第9話 不揃いな前髪パッツンのイメージ

 ──翌日の昼休み。


 弁当をパクつきながら、宏樹が周囲を窺うようにキョロキョロと教室を見渡す。なにやってんだよ? と胡乱気に宏樹の顔を見つめると、ヒソヒソ声で俺に尋ねてきた。


「そういや、古川なんだけどな」


「なんだ?」


「あの髪型、なんていうか、個性的というか……」


 言いにくそうにしてるから、俺がはっきり言ってやろう。


「ああ、少しヘンだよな」


「お、おう。お前、付き合い長いんだろ? 昔からああなのか? 理由でもあるのか?」


「最初に見かけたときは、違ってたような気もするんだけど……」


 俺が古川さんを初めて個人として認識したのは、生徒会役員選挙の立会演説会だったはずだ。


 中二の終わりころに行われたそのときの情景をなんとか思い出そうとしてみても、漠然としたイメージを記憶から引き出そうとするたびに、どうしてもあの不揃いな前髪パッツンのイメージに塗りつぶされてしまう。


「少なくとも、中三の生徒会活動が始まった頃からは、あの髪型なのは確実。たぶん、なんか信念ってか願掛けってか、そういうのがあるんだよ、きっと」


「そういうもんかねえ……」


 いまいち納得しきれねえという表情で、宏樹は弁当に視線を戻した。まあ俺も別に納得してるわけじゃないけど、それでも。


「でもな、あの髪型。俺は古川さんらしくて、すごく似合ってると思ってる」


「お前がそこまで言うなら、そんなもんなのかもな」


「最初は違和感あるかもしれないけど、すぐに慣れるよ」


 別にフォローしたってわけじゃないんだけどな。

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