外伝特別編 孤独な輸入雑貨雑貨代理店主の長い日々 3

 アースティア暦1000年・西暦2030年・5月25日・午前10時05分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸東側地方・西太平洋地域・地球海洋諸国連合同盟勢力圏・日本列島・日本国・北陸地方・新潟県・新潟市・新潟港・フローレイティア輸送商船商会新潟県出張所にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌朝、五郎は今回の大口の取り引き相手であり、異世界アースティアの国家の一つでもある。


 オローシャ帝国内のフローレイティア州に本拠地を置いて居る武装輸送船商会、その名もフローレイティア輸送商船商会と言う。



 フローレイティア輸送商船商会とは、オローシャ帝国の東方の州で、フローレイティア侯爵家が管理統治をして居るフローレイティア州を中心に商船活動をして居り、その家柄は軍人貴族系の流れを組む商会であった。

 


 商会長は紅葉の親友であり、名門貴族であるフローレイティア侯爵家のご息女、にして、現当主であるシェスカーナ・フローレイティア。 



 この商会は祖国の傭兵派遣業すら請け負って居る武装船舶商会であり、五郎がこれから面談する相手は、フローレイティア第二商船艦隊の商隊長・リゼット・ダッカーヒルンと言って、彼女の家は代々フローレイティア輸送商船商会で活躍している家系の一人でもある。


 フローレイティア輸送商船商会内では第二商船艦隊を任されている人物で、その性格は、生真面目で責任感の強いクールな性格。


 すらりとした細いスタイルと銀髪のショートカットで、凛々しい顔立ちをして居る人物。


 その彼女との打ち合わせの為に、新潟港内の一角に、経産省経由の仲介で買い取った、30階建てのビルを日本国の出張事務所と定めていた。


 新潟港に出張事務所を開設したのも、ユーラシナ大陸に近く、パイプ・ライン大河経由で、ユーラシナ大陸から寄港し易いと判断した新潟市と新潟港に程近い場所に在るからで、五郎は、フローレイティア輸送商船商会新潟県出張所として使用して居るビルを訪れて居た。



 フローレイティア輸送商船商会は、物の序でにと、新潟県庁からのご厚意で、港の一角を借り受ける契約書を交わして居る。


 新潟県庁は、フローレイティア輸送商船商会からの納税を期待して、VIP待遇で向かい入れようと、御用聞き営業サービスを展開して居た。


 その理由には、何でも利用率の高かった隣国のお得意様が消えた代わりにしたいとか言って居たりするからだった。


 話はリゼットの事に戻るが、彼女はフローレイティア家の当主たるシェスカも信頼を置いて居る人物で、彼女の扱う艦隊は、古くなって固定化魔法のお陰で、何とか腐食化を防いで居る船体の改装と補修工事を日本の技術力を使った船体改装を行う為に、日本の各地に開かれて居る国内有数の大型港に寄港して居た。


 リゼットは、大陸北西にあるパイプ・ライン大河の河口に程近い新潟港を拠点に商取引の活動を行って居る。


 今日は日本人仲介業者との初会合と言うので、リゼットは新規事業の日本国との初の貿易商談を成功させようと意気込んで居た。


 フローレイティア輸送商船商会新潟県出張所内に在る商船艦隊を率いる商隊長と言う艦隊司令官クラスの役職に付いて居る者に宛がわれた専用の商隊長室で、書類仕事に精を出して居た。


 異世界人の人達は、まだパソコンが扱えないので、この異世界アースティアに異世界転移した日本国内でも、40年以上前に良く見られた書類仕事が主流な姿が、出張所内で見受けられて居る。


 パソコンデスクワーク主流の日本では、大量の紙書類を扱うのは、非常に珍しい姿では在るが、アースティア世界では、まだまだ当たり前の主流な光景なのだった。


 五郎が商隊長室と日本語形式に掛かれた、ネームプレートのドアをコンコンとノックする。


 そのドアのネームプレートには、日本語で書かれて居る下に現地語に類する英語形式での商隊長室と書かれた文字も刻まれて居る。


そのドアの中からリゼットは「どうぞっ!」と返事をして来た。


「失礼します。」



 五郎は室内に入ると、真っ直ぐに商隊長のリゼットが座って居る机の前に立った。 


「輸入雑貨代理店・鳴滝カンパニーの紹介で、フローレイティア第二商船艦隊で買い付ける仲介バイヤーの仕事を引き受ける事に成りました。」


「重松輸入雑貨商会の社長の重松五郎です。」


「詳しい話は日本国・経産省と鳴滝さんから聞いて居ます。」


「初めまして、私はフローレイティア第二商船艦隊の商隊長並びに、このフローレイティア輸送商船商会新潟県出張所の所長を任されて居ます。リゼット・ダッカーヒルンです。」


