第7話 クラス替えは大敗北
残りの春休み期間も変わり映えのしない日常であっという間に消費され、高二の始業式を迎えた。おそらくこれがこの高校で俺が過ごす最後の半年、ということになる。
自分が高二になったということ以外はまるでなにも変わっていないかのような、いつもと同じ風景の中を、俺は学校に向けて歩き出した。学校まで一定距離がないと自転車通学は許可されないという規定を恨めしく思いながら、通学路を見渡す。
ランドセルそれ自体が歩いているように見える、小学生になったばかりの子供。大きめの制服がまだ全然似合っていない中学生、そして様々な学校の制服が混在する高校生。
いつもと変わらないと思っていた風景も、よく見ると春らしい初々しさにあふれていることに気付く。
そんな感慨を抱きつつも、二十分ちょっと歩いているうちに、いつもの建物が目に入ってくる。信夫山南側の麓に鎮座する、県立信夫丘高校。福島県の県北地区のトップ校として長年の歴史を誇る、伝統校だ。
ただ、うちの高校は進学や部活動の実績が抜群なわりに、どうも全体的なイメージがあまりよろしくないという問題を抱えている。
正確に言うならば、悪いイメージの原因は百パーセント制服にある。
時代錯誤感すら漂わせる、漆黒の詰襟学生服上下を強いられる男子。限りなく黒に近いグレーのブレザーに白のブラウス、そしてワインレッドのボウタイという女子(ちなみにブレザーより若干薄めのグレーのスカートには、ボウタイと同色でチェックの織り柄が入っている)。
在学生や受験生への好感度を端から投げ捨てているような、イマっぽさの欠片もない制服。そんなわけで俺たちは、同世代の学生のみならず近所の人からも、ビジュアル面では憐憫の目で眺められがちな生活を送っている
そんな制服に身を包んだ男女が、定刻までまだ余裕を残す校門に、ぞろぞろと吸い込まれていく。俺もいつも通りの、遅くも早くもない時間に到着した。
さて今日の最重要イベント、それは新クラスの発表。
正直に告白すると、俺はこのイベントに賭けていた。近くの神社にお参りしたことすらある。なんとか最後の半年だけでも、五十嵐さんと同じクラスになりたい。学生生活で他の接点が期待できない以上、クラス替えに期待するしかないのだから。
クラス名簿は昇降口の扉の左右に控えめに張り出されてるだけのようで、人だかりがすごいというか、酷い。こんな事務連絡はメールか何かで事前通知してくれればいいのにって思うけど、どうも電子的に名簿を流すのは個人情報保護云々でダメらしい。
うんざりとしていても何も解決しないので、俺も他人を見習って人混みの中に突入する。
八クラス分、三百二十人の名前がぎっちりと記された中から、まずは自分の名前を探す。ラッキーなことに、全体の四分の一も確認しないうちに「岩崎直」という文字列を、二年二組の名簿の中に発見した。
そしてそのまま俺は捜索対象を「五十嵐由希」という名前に切り替え……てはみたものの、事態は芳しくない。
自分のクラス、なし。
両隣のクラス、なし。
──彼女の名前を発見したのは、なんと八組の名簿。
教室のある階まで違うから、顔を合わせる機会自体もほとんどなさそうだ。最悪としか言いようがない。
思わず膝に手を当てて、深い溜息をこぼす俺。
結局、五十嵐さんと一緒のクラスになれたのは中学に転入してからの一年半だけだったか……。残念だけど、こればかりは仕方がない。
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