外伝36話 ミンフィル王国東南諸国同盟編 魔神賢王と呼ばれた男 7
アースティア暦998年 ・7月20日・午前10時11分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸東南部・レノア地方・ミンフィル地方・ミンフィル平原地方・ミンフィル王国・王都・マルス市・マルス城にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セラルーノ王国が、レノア地方東南諸国商業連盟条約に加盟してから四ヶ月後の事である。
ユーラシナ大陸東南部・レノア地方の北西部・クララ地方に、争乱の嵐が巻き起こりつつあった。
カレールーナ帝国のゲルヴァン・サリードス・カレールーナ帝国軍参謀総長が、クララ地方諸国に仕掛けた策略により、同地方の国々は戦争を始めてしまった。
その隙を突くようにして、カレールーナ帝国は、クララ王国の半分を味方に付ける形で国の半分を乗っ取ってしまおうとも目論んで居た。
クララ王国は、フェルニー部族国・テルリーナ部族国・ナカハラドラス部族国・レノア中央都市国家連合等の4カ国に囲まれ、険しい山脈地帯と荒地平原が多い国土を持った王政国家。
一応は王国制の体裁を取り、その体制を敷いては居るが、元は文明圏とはかけ離れた戦闘蛮民族が同地の利権を争い合いながら国土を統一成し遂げた国である。
そのクララ地方の南盆地や平原等の地域一帯を国土として、統一を成し遂げてから350年、今現在のクララ王国は、真っ二つに割れてしまって居た。
周辺地域の国々を相手に戦い、自国の国土を広げて行こうと言うスローガンを掲げて居るジーク・クララ・クオッシュ王子を中心とした強硬論派閥が台頭を始めて居た。
それに対して、融和政策に由る内需と経済の拡大で、自国を豊かにしましょうと言うスローガンを掲げて居るのが、ジークの姉であるニルカーナ・クララ・クオッシュ王女を中心とした融和論派閥である。
クララ王国は、それぞれの王族の後継者とその派閥に属する者達により、二大派閥に別れて国内で政争中と成ってしまって居た。
特に武勇に優れたジーク・クララ・クオッシュ王子を中心とした強硬論派閥側は、カレールーナ帝国に由る裏工作活動の手が伸びて居り、ニルカーナ・クララ・クオッシュ王女を中心とした融和論派閥は形勢が不利に成りつつあると言う。
ゲルヴァンは、チョイと小さなボヤ程度の火事に油を注ぐだけで、更なる大火事をワザと起こさせて、カレールーナ帝国に有利に事を運ぼうと言う目論見が、まんまと成功して居ると言えた。
後はその仕上げとして、それぞれの国々が疲弊仕切った状態へと持ち込み、漁夫の利を得れば良いだけだった。
だが、此処で不確定要素の問題点が一つだけ有った。
ユーゴとミンフィル王国が、どう動くかである。
その動きは、クララ地方事変戦役の開始から一月が経過しようとした頃のこと、ナカハラドラス部族国は、武勇に優れたジーク・クララ・クオッシュ王子を中心とした強硬論派閥と戦争状態に発展して居た事も有り、ミンフィル王国にレノア地方東南諸国商業連盟条約の規定による支援要請を求めて来た。
レノア地方東南諸国商業連盟条約は、表向きは商業交易同盟条約だが、最悪の場合は軍事同盟に早変わりし、援軍を含む支援を同盟条約加盟国にすぐさま送る事が取り決められて居た。
「そんなにも情勢が悪いのか?」
「はっ!ユーゴ陛下、我がナカハラドラス部族国の部族総長たるバルセー・ロナダイン部族総長さまも、このままでは分が悪いと見て、ミンフィル王国に対して、レノア地方東南諸国商業連盟条約に基づく、援軍を含む支援要請を求めたいとの仰せに御座います。」
ナカハラドラス部族国から派遣されて来たドワーフ族の男性外交官の使者は、淡々と今現在のクララ地方に措ける趨勢と状況を細かく伝えて来た。
「ふーむ・・・・・・・・」
ユーゴは暫し考えを巡らせた。
(此処でクララ地方に介入するのは不味いな。だが、ナカハラドラス部族国は、レノア地方東南諸国商業連盟条約に基づく商業交易同盟国だ。)
(簡単には見捨てられない。しかしながら、カレールーナ帝国と本格的に事を構えるのは早計。)
(何か無いのか、我がミンフィル王国が、堂々とクララ地方に介入出来るだけの正当な理由が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
