外伝31話 ミンフィル王国東南諸国同盟編 魔神賢王と呼ばれた男 2
アースティア暦996年・4月7日・午後19時07分頃・ アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸東南部・レノア地方・レノア中央都市国家連合 ・レノア地方東部 ・ルナック森林・ルナック街道・ルナック森林盆地・ルナック街道主要街道分岐点中央部・カレールーナ帝国東方征伐軍陣地にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カレールーナ帝国のヨージモード・イマガワン侯爵は、この世界でも良くある典型的な高位貴族系軍人で、分かり易く言えば成金で地位を獲得した、更に強いて言うならば、貴族官僚制度が産んだ糞みたいな人物であった。
彼は金と家系と地位でしか物を見る事が出来ないので、ユーゴの事をその辺に良く居るごろつきや盗賊の様な卑しい蛮族人としか見て居ない。
でっぷりとした身体つきで、ワインをチビチビと飲みながら、ダラダラと部下の報告を聞く事と、進軍せよと言う命令を発する事が、己の職務だと思って居る輩であった。
そんな男が、何時もの様にワインを飲みつつ、ダラダラとしながら過ごして居ると、気が付けば時刻は19時を回ってしまって居た。
時は夕食時で、金に物を言わせて搔き集めた兵糧で、贅沢三昧な食事を将兵達は取って居た。
オマケにそいつ等と来たら、お酒を浴びる程に飲み干して居る。
実はこの兵糧は、レノア中央都市国家連合やカレールーナ帝国の支配が及んで居るレノア地方の属国から搔き集めた代物で、それらの国々では、カレールーナ帝国軍による徴発行為により、食料不足が囁かれて居た。
「ひっく、ぷはーっ!!気持ち良いでこじゃる。」
「イマガワン将軍閣下、定時報告です。」
「うむ。」
「今だ敵に動き無し、奪い取ったルナック街道砦内に引き篭もり、大軍たる我が方に対して、攻めあぐねているのこと。」
「ご苦労、下がって良いでこじゃる。」
「ふん、所詮は下賤の成り上がりの蛮族の頭、しかもこの世界の人間族に迷惑を掛け続けて居る卑しい魔族。」
「我ら人間族の崇高な国家の一つである、我がカレールーナ帝国の足元にも及ばない下等種族の若造は、今頃は無い知恵を必死になって絞って居るでこじゃるよのう。」
「ぷはーっ!!でこじゃるっ!!」
ワインをチビチビと飲みながら、お公家の様な妙ちくりんな口調で、ユーゴの事を蔑むヨージモード・イマガワン侯爵。
だが、ヨージモード・イマガワン侯爵よ、貴様はもう少し、気を付けた方が良い。
貴様は既に言ってはならない、死亡フラグを立ててしまって居る。
それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
突如として、ヒヒーーンッ!!と言う馬の鳴き声が聞こえて来る。
その鳴き声と共に、激しい蹄の足音も物凄い速さで近付いて来て居た。
「それえええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!突っ込めえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」
ユーゴ達は大胆にも、ミンフィル王国軍のリネット・アスト近衛騎士団長に命じて、騎馬隊1500騎を率いらせ、カレールーナ帝国東方征伐軍陣地に、堂々と真正面から突っ込んで攻め掛かって来たのである。
「てっ、敵襲うううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「何っ?!どっ、何処からだっ!?」
「侯爵閣下っ!!大変ですっ!!」
「真正面ですっ!!」
「敵は真正面から来ましたっ!!」
「何とっ!!真正面からだとおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」
「何と大胆なっ!!」
カレールーナ帝国東方征伐軍は、ルナック森林盆地の中心部に円を描くように一カ所に纏まって軍勢を布陣して居た。
一見して隙が無い様に見えるが、逆に言えば、だだっ広い盆地の中央地点と言うのはは、大軍に取っては隙だらけの守り辛い所で陣取って居るとも言えるのである。
もし、これが街道の要所ごとにバラけて守りを固めて布陣をして居たのなら、ユーゴは攻め手に困り、敵をミンフィル王国内に引き吊り込んでのゲリラ戦を仕掛けるしか打つ手が無かっただろう。
「イマガワン将軍閣下、敵襲ですっ!敵が真正面から騎馬隊でっ!!」
「慌てるなでこじゃるっ!直ぐに我が方も騎馬隊と槍歩兵隊で迎え討つのでこじゃるっ!!」
イマガワン将軍は、直ぐに誰にでも出来る様な迎撃策を講じた。
「えいっ!!だあーーっ!!」と先陣を切って騎馬隊で突っ込み、馬上でサーベルを振るうリネット。
リネットは敵側の迎撃準備が整って居ない事を良い事に、敵陣中枢へと突っ込むが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よし、こんなものだろう。予定通りに南へと抜けるぞっ!!」
「ははっ!!全部隊っ!!速やかに撤退っっ!!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!」」」」」
リネットが率いる騎馬隊は、大した負傷者を出さずに悠々と素早く南へと撤退して行った。
「申し上げまするっ!!先ほどの奇襲攻撃で我が方の損害は一千人前後、まったくもって敵にしてやられました。」
「ぐぬぬぬっ!!おのれっ!生意気なっ!!」
敵の奇襲攻撃作戦にしてやれてしまい、それに悔しがるイマガワン将軍。
