第3話 この街での残り時間は、おそらくあと半年ちょっと

「三組の五十嵐とかどうだ? 中学同じだったんだろ?」


 まさに想い人の名前そのものを出されて、一瞬むせそうになる。なんでわかったんだというか、どんな推察能力だよ。

 俺に隠れてこっそり機械学習でもしてるのか? 心臓が止まるかと思ったじゃねえか。


「五十嵐? うーん、ちょっと違うんだよな」


 このままではボロを出しかねないと考えた俺は、反撃に出た。


「そんなことより宏樹、お前だよ、お前。どんだけ理想高いんだよ。身長高めで可愛い系で気配りができてって……」


 条件並べただけで、頭がクラクラしてくる。


「この学年だと、該当者いないんじゃね?」


 女子バレー部や女子バスケ部など高身長が集まりやすい部活の面々を思い浮かべながら、切り込む俺。

 一般的な見地としては十分魅力的な女子が揃っていると思うんだけど、どうもこいつにはお気に召さないらしい。贅沢すぎて、そのうち絶対に天罰が下るぞ。


「まあな。隣で練習してる面々も結構可愛い娘がいるのはわかっちゃいるけど、なんか違うんだよな」


 案の定というか、宏樹のノリもいまいち悪い。




 ここで宏樹の態度が急に変わった。

 実はここまでの話はすべてこのための前振りだったかとでもいうように、俺の顔を覗き込むように言う。


「そんなことより岩崎、お前部活に戻らないか?」


「またその話かよ……」


 もう十回は聞いてるぞ、と俺はうんざりする。


「いま戻れば来月新入生入ってきても普通に先輩として行動できるし、ラスチャンだぞ。先輩も戻ってきて欲しいって言ってる」


「そう言ってくれるのは、そりゃもちろんありがたいんだけど……」


 そう言いながら、自分の身の上を振り返る。親の都合で定期的に転校を繰り返す俺にとって、この街での残り時間は、おそらくあと半年ちょっとだけ。


「前にも言っただろ。秋の新人戦まで居られるかどうかわからないんだから、かえって迷惑になるよ。残念だけど、他を当たってくれ。いい新人取れるといいな」


 わかっていたけど仕方がない、という雰囲気で宏樹は肩をすくめる。


「じゃ、練習頑張ってくれ」


 カバンを肩にかけながら、俺は教室の出口に向かって歩き出した。


「おう、またな!」


 右手を挙げた宏樹はそのまま続ける。


「また同じクラスになれるといいな、岩崎!」


「ああ、俺もそう願ってるよ」

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