第10話 シールド

「行くぞ~」


 ヒュン!


 ドン!


 ファァァ……


「遅いぞ、次~」


 ヒュン!


 ドン!


 ファァァ……


「全然遅い!」





 魔導師の修行がスタートしてすでに五ヶ月、ここ一ヶ月程はずっと、ヒュン、ドン、ファァァ、の繰り返しだ。


 ん? 何をしてるか分からないって?


 簡単な事だ。ドン、がパシィィッ、になればいいのだ。



 ◇◇◇



「さて、今日から本格的に魔法の修行に入る。早速だが、魔法を使う上で必要なものは?」


「魔力?」


「その通り。魔法を使うにはその原料とも言える魔力が必要だ。今までやってきたことは魔法の修行を始めるための準備だ。まずは自分の魔力を認識する作業、次はその魔力を練り上げ使用可能な状態にする作業。そして準備は整った。いよいよ魔法というものに触れていこう」


 ようやくだ、長かったなぁ、四ヶ月。吐き気と眠気と、戦ったなぁ。


「じゃあやるぞ。まず腕を前に伸ばす。手のひらを外に向けそこからポン、と魔力が出てくるイメージだ」


 右腕を前に伸ばす。手のひらから魔力が……ポン、と出た。が、すぐに消えてしまった。


「外に出した魔力が霧散むさんしないように、その場に固定するんだ。魔力をギュッと圧縮して小さくするイメージだ。集中しろ」


(ギュッ……と、圧縮……)


 その時、俺の頭の中に浮かんだのはなぜかアルミ玉だ。アルミホイルを握って丸めて、トンカチで叩いて叩いて硬くして、ヤスリで削って削って、磨いて磨いて、ピッカピカのテッカテカのアルミ玉。動画なんかであるだろう?


 そんなイメージで何度か繰り返すとコツを掴んだ。上手く魔力を維持出来るようになったのだ。


「もう出来たか、早いな……やっぱりお前魔導師向いてるぞ? じゃあ次はその魔力を薄く伸ばしていく感じで、身体の全面に広げて展開する。大きさは……そうだな、胸から上が隠れるくらいだな」


(ん? 広げる? 魔法使う時そんな事してんの?)


 不思議に思いながらも、言われた通りにやってみる。が、失敗した。魔力のイメージをアルミ玉にしてしまった為、伸ばすイメージを考えるのが大変だ。どうしたものか、と色々考えた末、結局巨大ローラーで押し潰して広げる、という力業ちからわざに行き着いた。まぁ、あくまでイメージだからいくらでもやりようがあるんだが。


「よし、いいな。上手く展開出来てるぞ。じゃあその広げた魔力に今から魔法をぶつけるからな」


「え? ちょっと待っ……」


 こちらの話も聞かずレイシィはヒュン、と魔法を放った。その魔法は俺の広げた魔力にぶつかり、パシィィッと音を立てて弾け飛んだ。


「おおぉ……」


 この音は聞き覚えがある。レイシィが盗賊の魔法を防いだ時の音だ。


「これが魔力シールド。相手の魔法を防ぐための手段だ。スムーズにシールドを張れるようになるまで、しばらくはこれの繰り返しだ」


「え、魔法使う練習じゃないの?」


「実際に魔法を放つのはこれの次の段階だ。まずはこれが出来なきゃ話にならん」


 なんだ……いよいよ魔法だ! って思ってたのに……


「私が放つ魔法をお前がシールドを張り防ぐ。実に簡単な話だ。ただし、一つだけルールを作る。お前がシールドを張るのは私が魔法を放った後だ。私の魔法の威力を見極め、それをちょうど防ぐ事が出来るくらいの魔力でシールドを張る。多すぎても少なすぎてもダメだ」


「多すぎてもダメってのはどういう事? 多い分には問題ないと思うけど?」


「魔力を無駄に使うな、っていう単純な理由だ。お前の魔力量は相当多い。が、無尽蔵にある訳じゃない。無駄に魔力を使い続け枯渇こかつしてしまったら何も出来なくなる。念には念を、だな。必要な魔力を必要な分だけスムーズに取り出す。これは魔法を放つ時にも応用される重要な技術だ」


 なるほど、理にはかなってそうな……ん?


