第114話 裏切り者の行方
バァーーーン! バァーーーン!
「前進!」
日の出と共に鳴り響く
「あの砦をどうやって攻めるのか、お手並み拝見だな」
「まずは力攻めでしょうな。数も能力もこちらが
「単純な力攻めで落とせるような砦じゃない。そこからどうするか……見ものだ」
エクスウェルの話す通り、エバール砦は攻めにくく守りやすい文字通りの難関である。砦の門は奥まっておりその姿は正面からは見えない。門はS字クランク状に折れ曲がった狭い通路の先にある。高い壁に囲まれたその通路をくねくねと進み、ようやく門へと辿り着くのだ。その造りはちょうど日本の城にある
門へと続く通路の両脇に建つのは
そんな砦攻めの様子を後方、小高い丘の上に張った陣幕の前で眺めているエクスウェルとラテール。すると部下の一人がラテールを呼びに来た。
「ラテールさん、ちょっといいか?」
「何だ、作戦行動中だぞ」
部下はラテールに近付き耳打ちする。
(あんたに会いたいって奴が来てる)
眉をひそめるラテール。
(こんな時に、こんな場所でか?)
(会った方がいいぜ。多分プラスになる事だ)
しばし沈黙するラテール。そして静かに口を開く。
「……団長、少し外します」
「ん、いいぞ」
(どこだ?)
(こっちだ、テントの一つに……)
小声で話ながら二人はその場を離れる。
◇◇◇
「ラテールさん、ここだ。中にいるぜ」
ラテールが部下に案内されたのは備品保管用のテントだった。ラテールはスッと右手を差し入れ、少しだけテントの入り口を開く。薄暗いテントの中には人影が見える。
(…………)
ラテールはそのまま大きくテントの入り口を開いて中に入る。中にいたのは男。
「ラテール・ジアだな?」
男が問う。ラテールは小さく
「何者だ?
「あぁ、そいつは済まなかったな。俺は諜報部の
「諜報部だと?」
ラテールは驚き、同時に
「そんな警戒するな。なに、あんたらに情報を提供しに来たんだ」
「情報だと……? 一体どういう事だ? この状況下において、お前らが動く事などない……はずだ」
「本来ならな。ジョーカーが割れた場合、諜報部は動かない。どこにも肩入れせず
「誠実
「意地の悪い言い方をするじゃないか、茶化すなよ。あんたらにとっては
「あぁ……別に茶化した訳ではない。気に
「そうだな……裏切り者の
その言葉を耳にしたラテールは失望をあらわにし、呆れるように話す。
「これは……とんだ肩透かしだ。期待して聞いてみればそんな事とは……ビー・レイはこの戦場のどこかにいる。それが分かっていれば充分、すぐに見つかるだろう。そんな情報しか持って来なかったのか?」
「待て待て、よく考えろ。あんたらがこの
「…………」
(腐っても諜報部か……バルファの事まで調べてるとは……)
「どうだ? そう考えれば悪くない提案だと思うぜ? あんたらのエラグに対するクーデター計画、ビー・レイのせいで破綻したんだ。ここで確実に落とし前をつけときたくないか?」
(確かに……まぁ他に欲しい情報がある訳でもなし……)
ラテールは個人的に各地に情報屋を抱えていた。彼らは時に諜報部よりも早く上質な情報を持って来る事がある。例えば部外者がおいそれとは入り込めないような権力の中枢、高貴な者達が集う場所の情報や、その正反対であるこの上なくディープでアンダーグラウンドな場所の情報など。あらゆる情報がラテールの元に集まってくるのだ。故にエクスウェル陣営は諜報部に頼らずとも情報収集が出来ている。
「なぜ……」
ラテールはふと思った。
「なぜ俺に接触した? 団長に直接伝えればいい話だろ?」
すると諜報部員は呆れるように笑いながら答える。
「冗談はよしてくれ。エクスウェルにこんな話をしようものなら、本来
その言葉を聞いたラテールは大笑いした。
「ハッハハハ! なるほどなるほど、
若干
「違う、そうじゃない。あんたの方がエクスウェルよりまともだと思ったのさ」
「ハハハ、まぁいい。お前らの起こした不始末、その情報でチャラって事にしてやる」
ラテールの上からの言葉に、諜報部員は少しだけカチンときた。
「あぁそうかい、そりゃ嬉しいねぇ、嬉しくて涙出ちまうぜ。ま、いいや。ビー・レイは目の前、エバール砦にいる。あいつはあんたらの
「エラグに? 随分と勝手な……」
「アーバンはエラグに入って以降、自分が治めるレコース支部に一度も戻っていない。一応隣のリロング支部の連中が留守を見てるようだが、実質放棄している状態だ」
「分かった。一応礼は言っておこう」
そう言うとラテールはテントを出ようと入り口に手を掛ける。しかしすぐに振り返り諜報部員に尋ねた。
「お前達諜報部は今回の抗争をどう見てる? どこが勝つと……いや、どこに勝って欲しい?」
その言葉を聞いた諜報部員は苦笑いしながら答える。
「そんなの話せない、って事は分かってるだろ? 個人的な望みを言えば、誰でもいいからさっさと終わらせてくれ、って
「まぁ……な。時に、ラクターは息災か?」
「ああ。マスターは元気だぜ」
「そうか、何よりだ。全て終わったら酒でも飲もうと伝えてくれ」
「……分かった。伝えておく」
ラテールはテントを後にした。一人残された諜報部員はニヤリと笑う。
(自信家だねぇ……全てが終わったら……自分達が勝って全てを終わらせる、って事だろ……)
◇◇◇
「済みません、団長。戻りました。戦況は?」
ラテールはエクスウェルが待つ陣幕の前に戻る。そんなラテールをちらりと横目で見るエクスウェル。しかしすぐに前を向く。
「変わらんよ、そんなに早くは落とせないだろ。何だったんだ?」
「はい。ビー・レイの所在が判明しました。正面、エバール砦です」
エクスウェルはピクッ、と小さく反応する。
「間違いないのか?」
「はい。間違いなく」
するとエクスウェルは下を向き肩を揺らして笑い出す。
「クックック……フハハハハ! そうかそうか、目の前にいやがるのか……」
そして再び前を向くエクスウェル。その顔にはすでに笑みはなかった。
「久々の再会だ、挨拶ぐらいしないとな」
そう言うとエクスウェルは陣を張った丘を下り始める。
「出られるのですか?」
「ああ」
ラテールの問いに短く返すエクスウェル。返答を聞いたラテールは丘の下で待機する団員達に大声で叫ぶ。
「全隊! 前進だ!!」
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