4.第七軍団とガッツォ
ガッツォは元老院の付託を受け、ナニア討伐軍総司令官に任命された。
直ちに彼はウドゥン港に向かい、ウドゥン海軍を編成して弟のコンブリオ・キシメヌスを総司令官とした。
そして自らは、ウドゥン第一の精兵として知られる第七軍団三千人のみを城外のマルガメヌス練兵場(注1)に招集し、これからこの軍勢でセトナイの海を渡り、サイガの族長カマアケルを救いに行くと兵士たちに宣言した。
敵の軍勢は陸二万人に海一万人だと聞かされていた兵士たちは、当然のことながら陸軍は五個軍団、一万五千人が動員されるものと誰もが考えていた。
それが味方の軍勢が陸兵三千人しかいないことを知り、第七軍団の兵士たちは動揺した。旗幟が乱れ私語が飛び交ったが、その様子を見たガッツォは兵士たちを一喝した。
「おお、日頃からウドゥン最強を謳う第七軍団ともあろうものが、これしきの敵を前に怯懦し、規律を失い隊列を乱すとは実に情けない!
いいか、よく聞くがよい最良の市民たる第七軍団の諸君よ。敵の軍勢は陸二万人と称しているが、その実態は銀貨で寄せ集められた傭兵であり、その数も実態はせいぜい一万五千かそこら、それを水増しして二万と称しているに過ぎぬ。しかも、彼らは周辺に無数に点在するサイガ族の集落を掃討することにも兵を割かざるを得ないため、実際にサイガの町を囲んでいる軍勢は五千人もいないであろう。
一方、諸君ら第七軍団は、諸君ら自身がよく承知している通り、ウドゥン最強の呼び声高い最強の軍団である。その投槍は重く鋭く、盾はいかなる投石もはじき返す。かくも精強な諸君らが、サイガの町を囲むたった五千の寄せ集めの兵どもを蹴散らすのに、何の支障があろうか。
しかるに諸君は、総司令官であるこのガッツォ・キシメヌスの資質を疑い、此度の戦に多勢に無勢で勝てるはずがないと、賽を振る前からすでに必敗の態勢を作り出している。ガッツォはこれほどまでに第七軍団を信じ、その精強さを頼もしく感じているにも関わらずである。
これでは戦にならぬゆえ、今からでも、遠征に連れていく軍を第八軍団に変更してもらうことを元老院に掛け合わねばなるまい」
ガッツォの檄に、第七軍団の兵士たちはスガワラヌスの電撃(注2)を受けたかのように生気を取り戻し、盾を叩いて(注3)「ウドゥン万歳、ガッツォ・キシメヌス万歳」と唱和した。
その後ガッツォは全ての百人隊長を帷幄に集め、全ての百人隊の意志を問うたが、一つの隊として遠征を拒むものは無く、司令官キシメヌスのためにその肝臓を捧げる(注4)と宣言した。
ただちに第七軍団は出征の準備を整え、ウドゥン港に待つ軍船に乗り込もうとしたが、ガッツォが出した命令は意外なものだった。
「これより第七軍団は陸路、東の港町アヴァに向かう。アヴァより商船に乗って、対岸のサイガに上陸する」
訳注
(注1)「マルガメヌス練兵場」ウドゥン城外にある広場で、招集された軍勢は最初にこの練兵場に集まり、総司令官の訓示を受けるのが慣例となっていた。
(注2)「スガワラヌスの電撃」スガワラヌスはコンピラーノ12神の一人で、雷と知恵の神。
(注3)「盾を叩いて」自分と隣の仲間の身を守る盾はウドゥン重装歩兵の誇りの象徴であると考えられており、兵士たちは盾を叩くことで最大限の賛意を表した。逆に最大限の不同意を表す場合には、盾を地面に倒した。
(注4)「肝臓を捧げる」古代ウドゥンでは勇気は肝臓に宿ると考えられており、司令官への服従を示すことを「肝臓を捧げる」と称した。
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