔付きで、最早これまでかと思った時である。



「「「「「「「「「「ブオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンンッ!!!!」」」」」」」」」」

  

「えっ?」


 フェイは重騎竜の角で作った角笛の勇ましい音色は、グルダーノ常闇森林地帯とテルリーナ・グルダーノ荒地平原との境の戦場に木霊して、響き渡って居た。


「フェイ様っ!!」


「南からですっ!!」


「「「「「「「「「「ブオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンンッ!!!!」」」」」」」」」」と再び木霊した。



「来たっ!!来たわっ!!援軍よっ!!」


「「「「「「「「「「よっしゃああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「やったああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」



 フェルニー部族国の軍勢のダークエルフの戦士達は、南方より現れたレノア地方東南諸国商業連盟条約軍の援軍参着の報せを報せる角笛を聞いた事で、つい先ほどまで漂って居た敗戦ムードが、一気に吹き飛んで行く。


「反撃よっ!!レノア地方東南諸国商業連盟条約軍の全軍が、陣形展開するまで粘り強く戦い続けるのよっ!!」


「「「「「「「「「「ブオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンンッ!!!!」」」」」」」」」」とフェルニー部族国軍の重騎竜の角で作った角笛の勇ましい音色は、全ての味方への反転攻勢の合図として鳴り響いた。



「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


 息を吹き返したフェルニー部族国の戦士達は、反転攻勢に出るべく、マジックアローを付与した矢を撃ち捲くる。



「ぐぬぬぬぬっ!!一体どうしたと言うのだっ!!」


「同志っラディア殿っ!!あれをっ!!」


「アレは?」


「南のレノア地方東南諸国商業連盟条約軍とか言う連中の様ですっ!!」


「おのれえっ!!噂に聞く、成り上がりの簒奪王めがっ!!有象無象の軍勢を率いて、我らの戦いを邪魔する積りかっ!!」


 テルリーナ部族国の者達は、国土拡大をして、己が力を示す事と食料自給率を拡大する事に有った。


 テルリーナ部族たちが暮らす土地は、下草が生え難い環境のせいか、穀物の類が育ち難いらしく、その代わりにいも類ときのこ類の栽培が盛んで、グルダーノ・グレープと言う野生種ブドウを採取又は栽培して居る。


 因みにグルダーノ・グレープから作られるワインは、渋みが強いが肉料理には最高の呑み友であり、ワインソースの材料として、高値が付く高級品として取引されて居る。


そんな理由から、彼らは穀倉地帯を欲して居た。


 フェルニー部族達が暮らすフェルニー森林地帯は、クララ地方北西部に在る森林地帯の一つで、グルダーノ常闇森林地帯とも繋がって居るが、明らかに下草が生え難い土地が、この二つの森林地帯の境目と成って居る事からフェルニー部族国とテルリーナ部族国(魔族)との国境線にも成って居る。


 奥地に踏み入るとフェルニー部族の集落が盆地に固まって造られて居り、獣避けと人払いの結界魔法が張られて居り、侵入者への防御対策と成って居る。


 そんな豊かな土地を狙うテルリーナ部族国の者達は、カレールーナ帝国軍参謀総長のゲルヴァン・サリードスの口車に、まんまと乗せられて、この様な戦いを繰り広げられるのたがら、迷惑この上ないと言えた。


「居たわっ!!あそこよっ!!皆の者っ!!掛かれえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!!!」


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


 セラルーノ王国水竜騎士団を率いて居るラピリオス・サハリンラードこと、ラビスは、精鋭部隊500騎を率いて、空に舞うテルリーナ部族国総長であるラディアへと突撃攻撃を仕掛けて行く。



