2話 接触 交差する海域 2

アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午前10時00分頃・コヨミ皇国・南西国地方・南西国藩・藩都・加古島市にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




この日、コヨミ皇国のコヨミ半島の西側に広がる龍雲海は、久々の快晴となった。


 この龍雲海は、特に冬から春の終わりに掛けて濃い霧が発生する。



 その様相は丸で水竜がとぐろ巻いて居ると言う風景に因んで付けられて居る。


 この世界には、水竜や海竜と言う龍族と言う野生動物が世界中の至る所に生息して居る。



 それぞれ棲んでいる場所が違うが、水辺に生息して居ると言う共通点が在った。



 海竜種の中には、地球の東洋地域で良く描かれて居る竜と良く似た種類が居る。


 その竜の動きを龍雲海の霧に見立てたのが、この海域に名付けられた地名の由来である。



 さて、コヨミ皇国皇女である暦紅葉は、公務の一貫で半島南部の藩の海上防備の視察名目で、水軍の視察が行われようとして居た。


 これは反戦派閥側をボコボコにしてしまった彼女に対するペナルティを課せられて居る為に、わざわざ皇室を重んじる嶋津家に左遷させられた様な物とも言える処置である。


 要は父親を始めとする宰相内閣府らからは、ほとぼりが冷めるまで王都である星都市から出来るだけ遠くに離れて大人しくして居る様にと言われて居るのであった。


「それでは姫様、出港致します。」と南西国藩主である嶋津義隆は、紅葉に艦隊の出発を告げた。




港には戦国時代に出てきそうな安宅船6隻と鉄甲船6隻を合わせた計12隻が港に並んで居た。


 コヨミ皇国の軍船は、これ等の艦隊に大砲用の砲門が10門ほど左右に並べられ、前後に3門の大砲の砲門が備えられて居た。


 これと焙烙と言う爆弾と弓で戦い。


 最後は白兵戦でケリを付けると言う戦法が一般的であった。



この地方を治める南西国藩主で嶋津義隆は立派な髭を蓄えた豪快なおっさんと言ったか感じで、鬼嶋津とも呼ばれる剛勇でもあった。


 その義隆の周りには、屈強な侍達が控えて居る。



 一報の紅葉の方には、近衛隊である赤姫隊と呼ばれる護衛部隊が在り、その部隊構成員には、彼女と近しい者だけで結成された部隊で、加藤英美里が部隊の部隊長を務て居た。


 これとは別にもう一つの部隊が在って、その名を黒姫隊と言う部隊を持って居る。



 今は別の船に乗って居て、その部隊の指揮を執って居るのは、絵美里の年下の従姉妹で、妹みたいに可愛いがって居る福島香織であった。



「良し、全船に出港せよっ!」



「はっっ!出航よーいっ!!!」




日本の戦国時代に出て来そうな軍船団は、その一路を西側の国境と成って居る海域へと船首を向けつつ、定期警戒任務に向うのであった。




 アースティア暦 1000年・西暦2030年・正午・旧東シナ海海上・旧中国領海近海にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




あさくら号救出艦隊として、派遣された海上自衛隊の護衛艦隊の艦隊編制は、以下の通りである。



 舞鶴基地所属のまつゆき・あさぎり・しらね。


 呉基地所属のいなづま・いせ・せんだい。


 佐世保基地所属のこんごう・ちょうかい・あまぎり。


 以上が護衛艦隊の編成概要であり、艦隊の旗艦をいせをとして、現場へと急行して居た。



 また、防衛省は航空自衛隊の航空幕僚長から南西航空混成団司令部を通じて、那覇基地の所属するF-15Jの部隊に対して待機命令を出し、スクランブル体制を取って居る。



 しかしながら、空自航空隊の出撃は、半ば決まったと言っても良い状態だった。




護衛艦しらねを含む後部格納庫を持つ護衛艦からは、哨戒ヘリが発艦準備に入って居る。



 ヘリコプター護衛艦いせでは、10機のアパッチ部隊らが発艦態勢に入って居た。


 このとある平行世界の一つでもある西暦2030年の地球世界から転移した日本は、ある程度の予算を獲得をして居た事も在ってか、アパッチの総数が45機程度まで保有するに至って居るのだが、だからと言ってアパッチが大事な虎の子装備品の一つである事は違いない。



