第244話 脱出劇 1
「状況はどうです? 抑えられますか?」
セムリナの側近筆頭であるズマーは皆が待っている会議室に入るや
「間もなくお見えに」
そう答えるとズマーは視線を移し「外はどうですか?」とベリックオの後ろに立つ青年に聞く。
「ルートはすでに我らが……」
青年が説明を始めたその時、「待たせたわね、行きましょう」とセムリナが二人の
「良し、では開けますぞ」
ベリックオはそう言うと壁際の大きな本棚の横に立つ。そして力を込めて本棚の側面をグググッと押した。ズズ、ズズズ、と本棚は少しずつ横に移動する。
「良いぞ!」
ベリックオに
ズマーに次いでセムリナが、その
「駄目だ、俺は残って食い止める」
そう言いながら扉に背を向けるベリックオ。青年はそんなベリックオの腕を引っ張り「道中姫さんに
「むぅぅ……しかし……」
ベリックオは再び部屋の扉に目をやった。自分が残って指揮を
「あんたが鍛えた騎士団はそんなヤワじゃねぇだろ!」
「……えぇい! クソッ!」
青年の言葉に背を押されベリックオは階段へと飛び込んだ。青年はナイフを抜くと「それで良いんだよ! ケツは俺が見てやる!」と言いながらベリックオの
◇◇◇
人二人が横に並べば一杯だろう。そんな狭く暗い石造りの地下通路に
「それにしても驚いたわ。いつから準備を?」
不安に支配されそうな心の内を
事実、ベリックオや侍女達はそんなセムリナの思惑には全く気付いていなかった。こんな状況下でも
「セムリナ様がヴォーガン殿下に不信感を抱き始めた、その頃からです。いつかこの様な日が来るのではないかと」
いずれセムリナとヴォーガンは衝突する。二人の性格を考えるとそれは火を見るよりも明らかだ。そう考えていたズマーは有事に
「この抜け道を発見したのは偶然でした。扉を隠していた本棚の
「そう。で、これはどこに繋がってるの?」
「城下のとある倉庫です。調べました所、元はかつて存在した貴族家が保有していました」
「かつて……という事は……」
「はい、今現在は途絶えております。王家に忠誠を誓い、そして戦いの末敗れた……この抜け道はイオンザが三つに割れた数百年前の内乱、
「とある者達とは?」
セムリナの問い掛け、その返答は背後から聞こえてきた。
「我らルナーズ・ファミリーですよ」
答えたのは一番後ろを歩く青年だった。セムリナは軽く後ろを見ながら「そういう事……リブス、だから貴方がここにいる訳ね」と青年に笑顔を向ける。
「はい。親父殿から間違いなくセムリナ様をお連れしろと、そう
「そうだったの……ではイラインにもお礼を言わなくてはね」
「むぅ……よもやお前らの手を借りる事になるとはな……」
ベリックオはチラリと後ろのリブスを見て不満そうに愚痴を漏らす。リブスは「ハッ!」と笑い「そんなん今更だよ、おっさん」と呆れる様に話す。
「そりゃ俺達マフィアじゃなく、例えば教会の神官達のがずっと見栄えが良いだろうさ。でも連中に任してちゃ王都からは出られないぜ? 誰よりも街ん中に詳しい俺達だからこそ、安全なルートを見つけ出せるんだ」
リブスの説明に「ふん」と声を上げるベリックオ。そして「そんなもん分かっとるよ、小僧」と続ける。ベリックオはイラインやリブスといったルナーズ・ファミリーの者達に
(ふぅ……いかんな……)
このままではどんどん自己嫌悪に
「今んとこ静かだ。
「ふん、当たり前だ。
「の割には、城じゃ随分と心配してたじゃねぇの?」
「うるさいわマフィア小僧! しょっ引いたるぞ!」
「あんたらに捕まる様なヤワな鍛え方はしてねぇよ」
後ろの二人のやり取りにクスリと笑うセムリナ。しかしすぐにその表情も曇る。
「ズマー、他の皆は……?」
当然の事ながら、セムリナは他の仲間達の事が気になっていた。人材マニアとも言える彼女が
「はい。異変を察知後、皆にはすぐに通達を出しました。心して
セムリナには城の至る所に協力者がいる。メイドやコック、庭師といった城の中で働く者達だ。彼女は廊下などで彼らとすれ違うと必ず声を掛け、時にはお茶に招いたりして親交を深めていた。その甲斐もあり、
「今頃は皆安全な場所へ……ルナーズ・ファミリーが手引きしてくれています。ただ……アジャーノとは直接連絡が取れませぬ
「そう……ね。やはり今回の件、アジャーノから漏れたのかしら……」
セムリナが自身の手の者にヴォーガンの行動を
「私の責任ね……アジャーノの身に何かあったら……」
「セムリナ様がお気に病む必要はございません」
自身を責める言葉を吐くセムリナ。そんな必要はないと、ズマーは
「お忘れですか? アジャーノは志願したのです、セムリナ様が指名した訳ではございません。己の身に何があろうと、アジャーノがセムリナ様をお恨み申し上げる事などございません。仮に指名していたとしても、仮にそれが我らの誰であろうと、同様の事にございます」
「でも……」
そう。いくらそう話した所で、セムリナの罪悪感が消える事はないだろう。セムリナの優しい心はズマーも良く知っている。
「……間もなくこの通路を抜けます。セムリナ様、今はただご自身の身の安全、それだけをお考え下さい」
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