ユーゴは頭を悩ませた。簡単に軍事介入をすれば、カレールーナ帝国と全面戦争へと突入する事に成る。
下手をすれば、西方バルバッサ帝国同盟の盟主国であり、カレールーナ帝国の最も強力な盟主国であるローラーナ帝国も参入して来るかも知れない。
それだけは、何としてでも避けねば成らなかった。
「ユーゴ陛下っ!如何やら頭を痛くし、大変にお悩みのご様子。」
「ふっ、外交官である其方でも分かるだろう。これは如何に条約が有るとは言え、簡単には答えが出させない事柄だ。」
「確かに。ですが、そう仰っると予想し、我らに一計が御座います。」
「ほう・・・・・・・・」
「それをこの場で披露したく御座いますが、その前に策を実行する為の重要な人物をユーゴ陛下にお引き合わせしたく存じますが、この場にお通して宜しいでしょうか?」
「許す。」
「はっ!!それでは、お入り下さい。」
ナカハラドラス部族国から派遣されて来たドワーフ族の外交官は、大声で謁見の間の外で控えていた人物に入室を促した。
「・・・・・・お初にお目にかかります。ユーゴ・ラーシルズ・ミンフィル国王陛下。」
「クララ王国・王位継承権第一位、第一王女、ニルカーナ・クララ・クオッシュで御座います。」
優雅で静かで且つ淑やかに謁見の間に現れ、気品溢れる王侯貴族式の挨拶をして現れたのは、クララ王国の王位継承権第一位・第一王女・ニルカーナ・クララ・クオッシュであった。
やや高い身長と黒髪のロングポニーテールに薄い褐色肌。薄いオレンジ色のゆったりとしたワンピースを着こなす整ったボデイスタイル。
ユーゴの妻であるイリナとは別の意味で、優れた気品溢れる王族と言う雰囲気と、彼女とは違う大人の気品と色香に溢れた女性で有る事が一目で分かる程に、女らしさが滲み出て居た。
「・・・・・・・・」
ユーゴは思わず見惚れてしまう。
「嫌ですわ陛下。その様に、まじまじと見つめられては、その・・・・・・・・・・・・」
「済まない。妻のイリナは大変に出来た、俺には不釣り合いの女だなのだが、それとは別の意味で、ニルカーナ殿が美しかっのでな。ついうっかりと、貴女に見とれてしまったのだ。」
ユーゴは野に生まれて育った為に、イリナの様なお転婆気質の娘も好み一つだった。
しかし、結婚してからと言うより、最初から惚れた相手にガツガツと来る肉食美女なので、好き好き大好きと大型犬の様に迫られても、ユーゴ自身の体力が持たない。
そんな所に後ろに一歩退いた感じの大人の色香の有る女性が現れた為に、グッと来てしまったユーゴの視線が釘付けなってしまうのは、ベッドの上で常に尻の下に敷いて来るイリナとは、ちょっとだけ距離を置いて置きたいと言う心境の表れなのかも知れない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」とニルカーナは、ユーゴに真面目な褒め言葉を聞いた事で、顔と頬を真っ赤に染めてしまい黙り込んでしまう。
「ごほんっ!!」とドワーフ族の外交官は、仕切り直しの為にワザとらしい咳払いする。
「おっと、これは済まない。」
「話が脱線してしまいましたが、ニルカーナ王女殿下が、今日ミンフィル王国に参られたのは、クララ地方での争乱を如何に治めるのかを王女殿下を交えて話し合う為で御座います。」
「それは妙な話だな。貴国であるナカハラドラス部族国や、北西部のダークエルフ族の部族国たるフェルニー部族国。それに争乱の火付け役の一人でも有る魔族部族国たるテルリーナ部族国。」
「今挙げた国々とクララ王国は、互いに敵対して居る者同士の筈。」
「はっ!今まさにユーゴの陛下の仰られた通り、クララ地方はそれぞれ事情から敵対して居る者、しない者に別れて、数百年以上もの月日が流れた今でも争いが止みません。」
「特にクララ王国と魔族部族国たるテルリーナ部族国等は、同盟国こそ結んでは居りませんが、それぞれの立場から各国とは犬猿の仲と言うべき天敵同士。」
「ですが、当代の世代交代が迫るクララ王国内では、諸事情が変わりまして、此処に居られるニルカーナ王女殿下は、西の大国が近隣地域にまで、その魔の手が迫って来て居る情勢だと言うに、未だにクララ地方の狭い土地を巡って争いを続けるのは、如何なものかと言うお考えをお持ちなのです。」
「ほう、武勇を誇るクララ王国の王族の一人が、珍しいお考えをお持ちな物だ。」
