ちょっぴり怖い話
藤池つばめ
閉店後の客
あれは、私が高校に入りアルバイトを始めたときだった。
夏休み後半に友人達と行くディズニーランドのためにお金を稼いでおこうと思ったのがきっかけだった。
私は実家が小さなスーパーを経営している。
なので父にアルバイトを申し出たら、形だけの面接をした後すぐに採用となった。
パートさんが休みがちになる夏休みの間だけだが、私は人生ではじめてのアルバイトにワクワクしていた。
アルバイトを始めて二週間。
すぐに仕事に慣れ、お店を閉める作業をしていた8月の半ば。
店内はほぼ電気が落とされ、営業中は賑やかに流れている有線もなく、今はとても静かで冷蔵ストッカーの稼働音と自分の作業する音だけが響いていた。
父は奥の事務所でお金の締め作業をしていたので、フロアには私1人だけ。
冷凍食品の入った冷凍ケースに蓋をしていく作業をしていたとき、自動ドアが開く音が聞こえたので自動ドアの方へと顔を上げた。
作業をしているところから自動ドアのある出口までは12メートルほど、そこに無表情の男の人が店内に入ってきたのが見えた。
(あ、お店閉まってるのに入ってきちゃったんだ、困ったな……。)
地元のお客様に愛される小さなスーパーだ。
閉まっていても、醤油だけ買わせてくれないか?と入ってきてしまうお客様もたまにいるのだ。
だが入って来た男性はこちらに向きもせず、
しばらくその場に立ったままだと思ったら、ふっと二階に向かう階段へと進んでいってしまった。
昔は二階で衣料品や化粧品なども販売していたが、今は倉庫になっている。
「お客様、本日は営業が終了してます。そちらは倉庫なので……」
……と、男性の後を追おうとして気がついた。
さっき自動ドアが開いた音がしたけれど、さっきスイッチを切って、シャッターを下ろしたはず。
そして今見ると自動ドアの所は電気が落ち、遠くから見たら表情がわかるほど見えないはずだ。
先程の男性を思い出すとやけに顔色が白く、何かの制服と帽子をかぶってはいたが、すぐにある姿と一致したので、私は男性を追うのをやめた。
その日は終戦記念日だった。
(幽霊って足があるんだな……)
と少し震える手を見ながらやけに頭は冷静だった。
ちょっぴり怖い話 藤池つばめ @hujiike-tsubame
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