第18話 雛

 二度、三度と、何かを打ちつけるような音が、遺棄された新幹線の車両から響く。その度に車体は軋み、激しく揺れ動いた。

 ほんの少し前まで、勝利に喜ぶ声や負傷者を気遣う声に溢れていたはずのプラットホームは、ひりつくような緊迫感に満ちている。

 すると、激しく揺れる車両の近くにいた伊織いおりが、ゆっくりと動いた。

 太刀を構え、乗車口へ近づいていく。翼が止めようとした瞬間、飛び出してきた何かに弾き飛ばされ、伊織は壁に激突した。


「くっそ……コイツ、やりやがった」


 壁へ叩きつけられながら、伊織は車両から飛び出してきた黒い物体・・・・を睨みつける。

 柊も、伊織の視線の先を追った。


「アアアアッ アアアアッ アアアアアアッ」


 甲高い叫び声をあげたのは、一羽のカラスだった。

 カラスといっても、黒い羽を広げたその長さは、およそ二メートル。人間の胴体ほどもある太さのくちばしは伊織の血で赤く濡れ、三本の脚には鋭い爪が光る。

 新たに・・・現れた・・・【D】・・・を、結衣は壁際にもたれるように座りこんだまま、ぼんやりと見上げていた。


「この状態でおかわり・・・・なんて、ムリに決まってんじゃん……」


 結衣の嘆きは、隊員たちの心を代弁していた。

 確かに、新たに現れた八咫烏は、倒した個体よりも小さい。恐らく、雛なのだろう。新幹線の車両一台分だった先ほどの個体と比べて、十分の一程度の大きさだ。


 だが、状況が悪いのはこちらも同じだった。

 最後の攻撃に参加できた隊員は、囮役の柊を入れても七名しかいない。意識を失った隊員も多く、かなり危険な容態の者もいる。後衛の矢は尽きかけ、前衛の太刀も刃こぼれが激しい。加えて、前衛の要となる伊織が負傷した今、彼女たちに何ができるというのか――。


 自由を楽しむようにゆったりと旋回する雛鳥を、隊員たちは無言で見上げる。

 やがて雛鳥は、親鳥が開けたバリケードの穴に気づいたのだろうか。一声、高く啼くと、吸い寄せられるように穴を潜り抜け、駅舎へ飛び込んでいった。

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