 出撃命令が出されたのは、目達原駐屯地・西部方面航空隊・第3対戦車ヘリコプター隊・第2飛行隊の精鋭だった。


 護衛艦いせの艦橋では、いせ艦長兼救出艦隊司令官である鈴置洋一等海佐と古谷一吉二等海佐が、作戦予定とこれから救助するフェリーの安否を心配していた。




「鈴置一佐、あと1時間で救援要請が有ったと言う現場海域です。」




「そうか。」


「だが、救助要請から既に半日が経とうとして居る。」


「幾ら護衛艦の速度が速くても海の上では、車や航空機の様にはいかない。」


「砲撃を受けて居ると言うフェリーが無事だと良いが。古谷一尉、各艦の哨戒ヘリは出せるな。」




「はい、作戦予定では、既に各艦の哨戒ヘリは離陸体勢に入って居ます。」


「鈴置一佐のご命令が在れば、直ぐにでも現場海域へと哨戒ヘリコプター部隊を発進させ、速やかにフェリーを探し出す事でしょう。」


「それに空自には、防衛省を通じて出動要請が出て居りますので、予定ではそろそろF-15J戦闘機と空中給油機が共に出撃して居る頃合いだと思います。」



「此方の捜索隊の動きが在れば、可及的速やかに現場海域の制空権を奪取し、フェリーを襲撃して居る者達へと一撃を加えて、脱出の一助にも成る筈です。」



「ですがその前に我らが現場に到着する事が有る為らば、鈴置一佐には事前に、民間船に攻撃を仕掛けて居ると言う敵船団に対して、警告を発して頂きます。」



「今現在の所は、敵船団の事を武装勢力と呼称しますが、その武装勢力船団に対して警告をして頂きます。」




「それは・・・・日本が転移した現在、他国の取り分け、あの五月蠅い隣国等の目は無いと言える。」


「だからと言って、法律的な部分面で、面倒と言いたいが、今を持って日本国民の目と声からは、武装使用に関しては、とても厳しいと言える。」


「テロリストか海賊が相手でも警告と威嚇攻撃。」


「そして、最後の手段でないと発砲が出来ないのは、実に歯痒い限りだ。」



「全くその通りなのですが、正当な手続きでないと動けないのも仕方がありません。」


「警告、威嚇の後に、最小限の攻撃で撤退をさせる事を戦闘終了の目標としますが、武装船団の抵抗が続くならば、我が国のフェリーを保護する為にも、武装勢力船団等を全て撃沈する必要性も有ります。」



「武装勢力の戦力次第ですが、航空戦力は帆船の戦艦なので、有り得ないと思いますが、武装集団との戦いに際して、どんな事であっても絶対とは言い切れません。」


「航空戦力が確認されれば、空自の戦闘機を投入して数を減らして置き、それでも向って来るならば、ミサイルと艦砲射撃で迎撃も視野に入れなければ成りません。」


「ある程度弱らせてから、陸自のアパッチをいせから発艦させる予定です。」



「攻撃ヘリの出動は武装勢力の艦隊の航空戦力の有無を十分に確認した後に成りますが、最低でもレシプロ戦闘機並の装備が有った場合は各護衛艦から戦闘ヘリや哨戒ヘリの出動が出きません。」


「最終的に撤退をさせるのが作戦目的ですが、降伏。または航行不能の艦が出た場合は捕虜として扱います。」


「そして、船団の制圧と武装を解除させる為に、いせと各艦に分乗して乗船している我が海自の特別警備隊と陸自の西部普通科隊等が、哨戒ヘリやゴムボート、内火艇にて、武装船団の船に突入する予定で有ります。」



「捕らえた捕虜を移送する場合は、海保の協力が不可欠ですが、現場には遅れての到着すると言って来て居ますので、巡視船団が来るまでは捕虜の扱いには十分な配慮をしません。」


「そうででないと、野党や平和・人権団体から猛抗議の嵐に成りますので、より一層、気を付けないといけません。」




「兎も角だ、彼らの無事を祈ろう。こんな時こそ、航空護衛艦あかぎの使用許可が取れれば良かったのだがな。」




「憲法が改正されたとは言え、今回は調査艦隊派遣法案とは別の作戦としています。」


「それに政府は切り札である航空護衛艦あかぎを現地の敵対武装勢力に対して隠したい事と、やはり進攻戦力と艦隊防空戦力である航空護衛艦あかぎは、この度の救出艦隊の作戦には過剰戦力として見方が有るようです。」


