第2話

そうして十分ほど経って、僕はゆっくりと立ち上がった。

仕事に行く準備をしながらも、頭の中ではあの夢のことばかり考えている。


過ぎ去った鈍色の青春は、僕にとっては苦い思い出だ。


でも、不思議と後悔はしていなかった。

みんなに受け入れられなくても−−


僕は、確かに僕だった。


僕であることだけが救いだったんだ。

僕だけは、僕のことを認めてあげたかった。

世界が認めなかった、何者でもない僕を。


僕はわがままだから、そのことに嘘は吐きたくないんだ。


大きく伸びをして、冷たい水で顔を洗う。

鏡に映った僕の表情は、案外悪くない。


どっちつかずの服を着て、僕は歩き出す。


−−普通じゃなくて、ごめん。


心の中の戦いなんて、笑顔で隠してしまおう。


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僕は確かに僕だった 汐見千里 @Senri_112358

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