「ですが、このままではクララ地方に住まう者同士は、何れは共倒れと成ってしまいますっ!!」
「最早、私の予見は近い将来に措いて、的中する事は確実。」
「一刻も早く、如何にかするかの手立てを打たなければ、クララ地方の国々は、全てを失う事に成るでしょう。」
「しかしだな。幾らクララ王国の正当なる後継者の言と言えども、如何して、その様に急を要する様な発言を我が国に来てまで言うのだ?」
「実は・・・・・・・・」と言い掛けつつ、ニルカーナの表情が必死な顔付きから暗い物へと急激に変わった。
それを見兼ねて、ドワーフ族の外交官は、彼女に成り代わりその説明を始めた。
「ユーゴ陛下、実はクララ地方の争乱が始まって暫く経ってからの事です。クララ国王の国王であったザイール・クララ・クオッシュ陛下は・・・・・・・実の息子たる継承権第二位の地位に在ったジーク・クララ・クオッシュ王子の反乱に遭い、討ち死に致したとの事です。」
「何だとっ!!実の息子が反乱だとっ?!」
お家騒動では良く有る定番のお話なのだが、クララ地方の争乱の陰に措いて、思わぬ方向へと展開した話を聞いたユーゴは、大声を荒げてしまう。
「外交官殿、此処からは・・・・・・・」
「はっ!!」
ニルカーナは、実家の王家内での不祥事を話すのに、他国の外交官の口から話させるのは筋違いと思って、其処からは自分の口から話す事した様だ。
「父上が討たれたのは、今から半月ほど前の事です。」
「我が国はクララ地方でのきな臭い情勢に対処するべく、警戒態勢を取って居りました。」
「ですが、そんな警戒厳重の中で、一つだけ盲点を突いて来た者が居ります。」
「カレールーナ帝国か?」
「その通りですわ。」
「我が弟は武力こそ、武勇こそが国を発展させる活力剤と考えて居る節が強く。」
「事ある毎に国を富ませるなら、近隣諸国と戦をするべきだと声高に叫んで居りました。」
「どうも、我が弟のジークは、此処最近は、カレールーナ帝国軍の何れかの高位の人物と談笑して居るとの噂話が、後を絶たなかった様子。」
「まあ、私がその話を聞いたのは、反乱が起きた後だったのでしたが・・・・・・」
「弟ジークは、父親に近隣諸国の情勢に付いての話がしたいと面会を求め、謁見の間にて父上を騙し討ち、そのままクララ王国の王都コーチン・ステナント市と王城・コーチン・ステナント城を己の支持派閥の将兵達や貴族達と共に政治中枢を乗っ取る算段でした。」
「ですが、反乱を知った半分の国王派と私を後継ぎとして支持して居る正当王位派閥の者達は、城を奪還しようと軍を派遣しました。」
「ですが、その結果は痛み分け、 ジークが率いるジーク派閥の反乱軍は王都と王城の確保には成功しましたが、国を二つに割るという失敗を犯しました。」
「私はジークの反乱直後に、正当王位派閥の者達。今はニルカーナ派閥軍と呼ばれて居ますが、その私の支持派閥の手の者により、王都を脱出し、今はクララ王国西部の居城・ブォードルプス城にて弟と内戦の戦を繰り広げて居ます。」
「なるほど、詰まりはナカハラドラス部族国に戦を仕掛けて来ているのは、ジーク・クララ・クオッシュ王子が国力拡大の為に攻め込んだと言う訳か?」
「はい。本来なら私と雌雄を決する筈ですのに、あの子ったら、カレールーナ帝国軍の支援を受けて居る様で、カレールーナ帝国軍に私側の軍勢と勢力圏に対して牽制をさせつつ、自分の思う通りの国体体制を築き上げるべく、手段を選んで居ない様ですわ。」
「相分かった。クララ地方に措ける戦乱情勢は、その対処を如何にかするには急を要する様だな。」
「お二方の申し状は確と聞き届けた。この案件は、しっかりとミンフィル王政府閣僚議会とミンフィル王国元老院議会に掛けて、数日中には、我が国は行動を起こすだろう。」
ユーゴはこの外交会談に措いて、クララ地方の争乱を治める為に動くことを決めた。
その為の介入に必要なニルカーナ・クララ・クオッシュ王女と言う錦の御旗が手に入った事が大きかった。
ユーゴが魔人王と成るべく成長するに必要不可欠な戦いが、今此処から始まろうとして居た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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