第181話 悪タレ
「魔法てのはイメージだ。いいかよ悪タレ共? 想像力を……ぶちまけろぉ!」
(フ……この
パシパシと途切れなくシールドに小さな
◇◇◇
想像力をぶちまけろ。
授業は大抵その言葉で締め
男はかつて軍人だった。どこかの国の魔導兵団に所属していたそうだ。力もあり人望もあった男は必然、それなりの地位に
悪夢から逃れる
ある時立ち寄った小さな小さな街。そこで知り合った老人に、子供達に魔法を教えてやってくれと
そして徐々に男は変わっていった。ガチガチに
そんな男には一人、気になる生徒がいた。
多少……いや、かなりやんちゃなその生徒は、自身を先生ではなくジジィと呼ぶ。同僚の講師達は失礼だとその生徒を叱ったが、男は気にも留めなかった。
「まぁまぁ、いいではないかい。ジジィをジジィと呼んでいるだけだ、何の間違いもないだろぉ?」
その生徒、名をアイロウ・ブレンデスという。
アイロウはすぐ隣の村から通っていた。父は村の衛兵、美しいと評判の母と、ようやく立って歩く様になった弟の四人家族。裕福とは言えないが決して貧乏ではない、極々普通の家庭。
田舎の小さな村には娯楽などない。子供達は時間と身体を持て余す。アイロウも例外ではなく、近所の仲間達と集まってはイタズラばかりしていた。怒った父に物置小屋に放り込まれる事も珍しくなかった。
このままではろくな大人にはならない。そう思った父はアイロウを隣街の学園へ通わせる。魔法の才には気付いていた、このまま伸ばす事が出来れば、ものになるかも知れない。
アイロウにとって同世代の子供達が多く集まる学園での毎日は刺激的だった。勉強は好きではなかったが、友達に会える事と唯一魔法の授業だけは楽しかった。講師の酒呑みジジィは事あるごとにアイロウに声を掛ける。
「悪タレよ、お前はいい魔導師になるぞぉ!」
しかしそんな楽しい日々は突然終わりを告げる。アイロウが学園にいる間に村が賊の集団に襲われたのだ。
その情報はすぐに街中を駆け巡った。当然アイロウのいる学園にも一報が届く。アイロウを案じる講師や友達をよそに、本人は全く動じていなかった。
村の人間は皆殺しにされていたのだ。
老人、女、子供……一人残らず、例外なく、その命を奪われた。それはアイロウの家族も同様だった。
父は他の衛兵達数人と共に、村の中央広場で
幼い弟は自宅にいた。
父と弟は発見されたが母は見つかっていない。多分賊に連れ去られたのだろう。評判だった
一報を聞いた領主はすぐに討伐隊を編成し賊の捜索に当たった。だが結局賊を捕らえた、処刑したなどという話は聞かなかった。
その後アイロウは街の教会が運営する孤児院に預けられた。学費は孤児院が寄付で
事実、六番隊の賊狩りは
学園を辞める
「男が将来を定めたんだ、祝福して送り出すべきだ」
彼には分かっていたのだ。この悪タレの頑固さは一級品、説得になど応じるはずがない。ならばせめて、笑顔で送り出してやろう。例え周りから見たこの悪タレの未来が、ほの暗い灰色であったとしても。
アイロウが退学したその日の夜、酒呑みジジィの姿は教会にあった。軍を辞めてから久しく向き会う事がなかった神の
そしてアイロウはジョーカーに入団する。雑務をこなしながら力を付け、武功を上げ、やがてマスターにまで至るのだ。
◇◇◇
(……急に思い出したという事は、ジジィの言葉にヒントがある……か)
アイロウは対話する。こんな場面でもなければ思い出す事はなかっただろう。自身の記憶に眠る魔法の師、酒呑みジジィとの
(さて……ジジィ、どうすれば良い?)
「おいおい悪タレよ、難しく考える事ぁないぞ。こうしたい、それをリアルにイメージする。それだけだぁ!」
(こうしたい……か。俺はどうしたい? ばらまかれている雷撃の的が邪魔だ、的を排除する。魔法で吹き飛ばすか? シールドで押し
(そうだろジジィ、リアルな……イメージだ)
一瞬で全身にシールドを張る。魔力をどうやって取り出すのが効率的か? 前にも横にも後ろにも、周囲に魔力を充満させる。しかも一瞬で……
アイロウはイメージする。魔力が全身から噴き出す、どうやって? 毛穴だ。全身の毛穴という毛穴から魔力が噴き出るイメージだ。それならば魔力を身体の周囲に充満させられる。
「ふぅぅっ!!」
強く息を吐き出すと、バァァァッ……とシールドが周囲に広がった。そして広がるのと同時に周囲は
(ハ……何だ、出来るじゃないか……)
「言った通りだろぉ、悪タレェ? 思考を止めたら全てが止まる。考えろ、そしてイメージしろぉ!」
いとも
(何だその顔は、戦闘中だぞ? 俺に策を破られるなどと、よもや思いもしなかったか……それはさすがに……ナメ過ぎだ!!)
この隙を逃す手はない。アイロウは
(
以前、
だが今目の前にいるあの魔導師は違う。何をするか分からない、何をされるか分からない。攻勢に転じた今だからこそやる意味がある。とは言え、
「シールドを無効化する手段か。いいじゃねぇか、思い付いたらやればいい!」
(ああそうだ、ジジィならそう言うはずだ)
まずは逃げ道を
刃物だ。
切り裂くのだから薄くなければならない。魔弾を潰して平べったく、薄くする。すると魔弾がシールドに当たる音が変化した。バシッと鳴っていた音が段々と軽くなってゆく。しかしまだ切り裂けない。もっと薄く? だがそうすると、単純に耐久性が低くなる気もするが……
「ダメだなぁ悪タレェ、それじゃあ切れねぇよ。ただぶつけるだけじゃあダメだ、どうするよ? どうすりゃ切れる?」
(実際の刃物ならどうだ? 単に刃を押し付けただけでは切れない……ならば……引いて切る! 刃を動かせば良い、魔弾を……回転させる!)
アイロウがそうイメージすると、薄く平べったい魔弾は
(もっと速く……速く!)
ピシッ……ピシッピシッ……
シールドに当たる魔弾の音が完全に変わった。今まで聞いた事がない音。初めて聞くその音に心が
ピシッ……ピシピシピシピシピシッ!
シールドに次々と亀裂が生まれ、その亀裂に飛び込んでゆく
本命は剣。
完全に意識は魔弾に向いているはずだ。ここからの剣撃は予想の
(そうだろ……コウ・サエグサァァァ!!)
ボロボロのシールド、その奥の若い魔導師は
(この状況で良く……見事!)
思わず感心した。完全に斬れると思っていたのだ、よもや防がれるとは。
(だが遅い!!)
上手く
「
剣を握る右手にガツッと伝わる衝撃。そのまま若い魔導師を押し倒す。
(チッ……)
胸の真ん中を狙った
(これもかわすとは……)
ギリギリと奥歯を噛みしめ、アイロウは
(フ、全く……ろくでもない生徒だな。
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