「くっ!水竜だとっ!!ふっ、だがこの我が、高々水トカゲ如きに遅れを取ること無いっ!!」


 空の戦場で相対したラビスとラディアの二人は、得意の得物をかち合わせ、戦い合う。



「ちいっ!!・・・・・・・ふんっ!!はっ!!えいっ!!せいやっ!!」とラピスは水竜の背の騎乗で、斧の様な槍を振るい奮戦する。


 ラピスは水竜での騎乗槍術に関しては、セラルーノ王国随一の腕前を誇って居る。


 彼女の事を単なるお上品な育ちのブラコン王女と侮っては、必ず痛い目に遭う程の腕前を誇って居た。


「ぐぬぬぬぬっ!!華奢な細い身体ながら、何と言う槍裁きっ!!」


 魔族であるラディアは優れた身体能力を誇って居るが、流石のラディアも、ラピスの騎乗槍術には、防戦を強いられてしまって居た。


「同志っ!!ラディアっ!!」


「来るなっ!!此処でお前達、同胞に助けを借りて勝ったと言うのならば、我はこの奴よりも弱いと言う事に成るっ!!」


「ひ弱な人間族の小娘如きに勝てないで、テルリーナ部族国総長が務まろうと思うのかかっ!!」 


「小娘よっ!!名は?」


「セラルーノ王国・水竜騎士団長及び、クララ地方派遣隊司令官っ!!ラピリオス・サハリンラードっ!!」


「そして、私は同時に祖国セラルーノ王国の第一王女でも在ります。ラディアーネ・テルリーナ・テルリーナ部族国総長殿。」


「ほう、今の会話だけで、我の名と素性を言い当てるか?」


「レノア地方東南諸国商業連盟条約軍の盟主王で在らせられるユーゴ・ラーシルズ ・ミンフィル国王陛下より、貴殿を捕縛せよとの命により、非才の見ながら貴女様のお相手を仕る。」


 クルクルと槍を回して態勢を仕切り直すラピス。


「この我を捕縛するだと?」


「残念ながら、我が連合国軍には、空を飛び回り、戦うえる戦力に限りがあります故、一番の適任者は、この私と言う事に成りました。」


「本当なら一番に強い筈のミルシス・ファーン大将軍閣下とその配下である飛天魔族からなる親衛隊が、族長殿のお相手を為さるのが、戦術上の定石なれど、今は戦に措ける各隊の指揮に御専念なさって居る故に、残念ながらお相手が叶いません。」



「ほう・・・・・次席、しかも人間族の王女殿下自らが、我の相手が務まるかな?」


「ご心配には及びません。短時間でケリを付けさせて頂きますので・・・・・・・・・・」


 両者は空中で槍を構えた。


「いざっ!!」


「ふんっ!!」


 両者は同時に斬り掛かる。


 カンカンカンカンと小刻みにリズム良く、槍がかち合い、金属音が響きう。


「くっ!!飛べぬ割には一合、一合と重い一撃を打ち込んで来るっ!!本当に人間族かっ!!」


(流石に魔族、それも魔人族と悪魔族と飛天魔族とのクォーターと言う3種の特徴を引き継いでいると言う亜種亜人族。)


(今はエンチャント魔法を掛けた魔槍武術で、如何にかして居るけど、長期戦は私の様な人間族には不利。)


(成らば、早急に参ったと言わせれば、この方も納得する筈っ!!)



 カンカンカンカンと打ち合いが、更に激しさ増しつつ、ラピスは決着を付けるべく、頭の中で策を巡らして居た。


「くっ!!」とラディアは、ラピスの槍を押しのけて、態勢を整えるべく、一時的に後ろへと下がるべく、後退して行く。


「今っ!!アクエルっ!!」


「ギャオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーンンッ!!」愛騎である水竜のアクエルに命じるっ!!


 アクエルは、主のしたい事が分かって居るかの様に飛んで行く。


 ラピスは、近場に居る味方の水龍とテルリーナ部族国の戦士らを踏み台にして、ラディアへと斬り込んだ。


「何っ!!8人もの敵味方を踏み台にしただとっ!!」

 

「てりやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


「がはっ!!何と言う思い切り良さだぁっ!!」


 ラピスは、ラディアの頭を手加減して叩き付けたると、スパッと優雅に、尚且つ軽やかに、アクエルの背に飛び乗って見せた。


 後にラピス王女の空中八艘飛びと言われる剛胆な戦いをしたのだと、歴史書に書かれる事に成る一幕であった。


「「「「「同志ラディアっ!!」」」」」


 ラピスはすぐさま、落下して行くラディアを捕縛して見せた。


「この戦場に居る者達よっ!!良く聞くが良いっ!!」


「セラルーノ王国・水竜騎士団長及び、クララ地方派遣隊司令官っ!!ラピリオス・サハリンラードが、ラディアーネ・テルリーナ・テルリーナ部族国総長を捕縛したりいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」



「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」



「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」



「流石はラピス様っ!!」


「スゲーっ!!この乱戦状態の中で、良く単騎で、敵総大将を捕らえられるとはっ!!」


「セラルーノ王国・水竜騎士団とラピリオス・サハリンラード王女殿下の武名は、必ずやこのアースティアの世界中に、鳴り響く事に成るぞっ!!」



 セラルーノ王国軍の将兵達は、一番の活躍を見せた自国の王女様の功績を讃えて、雄叫びを上げた歓声で喜び合う。



 一方のテルリーナ部族国軍側は、総大将であるラディアーネ・テルリーナ・テルリーナ部族国総長が捕虜に成った事で、戦意を喪失。


 部族国幹部の者達らは、レノア地方東南諸国商業連盟条約軍に対して、停戦を申し入れた。


 この日の午後16時を以ってして、テルリーナ部族国軍とレノア地方東南諸国商業連盟条約軍らは、停戦協定に調印。


 画して、後にクララ地方事変戦役と称される戦いは幕を閉じる事と相成ったのである。

 

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