第31話 胸を張れ
「待ちくたびれたぞ、二人とも」
控え室の扉を開けるなり、ハスキーな声が出迎えた。
パイプ椅子に腰かけた
「もうすぐ時間だ。
「たぶん、なんとなく、それなりに、ですけど」
「絶対、確実、完璧に――だ」
「は、はいっ」
柊の返答に口元を緩めると、榊はパイプ椅子から立ち上がった。
「翼も、大丈夫か」
「問題ありません」
はっきり言い切ると、翼は真摯なまなざしで榊を見上げた。
それを受けた榊は、祈るようにそっと目を閉じ、囁くような低い声で二人へ語りかける。
「二人とも、よく聞け。我々が女であろうと、男であろうと、ベテラン兵であろうと、初陣を終えたばかりの新兵であろうと――そんなものに意味はない」
「はい」
「我々が国民の安寧を願い、平和を取り戻すため、命懸けで戦ってきたことは事実だ。胸を張れ」
ほんの一瞬の厳かな沈黙は、榊の激励で破られた。
「さあ、行くぞ。我々は、神に選ばれし戦士の代表だ。基地で待つ仲間たちに恥じぬよう、どんなことがあっても顔を伏せるな!」
「はいっ」
「はい!」
榊を先頭に、翼と柊は並んで廊下へ出た。
扉の外で待っていた榊の秘書が、ガッツポーズで励ましてくれる。秘書に目礼をした後、打ち合わせ通り、柊が翼の前へ出る。
赤絨毯が敷かれた廊下をしばらく進むと、両開きのドアの前へ辿り着いた。会見会場からは、ダブルギアの歴史について語る長谷部の声が聞こえてくる。
「――それでは、準備が整ったようであります」
スーツ姿の男たちが、長谷部の言葉にタイミングを合わせ、扉を開く。眩いばかりのライトが当てられた瞬間、さざ波のようなざわめきが押し寄せてきた。
経験したことのない重圧と視線が、肌を突き刺す。それでも、柊は榊の忠告通り、まっすぐ顔を上げたまま会場へ足を踏み入れた。
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