第11話 由希と私
「寝坊したなら、普通に遅刻すればいいのに」っていうのが、いまどきの女子高生。
わかってはいるのだけれど、そういう考えかたにどうしてもなじめない私は、必死に自転車のペダルを踏む。まったく、生真面目なのか昔気質なのか。
「だからいつも損してるのかな」
そんなネガティブな思いを頭の片隅に押し込めて、これから挑むのは通学路の最難関。女子高生のプライドと羞恥心を投げ捨てて、鬼神のような形相で阿武隈川にかかる文知摺橋の坂道を何とか登りきり、ようやく下りに入って重力の恩恵に身を任せ……。
橋を過ぎたところにある公園スペースに差し掛かったところで、私はいつも待ち合わせている友人の姿を探す。
「いつもより十分近く遅い。連絡なかったからただの寝坊だろうし、もう先に行こうかと思ってたところ」
「ごめん、目覚まし、止めちゃってて」
新学期早々なにやってんの? という顔の親友、五十嵐由希の冷たい視線に、息を切らしながらどうにか答える。いつもは自転車を止めてベンチで文庫本を読んでいるのに、今日はもうサドルに跨っている。「先に行こうかと」というのは、どうやら本当だったらしい。
それにしても、朝っぱらから必死に自転車を漕いだせいで髪はボサボサ、汗だくという姿になっている私に対して、マイペースの由希は本当に優雅だ。
中学の時は肩につくかつかないかくらいだった綺麗な黒髪は、もう肩甲骨を少し超えるくらいまで伸びている。そして全体的に細身ながらも、メリハリのある体型。
うちの高校の制服は色気も可愛さもないという評判だけど、由希の姿はなぜかこの制服の良さを引き立てているようで……。出会ったころはカワイイ系だったのに、いまやすっかり美人系にクラスチェンジを果たしていて、実のところちょっと羨ましい。
二人とも吹奏楽部で、帰る方向も一緒で、そしてなによりもお互いの考えかたが似ていたせいもあって、中学校で初めて出会った私たちはすぐに仲良くなった。
中学生のうちに同じクラスになることはなかったけれど、そのあとも生徒会活動で一緒になったり(由希が副会長、私は書記)、中学のときはいつも一緒にいたような気がする。二人とも同じ高校に進学することになっても関係は変わらず、由希は私の親友だ。
「少しは褒めてよ。家を出たときは十五分は遅れてたんだよ?」
「言い訳はいいから、早く出発しましょ」
私の必死のアピールを軽く受け流して、由希は走り出した。まだ遅刻は余裕で回避できる時間のはずなのに、ペースが気持ち速い気がする。
「ちょっと、由希! なんでそんなに急ぐの?」
「少し早めに着いて、身だしなみどうにかしたほうがいいと思う」
「え、いま私そんなに酷い?」
髪が酷いことになっているのは予想がついていたのだけれど……と、自転車を漕ぎながらも私は焦る。でも、由希の答えは常識的なものだった。
「新学期の印象って、結構大切。クラスも変わるし」
あ、遅刻しないかどうかに気を取られていて、そのことをすっかり忘れていた。そうだ、新学期だからクラス替えがあるんだった。今度こそ、由希と一緒のクラスになれればいいんだけど。そして実はもう一人、一緒のクラスになりたい人が……。
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