「これからの商談では、何かとお世話に成ると思いますので、どうか宜しくお願い致します。重松さん。」 


「こちらこそ、宜しくお願い致します。リゼットさん。」


 挨拶を交わした五郎は、リゼットに予め用意して居た名刺を差し出す。


「これは確か・・・・・名刺と言う物ですか?」


「この日本にやって来て以来、会う方、会う方から差し出されるので、どれだけのお金持ちかと思ってしまいましたが、この日本国では製紙業が盛んで紙が安価に手に入れられると知り、私は物凄くその事に驚きましたね。」


「此方の世界では、名刺は無いんですか?」


「ええ、紙自体が本当に貴重なので、この様な贅沢な使い方は殆んどしませんね。」


(へぇー、そうなのか、まぁ、確かに紙は作れても、大量生産は近代化が進むまでは、地球でも難しかったしな。)


(ひょっとしたら、これからの時代の異世界商会の事業所関係者達に対して、事務なんかの文具雑貨が売れるかも知れないな。)


 五郎は商売柄、相手の欲しがりそうな物を見抜く目は持って居る。


 日本人と会う機会が増えたリセットとフローレイティア輸送商船商会の面々が言う名刺が、とても珍しいと言う言葉に、其処に商売上の商機が有ると見て、何を売ったら良いかと考え巡らしてしまう五郎。


 彼の渋沢栄一も、ヨーロッパに行った時には、新聞紙が大量に擦られて売られて居る事に感銘して、後に誰でも紙が気安く仕え、買える様にと製紙業にも力を入れたらしい。


 それくらい紙が安価に使える事なのは、社会にとって凄い事なのだ。


「さて、直ぐにでも商談に入ります。そちらに在るソファーへどうぞ。」


「はい。」と反射的に答えた五郎は、暫し考えに耽って居たが、リゼットの言葉を聞いて我に返った。


 リゼットは五郎に近くのテーブルが置かれた近くのソファーに座る様に促し、彼女もその反対側の席に付いた。


「さて、重松さん。我々は日本国にやって来たのは、我がフローレイティア輸送商船商会が誇る魔導商会船団の船の改修工事の為です。」


「しかし、単なる改修工事だけの為に異世界国家と言う珍しい土地へと足を延ばして、船が治ったら、そのまま帰ると言うのも味気ないし、何より燃料が勿体無い。」


「今行われて居る船体の改修工事は、日本政府とオローシャ帝国の間で臨時協定が結ばれ、両国政府から我が商会へ補助金が出る事に成りました。」


「そんな訳で、お金に余裕を持って日本国に入国して居る状態で、手ぶらで出国するのも何なので、日本国・経産省経由で、我々にも日本国の品物を何か買えないかと打診をした訳です。」


「大体のお話は伺って居ます。正直言って、この様な国同士が関わる様な大口の取り引きを扱うのは初めてですが、精一杯に務めさせ頂きます。」


 五郎は丁寧な誠意見せる挨拶で、この商談を成功させようと意気込みの言葉をリゼットに言った。


「私も貴方の商才力に期待させて頂きます。」


「お噂で重松輸入雑貨商会は、あらゆる分野で多岐に渡り人脈と商品を取り扱って居ると、経産省の紹介で知り得た鳴滝カンパニーの鳴滝社長から伺って居ます。」


「いえいえ、単なるお客様第一主義をして来たら、何時しか何でも屋に成ってしまっただけですよ。」


「そんな謙遜ならずとも。」


(鳴滝の奴、此処でも大ぼらを吹いて、やり難いじゃないかっ!!!)


 此処でも鳴滝カンパニーの社長である鳴滝浩治の影が見え隠れして居た。


 鳴滝は、どんな方法を使ってか、何処からともなく仕事を仕入れて来るらしく、その人脈は五郎のとは別の意味で多く多岐に渡って居た。


 五郎が純粋に商売人としての付き合いが多い中で、鳴滝はあらゆる分野の人脈と太く細いパイプを各界に作り上げていた。


 そんな感じで、五郎に向いて居ると見た仕事を時より、譲ったり、下請けをさせたりして居るが、その仕事内容が結構な無茶振りな内容なのが玉に瑕。


 その際に鳴滝は、決まって五郎の事を褒め捲くった内容を取り引き先の人々に法螺話に近い内容を吹聴して居るから、その事に五郎は何時も苦笑するしかなかった。


 結果的に請け負わされた仕事を完璧にこなしてしまうから、本当に嘘では無く成る事を付け加えて置く。

 

