第73話 山賊の舞い
「うん、旨ぇなこりゃ。こんなん毎日食ってたら、そら太るわなぁ」
俺とゼルはサブライが用意してくれた料理を頬張る。デカい肉がゴロゴロ入ったシチューに、こっちの世界では珍しいふわふわのパン。
うん、うん、うま。と、
「マスター!」
勢いよく地下室のドアが開き、現れたのはホルツだ。
「ホルツ、待ってたぜぇ! どこ行ってたんだ?」
「この近辺の宿や教会に下の
「そうかい、そりゃありがてぇ。んで、リガロはどうした?」
ゼルがリガロの名を出した途端、ホルツの表情が曇る。
「脱出するときな、リガロが
「そうか……今、ブロスとライエに周辺の街を回ってもらってる。仲間が隠れてねぇか探してもらってんだ。ひょっとしたらどっかでリガロと会ってるかも知れねぇぜぇ? その内ひょこっ、と顔出すんじゃねぇか?」
「ああ……そうだな。あいつがくたばる姿なんて想像できねぇ」
「だろ? ここで待ってりゃ現れるさ」
ゼルはスパイの一件などなかったかのように振る舞っている。一体どこで切り出すつもりだろう……
「さて、そんじゃあ始めるかぁ。アルマドに入る直前コム商会のベトンに会ってな、何があったかはざっくり聞いた。西の裏切りだってものな。ベトンは早々にビーリーが脱出させたようだが、それ以外、そしてそれ以降何があったのか聞いときてぇんだ」
「分かった。あの日俺は下の
ホルツは静かに語り出した。
◇◇◇
「! お前ら、隠れろ!」
ホルツは一緒に見回りしている部下二人の腕を引っ張り、道を外れ草むらに身を隠す。
「何だよホルツさん、急に……何だあれ?」
四番隊宿舎の西側、林の中から次々と武装した者達が飛び出してくる。
「四番隊……演習か?」
「いや、あれ西の連中だ。見たことあるやつがいるぞ。何であんなとこから……?」
「まずいぞ……」
ポツリと呟くホルツを部下二人は不思議そうな顔で見る。
「ホルツさん、まずいって……?」
「味方だったらあんなとこから出てくる必要がねぇ。堂々と門から入るだろ? そうじゃねぇってことは……襲撃しかねえだろ」
「な!!」
部下は思わず声を上げた。
「バカっ、声でけぇ……」
目の前を武装した者達が列をなして走って行く。どうやら気付かれてはいないようだ。
「気を付けろよ、バレたら終わりだ。こっちは三人しかいねぇんだ、袋叩きに合うぞ?」
「でもホルツさん、西はマスターについてたんじゃ……」
「裏切ったんだろ。マスターがいないこの隙に始まりの家を押さえるつもりかぁ?」
「まずいじゃねぇかホルツさん、早いとこ何とか……」
「待てって。三人であの数に突っ込むのか?」
敵の数は見る間に増えて行く。目の前を通る列も途切れる気配がない。
「こいつらは……本部棟と三番隊の宿舎狙いか? 残りは……四番隊の宿舎だな」
「ホルツさん……」
「まだだ。まだ待て……」
やがて目の前を通る列が途切れた。少し先に目をやると、四番隊の宿舎はすでに包囲されていた。するとにわかに宿舎が騒がしくなる。四番隊が事態に気付いたようだ。が、少し遅かった。西支部の者達は次々と宿舎内に突入して行く。怒声と怒号、激しい戦闘音が宿舎から聞こえてくる。
「ホルツさん! もう……」
「まだだ! 四番隊の反撃が始まってから……」
ドンッ!
大きな音と共に四、五人の男達が、宿舎の玄関から外に放り出された。後を追うように西支部の者達が外へ逃げ出してくる。次に現れたのは団員達より頭二つくらい抜け出た大きな姿。真っ黒で全身に筋肉の鎧を
「やっぱりカディールさん中にいたな」
ニヤッと笑うホルツ。
「じゃ、あれカディールさんの
部下は思わず顔をしかめる。
「よし、俺らも動くぞ。先ずは四番隊の援護、ここが落ち着いたら三番隊の宿舎に向かう。行くぞ!」
「「 おおー!! 」」
ホルツとその部下の三人は草むらから飛び出し、西支部の団員達に斬りかかる。
「ホルツ! 無事だったか!」
「おう、エバルド! 加勢する!」
「なっ……こいつらどこから……!」
「構うな! 三人程度で何も変わらねぇ! まとめて……」
「うるせぇっての!」
ホルツは剣で敵の首元を一突き、抜いた剣をくるりと回すように今度は横にいる敵の胴を斜めに切りつける。
「あいつ……あの
「な! 何で三番隊のホルツがここにいる!? くそっ! 本当に曲刀持ってやがる……貧乏クジじゃねぇか! 冗談じゃねぇぞ!」
にわかに西支部の団員達が騒ぎ出した。
曲刀のホルツ。
三年前、ジョーカー三番隊は依頼を受け、北の大国同士の戦争に参戦したことがある。その戦争で一番の激戦となったロバール戦役と呼ばれる戦いにおいて、ホルツは大きく
「囲め! 複数で当たりゃ怖くねぇ!」
ホルツの周りを十人程の団員が取り囲む。その様子を戦いながら眺めていたエバルド。
「おうおう、有名人は大変だなぁ。でもありゃダメだ」
「加勢に行く!」
「あ~、違う違う」
エバルドの呟きにそばにいた四番隊の団員がホルツの元へ走ろうとする。が、エバルドはそれを制す。
「あの程度の包囲じゃホルツは止められないってことだよ」
「っらぁ!」
右側、頭上から真っ直ぐに振り下ろされる剣に曲刀を当て、自身の身体に当たらぬよう敵の剣筋をずらすと、曲刀の
「てめぇ!」
ビュンビュンと風を切り三度、四度と打ち込まれる敵の剣を曲刀で
さらに右、自身の首を狙い水平に迫り来る剣を身を
「すげぇじゃんホルツ! あんな強いとは知らなかったわ」
エバルドのそばにいた団員は驚いて声を上げた。が、エバルドは微妙な表情。
「やっぱあれだな、気持ち
エバルドの言葉に団員は驚いて尋ねる。
「気持ち悪いって……何がよ?」
「いや、だってあの
「あ~、そう言われると……まぁ、な……」
踊るように戦うホルツは、気付くと周囲の敵をあらかた倒してしまっていた。と、背後に強烈な気配。振り向くと真っ黒い
「勘弁してくれよ、カディールさん! ちゃんと制御してくれぇ!」
ホルツを襲った真っ黒い
「やべぇ、またやりやがった! マスター! 魔の制御ができてません! マスター!!」
「騒がしいぞ、エバルド。聞こえておる、みなまで言うな」
宿舎の中からゆっくりとカディールが出てきた。
「マスター、ホルツが襲われてます! 早く制御を!」
「ふむ……」
カディールは魔の攻撃をかわし続けているホルツを見る。
「ほう、これは
いや、カディールが見ていたのは呼び出した魔の方だった。
「ホルツよ!」
「ああ、カディールさん、早いとこ何とかしてくれぇ!」
「上手く避けろ」
「……はぁぁ!? てめぇカディールさん! いい加減にしろよ!」
逃げ惑うホルツを笑いながら眺めるカディール。エバルドは心の中で謝った。
(あぁ……済まん、ホルツ……)
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