物語の始まり
第2話 高校一年のおわり
「これで一年も終わりか。早えもんだな」
そう切り出したのは、これまでの俺の人生の中でもっとも「親友」という言葉に近い男、
三学期の予定をすべて終了して、明日から春休みに突入する一年六組の教室。
だらだらと残っているクラスメイトがまだいるものの、もうほとんどは部活か家に向かい始めている。
「二年になったら、どうなるんだろうな」
同意をにじませつつ、窓の外をぼーっと眺めながら俺は答える。
「俺はまた、岩崎と同じクラスだといいけどな」
受け答えとして、まったく噛み合ってない会話だ。でもそれはそれとして、そう言ってくれるのは俺的には嬉しいぞ、宏樹。
「でも俺的にはそれよりも……」
「可愛い女の子と一緒になれるといいなって話か?」
わざとらしく大袈裟にため息をついてから、呆れた口調でツッコミを入れる俺。
宏樹は俺より一回り背が高いとはいえ、別に際立って身長があるわけじゃない。
とはいえ、学生服の上からではあまり想像できない、中学からの運動部生活で鍛え上げられた細マッチョ体型。そして色気を残しつつも、品良く刈り上げたベリーショート。顔立ちはイケメンとまではいかないものの、快活で陽気な好青年ということもあって、女子生徒からの人気はかなり高い。
「宏樹、やっぱお前、選り好みしすぎなんじゃねえの?」
それなのに、奴が女子生徒の熱い視線をすべてソデにしている理由はまったくの謎に包まれていて、実のところ俺にもよくわからない。
そうすると必然的に、入学以来親友ポジに収まってる俺との関係を邪推する連中まで現れ始めるのは世の理だ(腐ってやがる)。宏樹が悪いわけじゃないのは言うまでもないことなんだが、とばっちりは勘弁して欲しい。
「まあ、このクラスは地味な女子が多かったしな」
そんな俺の心中におかまいなく、宏樹はあちこちに敵を作りそうなことを言い出す。だからやめろってば。
俺は教室にまだ残ってる連中(当然、女子もいる)を目線で示して、「ちょっと声がでけえぞ」と小声で一言注意を入れてから、こう続けた。
「別に地味だっていいんじゃねえ?」
「おい岩崎、お前明るくてサバサバしたタイプがいいって言ってなかったか? 少しギャル要素入ってる感じの。趣味変わったのか?」
「程度問題だよ、程度問題」
いけね、フェイク入れてたの忘れてた。
俺は慌ててごまかしながら、中学以来の想い人の姿を思い浮かべる。
綺麗な髪。可愛いというよりも、美しさを感じさせる横顔。聡明さと意志の強さ、それに気配りが込められているような視線。耳に優しく溶け込むような、落ち着きのある声。
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