第33話 あいつら俺をハメやがった!

 さて、と。


 画面に表示されている切断ボタンをタップしてから俺は何回か深呼吸し、震える手で宏樹からあの日届いたメッセージを画面に表示する。


 何度見直してみても、そこには『俺たちに感謝して』という文言が確かに記されていた。『俺たち』ってことは、企画者は複数ってことだ。で、「不都合な事実があっても、聞かれるまでは答えない」っていうのは、詐欺師の手法だ。


 つまり要するにこれはどういうことか端的に表現すると、


 あ い つ ら 俺 を ハ メ や が っ た !

 

 ってことだ。あの二人、いろいろ示し合わせていやがったな!


 こんな簡単なトラップ、なんでその場ですぐに気付かなかったのか。俺はそのままベッドに突っ伏して、玲が「お兄ちゃん、ご飯だよー」と呼びに来るまで、放心する羽目になった。


 冷静に考えてみれば、女子が一緒の一泊二日の勉強会ってどういうことだよとか、古川さんもオケの練習はどうなってんだよとか、他にも気にすべきところは山のようにあったはずだったんだけど。


 それにしてもなんでいきなり、勉強会というイベントが? それも古川さんと一緒に。


 納得がいかず、ここ最近の記憶を頭のなかで高速で逆再生してみると、それっぽい出来事が確かに存在していたような……。


 ──あれは一学期の期末テストの結果が戻ってきた頃だったか。


 いつも一緒に弁当食べてる佐藤香織が欠席してたから、俺と宏樹、古川さんの三人だけで机を囲んで、弁当を食ってたんだった。


「なあ岩崎、お前そろそろ成績ヤバイんじゃねえの?」


「いやまだ学年で真ん中辺だし、そこまで酷くねえよ」


「でもお前、去年の最初の頃はもっとマシじゃなかったっけ?」


「岩崎くん、中学の時はいつも男子のトップ争いしてたのに……」


 そりゃお前らは成績安定してて良いよな。


 文武両道を体現しているような宏樹は学年三十位前後をうろうろしてるし、古川さんだって確か五十位台まで落ちたことはないって聞いたことがある。仙台にある某旧帝大なら、二人とも問題なく合格が狙えそうなポジションだ。


 でもだからといって、可哀想な人を見るような目で俺を見ないでくれ。お願いだから。


「岩崎くんってさ」


 俺の願いが通じたわけではないのだろうけど、古川さんは微妙に視線を外しながら、容赦のないことを言い始めた。


「中学の時、授業だけで十分って余裕ぶってたよね。ひょっとして高校でも同じ調子で舐めてかかって、落ちこぼ」


 最後まで言わせずに、宏樹が大声で被せる。


「それだな! 俺も同じ中学で結構成績良かった奴がさ、高校に来てからパッとしなくて不思議だったんだよ」


「やっぱり高校だと、よっぽど突き抜けて地頭が良い人でもない限りは、ねえ……」


 で、二人して俺の方に向き直る。


「「お前(岩崎くん)、そろそろ真面目に勉強しろよ(したら?)」」


「アア、ウン、ソウダネー」


 不利を悟った俺は棒返事で逃げ切ろうとしたが、残念ながら許してもらえなかったようだ。


「ダメだな、こりゃ」


「どこがわかってないのか、一回ちゃんとチェックした方が良さそうだよねー」


「「特に数学」」


 なんだその、息の合ったお前らのツッコミは。くそっ、言いたい放題言いやがって。数学だって、中学の時は得意科目だったのに。




 そうだ、きっとあのあと宏樹と古川さんとの間で、「岩崎の成績をなんとかしよう協定」が秘密裏に締結されたに違いない。それにせっかくの夏休みだし、ついでにパーっと遊んじゃえって魂胆だろう。


 うう、ありがたいのは間違いないのに、屈辱を感じる。見てろよ、明後日は俺の本気を見せてやるぜ!

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