第12話 救国
ミードの入った樽を全て家の中に運び終えた。めちゃくちゃ重かったんですけど……
「ここに来る前につまみにと思いラスカで色々買ってきたんだが、コウがいるとは思わなんだからな……」
そう言いながらラムズはテーブルいっぱいに料理を広げ始めた。
「足りるかの?」
足りるでしょ。てか、この量二人で食おうとしてたの?
「さて、ではレイシィ殿との久々の再会と、コウとの出会いを祝して乾杯しようぞ!」
こうしてミードと大量の料理を前に宴会(?)が始まった。
◇◇◇
「で、ラムズよ、領内はどうなんだ?」
「うむ、平和も平和、何事もなく順調である」
「領内?」
「ああ、アドフォント家は王都の北にあるセストニン領を治めているんだ」
「うむ、これでも公爵家である」
公爵ってかなり上の位じゃなかったっけ? なんか全然そんな感じに見えないな。
ん?
「さっき前当主で元騎士団長って言ってたよね? 当主って領主って事でしょ? て事は領内を見てなきゃいけない……でもって、騎士団長ってことは城にいなきゃいけないんじゃ……?」
「ガハハハ、コウよ、鋭いな。私はほとんど城におってな、領内の事はもっぱら弟に任せっきりであったのだ」
「当主ってそれでいいの?」
「いい訳ないだろ、本来はあり得ん。そんなめちゃくちゃが許されていたのはラムズが救国の英雄だからだ」
救国?
「ガハハハ、レイシィ殿、これまた古い話を持ち出したな」
私も聞いた話だが、とレイシィは語りだした。
二十年程前、南のヒルマス王国との間で国境線を巡るトラブルが
そんな中ヒルマス王は一気に王都オルスを落とすべく、四万の軍を新たに
ヒルマス側としても予期せぬ開戦であった為、次第に前線での物資不足が問題化し始めた。
対するオルスニアは、守りの為に敗残兵を王都周辺の街や砦に集めていた。
ヒルマス軍の王都侵攻の報を聞いたオルスニア王は、騎士団近衛隊隊長として城に
ナグラム城は王都への道を塞ぐようにそびえる、ナグラム山の中腹に築かれた山城である。王都から馬でわずか半日という距離にあり、王都の南門と呼ばれている
王の命を受けたラムズは二百の部隊を率いて進発し、
一方、四万の兵で進軍を始めたヒルマスの王都侵攻軍は、
ここにオルスニア王国の命運を左右する、ナグラムの戦いの幕が上がる。
ラムズがオルスニア王より受けた指示はナグラム城を死守せよ、と、このただ一つだけだった。何の当てもない戦いを強いるような王ではない。恐らくその先の策があるのだ。その策が何であれ自分の役割をしっかりと果たす、ラムズはただそれだけを考えていた。
籠城戦は
それに対し、いつまでも落ちない城にヒルマス軍は苛立ち始めた。そしてそれと同時にわずかな不安の感情も生まれる。
果たしてこの城を落とす事は出来るのか?
そんな
そんな中、ラムズは
ラムズは戦場における兵の感情の揺らぎを心得ていた。不安や恐怖といった感情は伝染するのだ。そしてその負の感情は、ヒルマス軍の士気の低下に拍車をかける。
それでもやはり十倍の兵力差は、ラムズ達守備隊に重くのし掛かる。
死傷者が増え、精も根も尽き果てる寸前の籠城戦六日目の朝。城壁の上からにわかに歓声が起こる。何事か、とラムズが確認の為城壁に上がると、城を包囲するヒルマス軍の後方に新たな軍勢の姿が見えた。その軍勢はオルスニアの旗を掲げている。
そう、援軍だ。途端に城内の兵達の士気が跳ね上がる。あの援軍こそ、オルスニア王の放った策であった。
ラムズに王都侵攻軍を足止めさせている間に、小さな別動隊をいくつも編成し、ナグラム山を左右から迂回するように南下させ合流、侵攻軍の後方に回り込み兵站線を分断、そのままナグラム城へ進軍させ挟撃を狙う策であった。
援軍の数は一万程であったが、下がり始めていたヒルマス軍の士気を叩き折るには充分な数だった。この援軍との挟撃により、ヒルマスの王都侵攻軍は瓦解。その一報を受けたヒルマス国王は、これ以上の戦闘は不可能と判断し全軍の撤退を指示、戦争は終結した。
この戦争の第一功は間違いなく、ナグラム城を死守したラムズである。そしてその功績は、瞬く間に国中に知れ渡った。ラムズがナグラム城を守っていなければ王都は
しかし、その称賛の声を悩ましい表情で耳にしていた人物がいる。他ならぬ、オルスニア王である。
この戦争の少し前、当時のアドフォント家当主、つまりラムズの父であるエール・アドフォントより、ラムズに家督を譲り領地に帰還させたい、との要望を受けていた。ラムズを手元に置いておきたかったオルスニア王だが、もちろん貴族家の事情も承知している。致し方がない、と考えていた。
しかし、ナグラムの戦いで獅子奮迅の活躍をしたラムズを、
そこで王はエールと会談、とある提案をした。
アドフォント家当主は
最初は難色を示していたエールだったが、最終的にはこの提案を容認した。王が自らの立場を利用し押し切った形だ。いくら名門貴族家であっても、さすがに王の意向は無視できない。
こうして、貴族家当主でありながら領地運営は一切せず、騎士団長として剣を振るう珍しい存在が誕生した。
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