「追撃っ!!追撃するのでこじゃるっ!!」
イマガワン将軍は、すぐさま追撃隊を派遣させた。
後を追いかけるのは、2千人の追撃部隊。
しかし、当然の事ながら、これは罠である。
ユーゴ達ミンフィル王国軍は、 カレールーナ帝国東方征伐軍一万二千人のうち、三千人を本隊から離脱させた事に成る。
これで残りの兵数は約9千人と成ってしまった。
「総員っ構えっ!!」
北西に在る木々が生い茂る林が立ち並んでいる小高い山に潜んで居たミンフィル王国・魔導弓騎士隊。
その部隊長を務めているマルーシャ・ルネーノ大佐は、一千の魔導弓騎士隊を率いて大胆にも敵軍の北西六百メートル付近から、魔導弓を撃ち放とうして居た。
彼女の部隊の周りには最低限の守りとして歩兵隊三百が林の茂みの中に潜んで魔導弓騎士隊を守って居た。
「放てえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
パパパパバッ!と弦音を立てて撃ち放つ魔導の矢は、光輝きながら雨の様に敵陣へと降り注いだ。
「「「「「ひやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」
「魔導弓の矢の雨だっ!!こりゃ堪らんっ!!」
逃げ惑うカレールーナ帝国東方征伐軍の者達。
「次発っ!!ファイヤーアローっ!!今度の目標は敵陣地の全てのテントだっ!!構ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「放てええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ミンフィル王国・魔導弓騎士隊は、次の攻撃として、ファイヤーアローを撃ち放った。
狙うのは、人・モノ・休息や重要な物が置かれ為に張られて居るテント群である。
これを潰された軍勢は、補給物資と多くの人材を失う事に成り、その軍勢が大軍と言えども、一溜まりも無い事に成るだろう。
「「「「「ひやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」
「「「「「あちちちちっ!!」」」」」
テントや補強物資に火が回り、慌てふためくカレールーナ帝国東方征伐軍。
其処へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今だっ!!」
ヒヒーーンッ!!と馬の手綱を引き上げて、攻撃命令を発するユーゴ。
「突っ込むぞっ!!」
「はっ!!」
「御心のままにっ!!」
「「総員っ!!突撃いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」
ユーゴに乞われて新生ミンフィル王国軍の大将軍と成ったミルシス・ファーンミンフィル王国大将軍と前王朝時代から近衛騎士団長を務め、新生ミンフィル王国軍の総司令官も兼任して居るアイフィル・ハンス近衛騎士団長とが声を揃えて、北東の森林地帯に潜み伏せ隠れた居た、三千五百人の軍勢に対して、突撃を命じる。
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」
ミンフィル王国軍の将兵達も雄叫びを上げて、敵軍へと突っ込んで行く。
その光景は、織田信長が躍進する切っ掛けと成った戦いである桶狭間の戦いの如くであった。
「なっ!なっ!何でこじゃるとっ!?」
「今度は北東側の森林地帯から敵が攻め込んで来ましたっ!!」
「そんなバカなでこじゃるっ!!」
余りにも大胆な奇襲攻撃を受けてしまい狼狽するイマガワン将軍。
其処へ、南からも死神の蹄の足音が近付いて来て居た。
「南からも蹄の音がっ!!」
「おおっ!!敵を蹴散らした味方の追撃隊が戻ったでこじゃるかっ?!」
南に向かわせた一隊が、追撃を終えて戻ったと思ったイマガワン将軍は、心から安堵して居た。
だが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうは成らなかった。
「一人も逃がすなよっ!!再度突撃だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」
陽動作戦の為に南へと一時的に退いて居たリネット隊が、敵の追撃隊を蹴散らして、本隊との挟撃する為に、ルナック森林盆地へと戻って来たのである。
「こりゃ、堪らんでこじゃるっ!!」
これに堪らず、イマガワン将軍は率いて居た軍勢を放り出して、スタコラさっさと馬で逃げ出した。
「追撃する。一人も逃がすなああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ユーゴは追撃命令を声高に叫んだ。
「「了解ッ!!」」
「「追撃っ!!一人も逃がすなっ!!」」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!」」」」」
ミンフィル王国軍の6千人は、夕刻までカレールーナ帝国東方征伐軍を追撃し続け、角笛を合図に、この日の戦いを終えたのであった。
カレールーナ帝国東方征伐軍は、この日のミンフィル王国軍6千人の攻撃に対して、一万二千の軍勢の内、実に1万人近い死者を出すという大敗北を期してしまった。
この戦いは、後にルナック森林盆地夜襲戦と呼ばれ、ミンフィル王国軍が、ルナック大封鎖を解く為に西へと進撃を開始して行く切っ掛けと成った緒戦とされて事と成った。
この後ミンフィル王国軍は、ルナック大封鎖を解く為に西へと進撃を開始して行く事に成る。
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