「特に国民の戦争に対する嫌悪感情から出せないのでしょうね。」




「そうだな。」




この世界の日本は憲法の一部が改正となり、自衛隊は国防組織として認められている。



 また、隣国の海上戦力の著しい向上が成されて居る事が自衛隊法改正に繋がった理由とされている。



 それに対して、日本の海自と空自の対抗する戦力が不足して居る事から、航空護衛艦の建艦と現用の戦闘機を空母使用に改修を決定して居る。



 陸自では敵基地攻撃装備と滞空装備の配備が進められて居た。


 二人は、この異世界でも国内の反戦事情に振り回される自衛隊と我が身に対して、如何にも成らない想いに困ったと思いつつ、思わず溜息を付く。




一方のあさくら号は、同時刻。


 30門のフランキ砲を持った帆船型の戦列艦隊に追われて居た。



 その数30隻である。



 その帆船群は、故障したフェリーに徐々にだが追い付きつつあり。


 その距離感は5メートルの距離にまで迫って居た。



 あさくら号は一路、日本の在るとされる東の方角へと僅かに向かうべく。


 転移災害の影響で不調なエンジンを如何にか動かして突き進んで居た。


 艦隊の一部が、分隊行動に入りフェリーの後ろを回り包囲しつつある。


 そのフェリーには、船員と共に乗客の避難誘導を手伝っていた青年が居た。




その名を高見竜史と言う。


 この18歳の青年は、趣味で様々なアニメと色々なライトノベルや変わった作風のネット小説を読んで居た事。


 それに次元転移と言う事象を目の当たりにし、ここ数年で起きた転移事件も新聞やテレビやネット等のニュースで知って居た。



 そして、あさくら号に近付いていた帆船艦隊に逸早く気付き、船長以下に決断を迫ったのが、彼の青年である。


 更に彼は帆船艦隊の武装を予測し、船長や船員に逃げながら自衛隊に救援要請をすべきだと意見したのだった。



だが、あさくら号のエンジンの不調も有り、船員の多くは、どんな相手でも話せば分かるし、空想世界の出来事みたいだと竜史の訴えを一蹴し、仮に捕らえられたとしても日本政府が必ず助けてくれると船長に主張して居た。



 全ての意見の大勢は船員の側の意見が優勢であった。


 現実論として、船を無理に動かせば壊れて立ち往生に成ると考えて居たからだった。




 それでも彼は訴えた。


 多くの船員は招かれない客を冷たくあしらおうとする。


 しかしながら竜史は会議室で怒鳴った。


 「このままでは全員殺されるぞっ!」と大航海時代を含めて多くの船舶は奴隷船や海賊船や海軍艦隊は、異民族や異教徒や蛮族に対する略奪も珍しくなかったからだ。



 この世界が何時頃の文明と同じなのかは判らないが、拿捕されれば、どうなるか何て事は誰にも分からない。



 奴隷制度などの非人権的な国家の可能性が高い今は、兎に角逃げて、逃げて、逃げ捲って、日本から助けが来るまで時間を稼ぐべきだと彼は主張する。




そんな意見を言う竜史に日本の泰平を謳歌して居る平和惚け真っ盛りの船員達は非難の言葉を浴びせてしまう。


 だがあさくら号の責任者たる船長は、大学生時代の歴史学の成績が良かった人であり、竜史の意見で数の暴力的な多数決に真っ向から反対をする。



 特に船長は、如何に大昔の時代の人権が厳しい物で有った事を訴え、特に女性の扱いが悪い可能性が有ると説明する。


 そう船長に言われると、帆船艦隊に救助を求める賛成派の女性は反対に周り、最後に男は殺されるか、重労働が待って居るとなると、最早船員達中での反対の声は完全に無くなったのであった。


