第19話 雛
二度、三度と、何かを打ちつけるような音が、遺棄された新幹線の車両から響く。その度に車体は軋み、激しく揺れ動いた。
ほんの少し前まで、勝利に喜ぶ声や負傷者を気遣う声に溢れていたはずのプラットホームは、ひりつくような緊迫感に満ちている。
すると、激しく揺れる車両の近くにいた
太刀を構え、乗車口へ近づいていく。翼が止めようとした瞬間、飛び出してきた何かに弾き飛ばされ、伊織は壁に激突した。
「くっそ……コイツ、やりやがった」
壁へ叩きつけられながら、伊織は車両から飛び出してきた
柊も、伊織の視線の先を追った。
「アアアアッ アアアアッ アアアアアアッ」
甲高い叫び声をあげたのは、一羽のカラスだった。
カラスといっても、黒い羽を広げたその長さは、およそ二メートル。人間の胴体ほどもある太さの
「この状態で
結衣の嘆きは、隊員たちの心を代弁していた。
確かに、新たに現れた八咫烏は、倒した個体よりも小さい。恐らく、雛なのだろう。新幹線の車両一台分だった先ほどの個体と比べて、十分の一程度の大きさだ。
だが、状況が悪いのはこちらも同じだった。
最後の攻撃に参加できた隊員は、囮役の柊を入れても七名しかいない。意識を失った隊員も多く、かなり危険な容態の者もいる。後衛の矢は尽きかけ、前衛の太刀も刃こぼれが激しい。加えて、前衛の要となる伊織が負傷した今、彼女たちに何ができるというのか――。
自由を楽しむようにゆったりと旋回する雛鳥を、隊員たちは無言で見上げる。
やがて雛鳥は、親鳥が開けたバリケードの穴に気づいたのだろうか。一声、高く啼くと、吸い寄せられるように穴を潜り抜け、駅舎へ飛び込んでいった。
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