「それはさて置き、取り引きする予定の品物ですが、その一つである菓子類は、出発前までに納品が可能との報せを大手菓子メーカーの企業様や各地元の老舗菓子店からのご連絡を頂いて居ります。」


「そうですか。」


「ええっと、その魔導冷蔵庫ですが、本当に大丈夫ですか?」


「ああ、その点はご心配無く。この世界では600年以上前の昔から使って居る魔導技術ですので、その点はお気になさらずとも平気です。」


「日本の方には馴染みが無いと思いますが、我が商会にも一定数の魔導師が在籍して居り、その魔導師の手によって管理された魔導冷蔵庫内では、御賞味期限を固定させた状態での移送が可能です。」


(へえー、この世界にも、そんなに便利な物が有るんだなぁ~、正しくファンタジー世界と言った所か。)


 魔導冷蔵庫に付いて詳しい説明を聞かされていた五郎だったが、その内容はぶっ飛んだ話だった事も有り、半信半疑と言った所で有った。


 魔導冷蔵庫とは、空間魔法ち冷気魔法を組み合わせた魔導技術による移送方法で、魔導冷蔵庫の中に新鮮な食料を収納すれば、保存期間を有る程度の延ばす事が可能と成って居る。


 少なくとも三ヶ月以上は食べられる状態が保てるので、長い航海を想定している大手の商会を中心に普及して居るが、生産地や生産が出来る国家が限られて居る事。


 とても高価な品物であるが故に、地球で普及して居る様な電気冷蔵庫の様な保有率は低い物であった。


「次に文具類と書籍類ですが、文具は高級文具メーカーの数社と話し合い、指定納期までの納入と成って居ます。」


「次にご希望の書籍類に付いてですが、簡単な学術書と小説類・旅行雑誌類は、大手出版社と話し合いが付いて居りますので、同じく納期までに納品が可能との事です。」



「分かりました。それらの商品に関しては、取り敢えずは、大丈夫そうなので、重松さんに担当して頂く予定の石川県・富山県・新潟県の伝統工芸品の品物に付いての進捗状況を知りたいですね。」


「はい。此方は前もってカタログを作らせて頂きましたので、其方をご覧ください。」


 五郎は自分の担当地域に指定された石川県・富山県・新潟県の伝統工芸品の品物の一覧表をカタログとして纏め上げた書類を作成し、その書類をリゼットに手渡した。


 五郎は各地に在るコネクションの伝手を辿って、各地の名産品をカタログの中に盛り込んで居る。


 まず最初にカタログに載せた石川県は、伝統工芸品の生産が盛んな県でも知られ、先ず真っ先に脳裏に浮かぶものと言えば、金沢市の金箔細工。


 金沢市で生産されている金沢箔は金箔の国内シェアの98%以上を占めて居るし、銀箔の国内シェアは100%だっりする。


 次に輪島市の輪島塗。我が国が伝統工芸品として指定する漆器の中でも生産量が最大の物の一つだっ!!


 この他にも、加賀地方で作られる九谷焼、加賀市の山中塗、金沢市の金沢漆器、金沢仏壇、加賀友禅、白山市の牛首紬、美川仏壇、七尾市の七尾仏壇、輪島市の能州紬、珠洲市の珠洲焼などが生産されて居る。



 その中でも全国的にも有名な加賀友禅の珍しい生地に目を奪われたリセットは、そのページを興味深く見て居た。


 その源流は、室町時代に加賀国で行われていた無地の梅染めに有ると言われて居る。


 江戸時代中期に加賀藩にて栄えた加賀御国染を基に、京友禅の創始者といわれる絵師の宮崎友禅斎が晩年、金沢の加賀藩御用紺屋棟取であった太郎田屋に身を寄せ、加賀御国染に大胆な意匠を持ち込んで確立した染色技法と、その作品が現在まで続く加賀友禅なのだ。


 加賀五彩(藍、臙脂、草、黄土、古代紫)と呼ばれる艶麗な色彩で知られ、特に紅、紫、緑系統の色を多用する。


 柄は図案調の京友禅に対して草、花、鳥等の絵画調の物が多く、自然描写を重んじる中から「虫喰い」等独自の装飾が生まれた。


 ぼかしも、京友禅以上に多用される傾向にある。


 金沢市内を流れる浅野川では、工程の最後の方に、余分な糊や染料を洗い流す友禅流しが見られる事がある。


 そんな品々の写真をリゼットは興味深く見ながらページを丁寧にめくり続けて行くのだった。

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