第6話 俺は本当に、結論を出せるのだろうか?
──あれは中三の秋、写生大会(全校生が教室を出て、近場で絵を描くというイベントがあったのだ)のとき。
俺は当時半年の任期が終わったばかりの生徒会の面々と、この場所に座り込んでいた。
それぞれが気に入った風景を切り取って絵を描いている中、俺はそのとき熱烈に片想いしていた、そしていまも片想いしている彼女、五十嵐さんの隣に座って……。
教室でも隣の席が続いていたし、いまさら緊張なんてするわけないと思っていた。それなのに俺の視線は彼女の横顔に吸い込まれっぱなしで、絵を描くどころではなく。
おかげで写生大会後に全員分の描いた絵が教室に張り出されたときは、かなり恥ずかしい思いをした。
あのときの緊張感、そして彼女と交わした会話は、今でも昨日のことのように思い出せる。
懐かしい記憶で心を癒した俺は、現実世界に戻ることにした。お気に入りだった場所から腰を上げ、帰路につきながら考える。
この街に居られるのも、おそらくあと半年。
俺は五十嵐さんに自分の気持ちを伝えられるのだろうか。いやそれ以前に、伝えるべきなのだろうか。中学卒業前後からの懸案をまた持ち出して、俺は心の中で弄び始めた。
彼女とは中学に転入してからの一年半同じクラスだっただけで、高校に入ってからは、ほとんど接点がない。だから正直に言えば、告白したところで、受けてもらえる可能性なんてほとんどないことはわかりきっている。
違う。問題はそこじゃないんだ。それはわかっているんだ。
すぐに転校を控えている状態で自分の気持ちを伝えるってことは、受け入れられるかどうかに関わらず、ただの自己満足、無責任に過ぎないんじゃないか? という思いから、俺は逃れられない。
告白する勇気がないだけとか臆病なだけとか突っ込まれても、否定のしようがないんだけどさ。
いずれにせよ、あと半年で、俺は結論を出さなきゃならない。
──俺は本当に、結論を出せるのだろうか?
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