 船長は意見が纏まると出航準備を部下に命じたのであった。



フェリーは、艦隊が迫るギリギリまで粘って応急処置を終えて緊急発進し、全速力で九州を目指した。



 救援が来るまで、凡そ4時間前の事だった。



 そして現在、竜史の予想は的中し、軍船と思われる艦隊は、フェリーの横に来るや否や問答無用の大砲による砲撃を開始したのであった




「船長、間も無く海自護衛艦隊が到着するとの通信から有りました。到着予定までの時間は凡そ三十分です。」




「よーしっ、何としてでも逃げ切るぞっ!」




 船長の表情は険しく汗を掻きながら必死に船員達に命令を出して居た。




「船長、高見君の意見が当たって良かったですね。」




「ああ、私も周りの意見に同調してしまい。もしもの備えを怠らずに済んだ。今の彼は如何して居るのかね?」




「はい。今は船長達が先に仰られて居た。大砲の砲弾が船体に当たった時の為に、乗客を船内中央や船底へと避難させて居ます。」



「彼はその誘導を船員達や乗客らと協力して、供に避難を手伝って居ます。」



「そのお陰で、今の所は怪我人が出ていません。」


「防弾仕様に成ってはいない船だが、旧時代の砲弾は命中率が悪いし、威力も現代船に対して威力不足だろう。」


「しかしだ、万が一にでもまぐれで命中し、撃ち込まれれば威力不足ではあるものの装甲の薄い場所が貫通しないとも限らない。」


「特に窓ガラスを壊すには十分かも知れん。」


「引き続き怪我人を成るべく出さない為にも、船内の内側の階段で移動をするよう船員と乗客に対して、徹底的に伝えては居るな?」




「はい、間違いなく。」




 其処へ通信士の船員が海自から連絡を受け、叫ぶように言った。




「船長っ!!!」




「何だ?」




「たった今連絡が入りましたっ!!!」


「海自の哨戒ヘリが、私達のフェリーを発見したと通信が入りましたっ!!!」


「直に救援に向うと伝えて来ましたっ!!!」




「そうか。」




船長は安心し、胸を撫で下ろした。


 少しだけ余裕が出きて、一息を吐いて胸を撫で下ろす。



 それは待ちに待った救援の到来の報せだったからであった。




「船長っ!!!東から汽笛音ですっ!!!海自の護衛艦隊が見えますっ!!!」




東の方向から護衛艦隊が汽笛で居場所と到着を知らせつつ、その姿を現した。



 その姿を双眼鏡で監視をして居る船員が無線機で報告して来た。




「船長っ!!!」




 突然、別の北西の方向を監視して居た別の船員が叫んだ。




「大変ですっ!!!」


「東から戦国時代風の安宅船と鉄甲船ですっ!!!。」


「その数は12隻ほどが現れましたっ!!!」


「北東方向から縦従陣で此方に向って居ますっ!!!」


「あっ!!先頭の鉄甲船が大砲を撃ち始めました。」




帆を張りオールで漕ぎながら前進してきた新たな船団は、先頭の鉄甲船の前衛部分の三つの砲台の繰り出す為の蓋を一斉に開き、射程に入り次第砲撃を始めたのである。





「此処で別勢力だと?くそっ!!!」





船員たちは突如として現れた勢力の軍船に動揺した。



果たして別勢力の目的は何だと言うのだろうか?





「凄い砲撃戦だっ!!」


「最初にこっそりと襲って来た帆船団を覗いて居たけど、あの連中の目は、どう見ても時代劇の小悪党か悪代官的なノリで攻撃を仕掛けて来やがった。」


「それにあの眼つきは、昔の海賊映画みたいでも有ったな。」


「それにしても、高がフランキ砲と侮るなかれ、命中率や威力はカルバリン砲に劣るが、数が揃えばこれほどのモノだったのか?」


「正に事実は小説よりも奇なりとは良く言った物だなぁ~」




ドッカーンと言う砲撃音が遠くで良く聞える。



 その度に厚いマットレスや船内で使用されて居る布団を濡らせて弾除けと破片を防ぐ盾にしたり、畳の完備されて居る部屋からは、戦国時代でも見られたやり方を真似て、畳を矢盾の変わりにして居た。



 他にも左右方向に盾にも成りそうなモノを配置して居る。




船内の消火器をありったけ集めて、消火準備をして居た。



 また室内スプリンクラーを何時でも使える様にと、コントールルームと船内各所との連絡を密にして居る体制を整えて居る。


 女性や子供は船底に退避してさせて居るし、志願者は弾の消火作業していた。



 武装船団の大砲の中には、竜史が予想した技術レベルよりも、チョッだけ進んで居た。



 それは、撃たれた弾の中に、炸裂するタイプが混じって居るのである。


 殆んどの砲弾が鉄製の炸裂し無い弾が飛ばされて壁に衝突し、地面へと転がるが、どれが炸裂弾なのかなんて事は、素人目には分からないかも知れない。


 其処で消火防御して居る有志の乗員乗客らは、もしもの場合に備えて水を掛けていた。



 また、導火線を見かけた場合は逃げるか火を消すかの二択を志願者に任せて居る。


 兎に角、互いに声を掛け合って連携を取りつつ、救援が来るまでの時間稼ぎをする事に皆が必死で在るのだった。




「やるだけの事はやった。後は知っている限りの知恵と知識を絞って戦うだけだっ!」


其処に大きな砲撃が響き渡り、竜史の近くにゴロリと砲弾が転がり落ちる。


「ぐっ、近いな。って導火線だとぉ?しかも目の前ええぇぇ?くっそおおぉぉぉっっっ。スプリンクラーをっ!!中央区画を中心にっ!!高見の担当ヶ所だっ!!!急げええええぇぇぇぇーっ!!」