「あ~、あのさ……これ、防げなくて魔法当たったらどうなるの?」


「そりゃあ……痛いだろうな」


「……ケガするよね?」


「ケガするだろうな」


「いやいやいや!」


「分かってる! 心配するな。慣れるまでは充分加減するし、万が一ケガしてもすぐに治してやるから」


「はぁ? 治すって……」


 何言ってるんだ、このレイシィは。ホ○ミでも使えるってのか? ……いや待て、魔法があるって事はひょっとしたら……


「治癒魔法使えるから大丈夫だ。すぐに治してやる」


 ……マジか!?


「治癒魔法って……ケガとか治せんの?」


「打撲、裂傷、骨折、あと、ん~、内臓破裂くらいならギリいけるな。それ以上は無理だから、まぁ、気を付けろ」


 それ、俺が気を付けなきゃいけないのか? お師匠の加減次第じゃ……まぁいい。それより治癒魔法、素晴らしいじゃないか。この危険極まりない世界で生きていくには必須のスキルだ。是が非でも習得しなければ!


「あの、それ覚えたいんだけど、治癒魔法。絶対必要でしょ? そっちの修行も……」


「そんなもんずっと後の話だ! まずはこれ! シールド張る!」


 むぅぅ~……まぁいい。そのうち絶対覚えよう。盗賊なんかがごろごろいるこの世界では治癒魔法こそ必要な……


「よし、行くぞ」


「え? あ、ちょっと……」


 ドン


 当たった。胸にドンって。軽くどつかれたくらいだが、レイシィの放った魔法が当たった。と言うか、唐突過ぎるだろ?


「シールド張れ、シールドを。次!」


 ドン


 また当たった……これ難しいぞ?


「次々行くぞ~!」



 ◇◇◇



 そして冒頭に戻るのだ。


 一ヶ月、延々とレイシィの魔法をくらい続けている。最初はよかった。存分に加減してもらっていたおかげで、当たってもなんてことはなかった。しかし徐々に魔法のスピードが上がり、さらに威力もランダムになってきた。何なら一発で意識を失うくらいのダメージを受ける事もある。こうなるともう、どうにもならない。


 ヒュン! (レイシィが魔法を放つ)


 ドン! (シールドを張れず命中する)


 ファァァ (意識を失い倒れ、即座に回復される。)


 ちなみに回復中こんな音は出ない。俺が勝手に付けたイメージ音だ。


 永遠に終わらないのではないか、と思えるくらい延々と続く魔法直撃無限地獄。いや、上手くシールドを張ればいいだけの話だ。でも出来ないんだ、もう痛いの嫌なんだ……


 しかしこの世界の魔導師を目指す者たちは、みんなこの過酷な修行に耐えているのか……


 頭おかしいのかな?


 こんなもん、体もそうだが心の方が先に崩壊するわ! 絶対他の方法あると思うぞ!


 パシィィッ


「お、今のいいぞ~!」


 これだ……


 三十回に一回くらい、この音が響く。上手くシールドを張れた時のパシィィッだ。この音がなんとも気持ちいい。どれだけ魔法の直撃を受けても、これを聞くと全てが報われた気になる。


 なるほど、この音を聞きたいがためにこの世界の魔導師を目指す者たちは、こんな過酷な修行を続けるのか。


 やっぱり頭おかしいのかな?


 こんなもんただのドM育成プログラムじゃないか!? これのために魔法くらい続けるって正気じゃないぞ!


 パシィィッ


「お、コツ掴んできたか? いい感じだぞ~」


 くっそぉぉ~、気持ちいい……

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