了解。

紀之介

別に、褒めてない

「─ ありがとぉ」


 僕は、借りていたノートを返した。


「お礼しないと、だね」


「別に しなくて良い」


 受け取ったノートを、鞄にしまう竹中。


 相変わらずの無愛想に、僕は怯まない。


「そう言う訳にはいかないよぉ」


「敢えて礼をして貰う程の事ではない」


「わざわざノート借りたのは、お礼の ごちそうするためだしぃ」


 竹中に、僕はしっかりと目を合わせる。


「だから、デート しよ?」


「─ そこまで あからさまだと、いっそ清々しいな」


「お褒めいただいて、光栄です」


「別に、褒めてないがな」


 顔の前で両手を合わせる竹中。


 顎に当てた親指を支点にして、人差し指で 鼻の頭を軽く数回叩く。


「私の家まで、迎えに来てくれるなら」


「了解♫」


----------


「あ!?」


 玄関を開けた僕は、その場で固まった。


 何故なら、出迎えてくれた竹中の様子が、普段と全く違ったから。


 普段の地味な装いとは打って変わった、お洒落な姿だった。


「取り敢えず中にはいって、ドアを閉めてくれ」


 我に返って指示に従う僕。


 戸を締めて振り返ると、竹中はニヤリと笑って腰に両手を当てた。


「どうだ?」


「可憐で可愛く、綺麗で麗しい♫」


「ふむ」


「…大学に来る時も、そう言う感じで来れば良いのに」


「こんな手間暇かかる事、毎日するのは御免だ」


「じゃあ…何で今日は……」


「初デート記念、だ」


 見た事がない表情の竹中。


 感激した僕の体内で、良く解らない衝動が湧き上がる。


 思わず一歩踏み出そうとした刹那、竹中はボソッと呟いた。


「抱きついて 服を駄目にしたら、デートなんか してやらん」


「─ 了解。。。」


----------


「じゃあそろそろ──」


 頃合いを見計らって、デートにエスコーしようとする僕。


 頷いた竹中は、踵を返した。


「では、化粧を落として着替えて来ないとな」


「…え?」


「汚すと後が面倒だし…何よりもこの服だと 動き難い」


「は?!」


「化粧して着飾ったままだと リラックス出来ないしな」


「そ、そんなぁ──」


 出来れば僕は、お洒落した竹中とデートをしたい!


 だから、どうしたら良いかを 必死で考えた。。。


----------


「わざわざ、手間暇掛けてしたお洒落なのに…もう着替えたら勿体ないと思う。」


 竹中の足が止まる。


「ん?」


「その姿…写真に残すべきじゃないかな……」


「ふむ、一理あるな」


 満更でもなさげに、竹中は振り返った。


「…でも、カメラがないだろ?」


「僕のスマホは、下手なカメラより画質が良い機種だから。」


「では、どこかその辺で…」


「せ、折角だから…相応しいで場所で 綺麗に撮らない?」


 ここぞとばかりに、僕は畳み掛ける。


「笹本公園なんかどう? あそこなら…おしゃれな煉瓦塀や、レトロな建物や、綺麗な花壇もあるし!」


 様子を伺う僕に、竹中が口を開いた。


「…じゃあ、そこで撮ってもらおう」


「了解!」


----------


「昨日は…済まなかったな」


 翌日の授業開始前、いつもの地味な格好の竹中が、僕の隣の席に座る。


「デートが…公園での写真撮影だけで 終わってしまった」


「うん。竹中の艶姿を堪能出来たから、無問題♫」」


「そうか」


 僕は、自分のスマホを取り出した。


「送った写真…見た?」


「うむ」


 何故か竹中が、こちらを見ようとしない事に僕は気が付く。


「どうかした?」


「じ、実は…もう一着、お気に入りの服があってな。」


「…へ?!」


 竹中は、顔の前で両手を合わせた。


 人差し指の第一関節を、唇に当てる。


「今度は…撮影だけで終わらせず、ちゃんとデートもする」


 横目で様子を伺う竹中。


 すかさず僕は、頭が取れる勢いで うなずいてみせた。


 満足げな表情を浮かべた後、竹中はボソッと口にした。


「私が気合を入れて装うのだから、それに相応しい格好で来る様にな」


「りょ、了解。。。」

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了解。 紀之介 @otnknsk

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