第39話 みんなで楽しく過ごせる時間が、ずっと続けばいいのに
ミニ花火大会は夜九時過ぎまで続き、そこで今日の行事はお開きとなった。
このあと真夜中までみんなで延々ゲームするとか、集まってお菓子を食べながら無駄話をするとか、そういうのもいいかなって思ってはいたんだけど。やっぱり勉強会という趣旨もあるし、明日も朝八時半から勉強会再開だし、それにまだお風呂にも入ってないし。
いったん宏樹くんの部屋に戻って荷物を回収してから、由希に連れられて母屋の客間に移動。
さすがに親戚の本家、それに手伝いでよく来ているというだけあって、勝手知ったる家という振る舞いだなあと感心する。
先に私がお風呂に押し込まれて、そのあとに由希が入る。そして客間に敷かれた二組の布団に二人揃って横になる頃には、とっくに十一時を回っていた(ちなみに男子は、宏樹くんの部屋で寝る手筈になっているけど、ちゃんと寝るんだろうか)。
そういえば……と振り返ってみれば、由希と同じ部屋で寝るのは、知り合って以来初めてだ。
中学の修学旅行や生徒会の研修訓練、部活の遠征。由希と一緒に泊りがけのイベントに出かけたことはこれまで何回もあったはずだけど、こういう機会には恵まれなかった。
せっかくだからいろいろガールズトークというのも考えなくもなかったんだけど、明日も早いからと早寝を選択。由希も残念そうにしていたけど、こればかりは仕方がない。
「おやすみなさい」
そう言って、由希は部屋の電気を消した。
「おやすみ」
私も答える。
岩崎くんほどではないにしろ、さすがに私も今日一日で頭が疲れ切っているから、眠りの神様はさっさと私を迎えに来てくれるに違いない。違いない……はずなのに!
初めての場所ということもあってか、緊張してしまって眠気が飛んでしまったみたいだ。努力すればするほど眠気は遠ざかっていくようで、月明かりが薄く差し込む和室で規則正しい寝息を立てている、隣の由希が妬ましい。
そんなことを考えていると、「智佳、ごめんね」という小さな声がした。
まだ起きてたんだ……。
ここで「なにが?」と聞くほど、私も野暮じゃない。
私の岩崎くんに対する想いを、由希は知っているから。そして岩崎くんが由希に抱いている想いも、きっと。
だから私は、天井を見上げたまま答える。
「由希が来るとは、夢にも思わなかった」
「ここ数年、この季節は桃の収穫の手伝い」
「由希、そういうの苦手だってイメージだったけど。でも、なんで?」
「他の作物の世話もあるんだから、そりゃ人手が必要な時は手伝うわよ、親戚だしね。でもまあ、他にもいろいろと」
寂しさと諦めが込められたような、いつもとはまったく違う低い声でボソボソと話す由希。それ以上詳しい話なんて、とても聞ける雰囲気じゃなかった。
「智佳の邪魔をするのは悪いって思ってたんだけど」
涙声が混じりつつ、独白じみた声は続く。
「私も、高校生活の楽しい思い出が欲しかったの。今日は本当に楽しかった」
確かに、あそこまで心から楽しそうにしている由希を見たのは、本当に久し振りだったような気がする。
「うん、私もすごく楽しかった」
「ありがとう。でも、本当にごめんなさい」
そういえば……と、私は以前から気になっていたことを思い出す。
中学のときから学校生活絡み以外に遊んだとか家族や友達とどこかに行ったとか、そういう話を由希からほとんど聞いたことがない。
自分から触れないことだから、私も敢えて聞かないようにしているけど、由希の家庭事情はいろいろ複雑なのかもしれない。そして、友人や私、岩崎くんに対する想いも。この前の部活帰りに、文知摺橋で由希がこぼした言葉も、頭の中に蘇る。
そんなことを考えているうちに、今度こそ眠りの神様がやってきたようで、私の意識は闇の中に溶けていった。
翌日の勉強会は、特に問題もなく進んだ。
相変わらず岩崎くんの顔が青くなったり赤くなったりしたのは面白かったんだけど、これで勉強法のヒントを掴んでくれれば、と思う。
昨晩のこともあって由希の様子も気になってはいたんだけど、今日はいつも通りの由希だった。でもいつか、悩んでいる心のうちを私に見せてくれれば嬉しい、そう思わずにはいられない。
昼食後に由希はまた農作業の手伝いに向かうということで、勉強会は私と宏樹くん、そして岩崎くんのオリジナルメンバー三人に戻った。今日はお姉ちゃんの予定が読めないせいで私もバスで家に帰らなければいけないから、勉強会も夕方前には終了予定。
さすがに三人ともいい加減疲れ果てていることもあって、昼食後は軽い復習や、どうでもいい日常話で笑い転げたりと、夏休み中なのに、普段の学校生活と変わらないような時間を一時的にでも取り戻せたのは嬉しかった。
こうやってみんなで楽しく過ごせる時間が、ずっと続けばいいのに。どうして離れ離れにならないといけないんだろう。
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