たまものハント
@kinuya
-It’s The conclusion of Fantasy-
朝の鐘が鳴りだすより早く、私は準備を整えていた。
濃紺と星々が西の空へ追いやられ、薄絹を少しずつ重ねたように白んでいく空を見て、私はお日様に向かって一礼をする。
今日も一日が始まることに感謝を、そして私のような子供にも任された仕事があることに、感謝を。誰にともなく、ましてや神様にでもなく祈りながら、私は回れ右をして一本だけ地面から生えてきたみたいに置かれている「掃除ボックス」を開く。
中に入っているのは一本の「ほうき」。私の仕事はこれを使って大樹の回りを清めることだ。私の家にある木で作った箒とは違う、白くて艶やかな「ほうき」。それはどうしてか、理由はわからないのだけど私の手にとてもよく馴染む。
「ほうき」を手に取った私はまずは周りをぐるりと見渡す。大樹はより大きな円状の壁に囲まれて、その中は芝生のように草が短く切りそろえられている。私は壁の近くに目ざとく汚れを見付けて、それを清めていく。
壁にほど近い外周から螺旋を描くように、大樹の方へと向かって「ほうき」で汚れを掃いていく。最後に大樹の周りの汚れも、格別に気を使いながら綺麗にする。
「よし、今日も完璧です」
私は額の汗を袖で拭い、掃除を始める前にしたように周りを見渡す。汚れひとつない壁の内側は、まるで楽園のようだった。
この仕事を終えるために私はだいたい半日を要する。始めたころはもっと時間がかかっていたけれど、私も日々成長している。最近は太陽が天辺に来るまでには掃除を終えられるようになった。
でも本当は、時間はいくらかかっても構わない。ただし「毎日、雨の日も、風の日も、雪の日も絶対に丁寧に仕事を成し遂げてくれ」と、そう言われている。
私は「掃除ボックス」に「ほうき」を仕舞って、ゆっくりと扉を閉じる。すぅっと吸い付くように扉が閉じて、この扉は次の日まで絶対に開かない。
私は掃除ボックスの後ろに回り、そのまま大樹に向かう。
そこに、階段と扉がある。
今日はどんなお話をしよう。今日はどんなお話が聞けるだろう?
私は扉をノックして、中からのお返事も待たずに扉を開いて、毎日元気にこう言うのだ。
「今日のお掃除、終わりました!」と。
たまものハント @kinuya
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