第83話 八方塞がり
「おし、んじゃ話を進めようぜぇ。これからの事だが、やはり北支部と合流すんのがいいんじゃねぇか、って思ってるんだが……」
ゼルは場の中心となり今後の展開を話し始める。リガロが裏切ったのではないか、というカディールの発言により、
「だが問題が一つ。ここに着いてすぐ北に使いを送ったんだが、どうやら北も交戦中のようでよ、攻め込まれて、その後は
ゼルはチラリとエイナの表情を確認する。エイナは左手で
「どうもその案に対し、何つうか……歯切れの悪いヤツがいてなぁ。エイナ、何が引っ掛かってんのか、お前の考えを話してくれ」
「ええ、いいわ。デーム、地図持ってちょうだい」
エイナは険しい表情のまま立ち上がる。
「私たちには今、
「仕向けられて、って……エイナ、それってどういう……?」
ライエはエイナに問う。
「臭うのよ。ラテールの臭いが、プンプンとね。これ、ラテールの策だと思うのよ」
「うう……ラテール……」
ライエは思わず顔をしかめる。
「ライエ、相変わらずラテールが苦手みたいね?」
エイナはクスリと笑いながらライエに問い掛ける。
「だって……無表情で何考えてるか分かんないし、結構キツイ作戦提案してきたり……」
「フフ……でも優秀なのよ、それは分かるでしょう? 出来るだけ少ない動きで最大の成果を得ようとする、無駄を嫌うタイプなのよ。それも極端にね。その為に一見無茶な作戦を立案したりするけれど、実行不可能な作戦は出さないわ。で、今のこの流れ、ラテールが考えたとすればなるほど、色々と
話ながらエイナは、地図を持って立っているデームの横へ移動する。
「そうね……二手……うん、二手で私達を北へ
まず一手、西支部が始まりの家へ、北のリスエット支部が同じく北のボーツ支部へそれぞれ攻撃を開始。そして私達は始まりの家を追われ、ボーツ支部へ向かう。
そして二手目、西支部と始まりの家、そして始まりの家と東支部とのそれぞれの間にいくつか拠点を設け、そこに団員を置く。これは支部のような規模の大きなものでなくていいわ。西との間には西支部の者を置けばいいし、東との間には……そうね、ボーツ支部を攻撃中のリスエット支部の連中を引っ張ってくれば事足りるわね。そうする事で、西から始まりの家、そして東のプルーム支部を一本の線で結ぶ防衛ラインが完成するわ」
エイナは地図を指でスゥ~、となぞりながら説明する。
「そうして北へと
とは言え、ゼルの言う通り拠点も必要よ。今はもちろん、今後の事を考えてもね。でも同時に今後の事を考えると、北へ行くべきではないのよ」
「ふむ……これでは八方塞がりではないか?」
じっと二人の話を聞いていたカディールは静かに口を開いた。
「そうだカディール、この件に関しちゃエイナとかなり話し合ったが、結局結論が出なかった。まさに八方塞がりだ。なもんでよ、いっそ皆に話して一緒に考えてもらおうかと思ってなぁ。こんだけ人数がいりゃあ、いい案が出るかも知れねぇしな」
ゼルの言葉を聞いたカディールはスッ、と立ち上がる。
「なるほど、我らの行く末を決める重要な
「何でお前いちいち偉そうなんだよ……」
カディールの言葉を皮切りに、地下室に集まった団員達は
その様子を地下室の隅に座っている俺は、懐かしさを感じながら眺めていた。やったなぁ、こういうの、高校とか大学で。でもこんな感じで上も下もなく意見交換出来るのは、この陣営のいい所ではないだろうか。一方的なトップダウンばかりではいずれ上手くいかなくなるだろう。適度なボトムアップも当然必要だ。
うん、どうだろうか? 賢い感じするだろう? こう見えて、そこそこ出来る子なのだ。
皆の話し合いを眺めていた俺にする~っ、と近付いて来る者がいる。デームだ。
「どうですかコウさん、いい案はありませんか?」
「え、俺? いや、そう言われてもなぁ……エイナさんにも言ったけど、こういうの素人だし……」
「はい、
「う~ん……」
そこまで言うなら考えてみようか。とは言え、取っ掛かりがない……うん、こういう時は目標とする所から逆算して考えてみればいい。と、以前読んだ何かの本に書いてあった気がする。
目標はゼルがジョーカーの団長になることだ。その為に邪魔なのはエクスウェル。エクスウェルを倒さなければ、ゼルが団長になる事はない。エクスウェルを倒すには……ん?
……エクスウェルを倒したとして、その下にいる団員達の
「……デーム、ゼルが団長になったらさ、エクスウェルに付いてた団員達ってどうなるの? 過去は忘れて一緒にやるの?」
「それは……ゼルさん次第というか……まぁ、そういう者もいるでしょう。全員を排除してしまったら、さすがにジョーカーの運営が人員的に難しくなるでしょうし……」
「じゃあさ、西支部の連中は?」
「それもやはりゼルさん次第ですが……心情的には難しいですよね。それはこちらばかりではなく、向こうもそうでしょう。今回の襲撃では双方に犠牲者が出ていますから。個人的な気持ちを言えば、西の連中は全員追放して欲しいと思いますよ」
なるほど……だったら現状では極端な話、西支部はないものと考えていいんじゃないだろうか? となると……
「……西支部、破壊しちゃえばいいんじゃない?」
突拍子もない案だろう、と自分でも思う。現にデームはきょとんとしている。
「あの……破壊……ですか?」
「そう、支部の建物ごとボーン! って。建物潰す訳だから支部としては機能しなくなるけど……でも、そうすればさっきエイナさんが言ってた防衛ラインも作れなくなるでしょ? それにやられっぱなしってものよくないだろうから、これで少しは
「……コウさん!」
考え込むように話を聞いていたデームは突然大きな声を上げた。
「はい! ……何?」
するとガシッ、と俺の腕を掴むデーム。そしてグイグイと引っ張る。
「何!? ちょっと、デーム?」
「今の話、
「ちょ……デーム! 分かったから、立つから! デーム!」
俺はデームに引きずられるように連れていかれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます