第3話 許嫁

 「何だよ、お前は」

「武君」

「この手を放してください」

「はあ?お前、下級生だよな?首突っ込むんじゃねえよ」

しばらく無言のにらみ合いが続く。

「武君、私は大丈夫だから」

「―やめだ止め。興ざめしたから帰る」

男子生徒はスタスタと歩いていき足を止めた

「おい、武とかいう奴。次邪魔したら承知しないからな」

そういい残してどこかへ去って行った

「先輩、怪我は?」

「大丈夫だよ、ありがとう」

「良かったです。あの人は?」

「うーん、なんていうか・・」

言い淀む先輩を見てあの人が許嫁なのだろうと察する。

「先輩、この後、時間ありますか?」

「あるけど、何で?」

「その・・良かったら、一緒にお昼御飯を食べませんか?」

ぽかんとする先輩。いくら仲が良いと言ってもプロジェクト以外では何の繋がりもない男女。当然の反応だろう。やってしまったか?

だが、先輩は微笑んだ

「良いよ、食べよう」

そんなわけで俺と紗江先輩は一緒にお昼を食べている。

「先輩はサンドイッチですか、美味しそうですね」

「ありがとう」

さて、話の切りだし方が分からない。

考えてみたら俺は先輩どころか同級生の女の子とさえ緊張してプライベートではあまり話さない。

そんな奴が先輩のお悩み相談をするのはハードルが高すぎる。男友達と話すときみたいに言えば良いのかな?

「ーで、武君」

「は、はい」

「本当はどうしたの?私と一緒にお昼を食べたかったわけではないでしょ?武君モテそうだし」

さりげなくからかってくる先輩に戸惑いつつ、チャンスを逃すまいと話を切りだした。

「実はー先輩に許嫁がいると聞きまして」

先輩は、はっとしたように顔をあげたがすぐに下を向いて。ミルクを紅茶に入れた。

「先輩を助けられないかなと思って。それでーさっきの人がその」

我ながらたどたどしい上に話がまとまってでいなくて恥ずかしい。

先輩は下を向いたままティースプーンでミルクをかき混ぜながら返事をした。

「そうだよ。でも、これは私の問題だから。武君が心配するようなことじゃないから」

「でも、俺ー」

先輩は紅茶を飲むと立ち上がって俺の頭にそっと手を置いた

「ありがとう。心配しないで、ごちそうさま」

そう言い残して先輩は歩いて行ってしまった。

その日の夜。一件のメールが届いた。紗江先輩からだった。

本文にはただ「今日はありがとう。また明日ね」とだけ書かれていた。

翌日、紗江先輩は学校に来なかった。



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