竜史が居る場所に爆発型の砲弾がコロリと転がるのを見た彼は、慌てて目の前の通路に敷かれたバリケード越えて別の安全地帯へと避難する。


 近くでは伝令役の乗客が船員に伝えると、船内の内線電話からスプリンクラーを作動を伝え、砲弾の火種はすぐさま消されて事無きを得たのである。


 そんな騒動の中に、凄まじい砲撃音の中で、遠くから希望の汽笛が聞えて来た。


 ボオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!と言う汽笛音である。


「勝ったっ!みんなああああぁぁぁぁーーーーーーっ!!自衛隊だっ!!!自衛隊が来たぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」





 同時刻・コヨミ皇国・南西国地方・南西国藩・龍雲海沖方面海域にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「紅葉さまっ!!西の方角にっ!!巨大な鉄船がっ!!」


「様子を見るに、如何やらローラーナ帝国の戦列艦に追われて居る様ですっ!!!」




 ツリ目の如何にもツンデレな感じの黒髪のツインテールの女の子が、双眼鏡を覗き鉄甲船の船首甲板で大きく叫んだ。



 その中央のマスト近くに立派な髭を蓄えた中年の男性と長身で美しい大和撫子風な女性が立って居る。



 この女性こそ、コヨミ皇国・第一皇女の暦紅葉である。




その横に居るのは、暦半島南端の有力大名で、南西国藩の国主にして、第32代嶋津家当主である嶋津義隆である。


 紅葉は皇城たる星都城で、和平派閥の大名達らと一騒動を起こした為に、ほとぼりが冷めるまでの間、公務の一環で南部視察と言う名目で、この地に追い出され様な形で来ていた。


 その視察の一つに嶋津水軍の視察が有った。



 更に敵国であるローラーナ帝国に対する哨戒任務にも同行する為、嶋津水軍に同行して居たのだった。


 


この視察に居合わせた事が、紅葉を数奇な運命へと誘うのである。


 奇しくも彼女が異界国家の政府関係者で、最初に日本国との接触者にして、訪問者に成る事に成ってしまうのであった。


 その近衛隊隊長である加藤絵美里は、歳の頃は18歳で、真っ赤な鎧の赤姫隊を指揮を執る若き猛者である。


 彼女もまた、日本との接触でそれまでの武功で在りきで、槍働き一番をモットーして来たやり方を捨て、近代騎兵を指揮し、帝国騎士団と帝国騎馬隊をこの世界で始めて近代戦術で破ると言う奇跡を起した。



