「もしもし？」

　着信を告げるスマートフォンを、彼は手に取った。壁の時計はちょうど、五分前に日付が変わったことを示している。とはいえ、何も問題はない。商売柄この時間まで仕事をすることは普通だし、むしろ深夜のほうが色々とはかどる。

「私だ。お疲れ様」

「お疲れ様です」

　相手の声音に合わせるように、自分の声も低くなる。会社のデスクに一人きり、誰が聞いているわけでもないのだが。

「頼んでいる件、順調だね」

「どうも」

「次の目星も、ついているんだろう？」

「ええ。ただ、これ以上ペースを上げるのは難しいです」

「いや、そこは大丈夫だ。むしろ今のように一つずつでいい」

「わかりました」

「うん。もうしばらく、こんな感じでな」

「はい。またメールします」

「ああ。よろしく頼む」

　ややくぐもった声の主は、そう言うと自分からさっさと電話を切ってしまう。

　自身も通話アプリを閉じながら、彼はスマートフォンの画面に向かって、なんとはなしにつぶやいた。

「次で四つ目、か」

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