 この日本国とコヨミ皇国の出会いは、やがて大きなうねりとなってローラーナ帝国を中心とした西方バルバッサ帝国同盟を崩壊へと突き進んで行く事に成るのだ。



 しかしながら今は・・・・まだ、彼女達は、その先に在る自分の運命を知らないのである。





英美里に今起こって居る状況下での説明を聞かされた紅葉は、彼女が手に持って居る遠眼鏡で覗くと、コヨミ皇国では考えられない大きさの鉄船が、帝国軍に追われていた。





「義隆、アレをどう見ますか?」





厳つい中年親父と言う感じの義隆は、年下の皇女の質問に対して的確に答えて行く。





「はっ!恐らく帝国の奴らは、物珍しい船を見つけて拿捕しようとして居ますな。」



「見た所、彼の鉄船は武装して居ない様子。」




「何方かと言うと鉄船側は、帝国艦隊から砲撃を受けて、混乱して居る様にも見受けられますな。」





「いや・・・・混乱して居ると言うより、アレは逃げて居ますな。」


「それに船足が、かなり速い様子。見るからに魔導船でも無い様ですな。」


「それが如何やって帆を無しで動いて居るのか分かりませぬが、あの船速なら逃げ続けて、助けが来るのを待つのが普通です。」


「この辺りの海域は我らが哨戒をして居ますゆえ、それ待って居るのかもしれませんな。」




「非武装船を助けるのに理由は要りませんが、何所の国の船か分かりますか?」





「それは分かりませぬ。」


「我が国や周辺諸国に、あのような巨大な鉄の船など建造された話すら聞いては居ません。」


「古に作られたと言う船の生き残りでも無さそうですな。」



「兎も角、帝国の奴らにあの鉄船を拿捕される訳には行きませんな。」


「万が一拿捕されれば、その技術の一端を軍事利用されるのは確実です。」



「それに乗って居る船員と技師はどんな目にあうのやら。」


「万が一、船を運用して居るだけでの客船で在れば、船員らは拷問の上に建造の仕方も知らぬとなれば、乗客共々奴隷にされて、一生を扱き使われてしまいますな。」




紅葉は激しい波の中で帝国軍船を睨みつける様に命令を義隆に発した。




「ならば義隆っ!その答え、問うまでも無いなっ!」


「我らは少数と言えどもっ!暦武士道はっ!卑怯なやり方は絶対に許せませんっ!!!不俱戴天の仇たる帝国に我らが心意気を存分に見せよっ!!!」




「それは無論の事。我が嶋津は、少数の寡兵で有っても、陸水戦共に帝国軍を幾度も破って御座います。」


「奴らは目の前の獲物に夢中であり、今なら奇襲が出来ましょうぞっ!!」




 嶋津義隆は、日本国の島津家に言われる様な鬼嶋津とも呼ばれて居る猛者とも言うべき武将である。


 義隆は水軍では1隻で帝国海軍3隻を夜襲して勝ちを治め、大陸内側に在るコヨミ皇国領地が在る地へと遠征をすれば、500の兵で1万の軍勢を釣り野伏せで打ち破った戦績を誇って居た。


 更に嶋津家はコヨミ皇王家への忠義心が、とても厚い荷風の家柄でもある。


 紅葉は忠義心と義侠心のある島津の現当主の答えに満足そうに笑みを浮かべると、すぐさま全船へと命令を出したのである。





「うむ、良きに計らえっ!!総員に告げる戦よっ!!絵美里っ討って出るぞおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!」





「はっ!合戦よおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーいぃぃぃっ!!!」




絵美里が兵達に命令を復唱する。



 すると周りの将兵等は「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!」」」」」と威盛良く鬨の声を上げて叫んだ。





「野郎どもっ!紅葉皇女様の御前でっ!みっとも無い姿を晒すんじゃねぇぞっ!」


「掛かれっ!掛かれっ!掛かれええええぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」





掛かれの号令の掛け声を掛ける絵美里の姿は、織田信長の筆頭家老である「掛かれ柴田」を彷彿とさせてて居る様な檄を飛ばす。


 嶋津水軍の半鐘の音が響き渡り慌しく足軽や侍達が慌しく動いて行く。



 此処に後の世に、第一次龍雲海沖海戦と呼ばれ、歴史書に書かれる日本がローラーナ帝国との本格的な戦争の始まりでもあったのだった。



 其処へ「ボオオオオオォォォォォーーーーーーッ!!」と言う汽笛が風と波の音と共に、更に別の船影が見え始めると、次第にそれらの船影は、9隻もの鉄船と成って現れる。




「義隆、絵美里。あれは?」




遠くから竜か鯨の鳴き声かと思われる音を鳴らしながら迫って来る鉄船の一団を紅葉達は己が眼にしっかりと目に止まったのである。


 護衛艦又は動力船を知らない者達にとって、聞き慣れない汽笛の音が戦場と成って居る周辺海域に木霊した。



 3人は手持ちの遠眼鏡で海自の護衛艦隊を見て居た。





「又もや見慣れぬ船ですな。」





「紅葉さま。彼の鉄船と如何よに、新たに現れた船団の何れも、鋼鉄で出来て居るようです。」



「恐らくあの鉄船の所有国の援軍かも知れませんな。」


「此処は敵と誤解されぬように。帝国艦隊を進んで攻撃を為さいまさせんと敵と誤解され兼ねません。」


「姫様っ!此処は彼の艦隊が、帝国への砲撃して来た場合に備え、西側に進路をっ!!!」



「よしっ!!我が艦隊は帝国艦隊の西側に進路を取れえええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!!!」



紅葉は声を張り上げて水軍の兵士らに船の舵を切らせた。


 すると各艦船は、丸で良く訓練されたバレエダンサーの様に後に続いて行く。

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