本小説の利用方法 史実というモデル

 今まで書いてきたように、一つの世界の歴史や社会を形作るには、非常に膨大な知識が必要になってきます。

 そうすると、すべての設定を一から考えるのは無理があるということになります。一つの世界に住んでいる人々の動きや社会の仕組みは、なかなかに複雑です。


 そこで、史実に存在した国家をモデルにするという方法が出てくると思います。何かをモチーフにして創作するというのは、一般に広くとられている手法です。


 このやり方は、本小説の利用方法とも言える内容となります。


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・史実と物語


 その世界や主人公のモチーフを史実から一つ選択してみましょう。


 どの国(民族、職業)から物語を始めるか選択するというのは、フリーシナリオのゲームでよく見ることができますが、物語を作るという意味では似通うでしょう。


 まず各国がもっている要素を書き出します。

 そしてそれをもとに作っていくのですが、ここに史実を参考にする理由があります。それぞれの要素とその組み合わせは、実際に歴史の中で育ってきたので、合理的で現実的に可能だということができるのです。よほど時代が外れなければ、中世ファンタジーという雰囲気を壊すこともないでしょう。



 例えば、本編にて主に扱ってきた中世ドイツで形成された領土をやってみましょう。


 社会制度:封建制(封建制的帝国)

 指導者:領主

 階級:領主、家臣、騎士、農奴、商人、職人

 領土規模:小

 主戦力:騎士、ミニステリアーレ

 敵対勢力:他領主、海蛮族、森蛮族

 主産業:農業、鉱山業、手工業

 経済:ギルド、中庸

 主要文化:吟遊詩人

 宗教:キリスト教

 特記事項1:海辺では商人たちが同盟を組んでいる

 特記事項2:群雄割拠


 中世ドイツであればこのような要素を書きだすことができます。他にも同時代の中国の王朝、宋であれば次のようになります。


 社会制度:中央集権、官僚制

 指導者:皇帝

 階級:皇帝、文官、武官、商人、兵士、農民

 領土規模:広大

 主戦力:槍兵、クロスボウ、艦隊

 敵対勢力:騎馬蛮族、騎馬民族

 主産業:農業、漁業、鉱山業、紡績業、窯業

 経済:大規模

 主要文化:哲学、文学、美術

 宗教:仏教、儒教、道教

 特記事項1:文化レベル、技術レベルともに高い

 特記事項2:官僚制の動向に注意



 このように各国の情勢は千差万別なので、あらゆるアイディアに適合することができるはずです。ある一勢力の歴史を引っ張り出してきて要素を書くだけでも、ある程度物語ができるかもしれません。


 もちろんまるっと反映するのでは、息苦しくなってしまいます。次に関係あるものを抽出します。


 例えばこの中からドイツの商人の息子という素性にすると決めたとします。すると、


 "海上に貿易路を持つ中堅商人の次男として生を受ける。見習い中に蛮族に襲われるもののこれを撃退する(第1章)。これがきっかけで商人ギルド内で軍事的な地位を得始める。訪れた海岸線沿いの辺鄙な村々で依頼を解決していく(第2章)。異民族の大規模攻勢があった際に海の守りとして活躍する。騎士に嫌味な態度をとられたりする(第3章)。"


 という主人公を作り出すことができます。もしかしたら他作品ですでにある設定かもしれませんが、舞台が整っている分ストーリーの展開はスムーズです。

 そして、この主人公の素性から性格も作り出すことができます。


 中堅商人の次男:安定志向、上昇志向、拝金主義

 船乗り:信心深い、塩漬けを食べ飽きている

 軍事や商売:思い切りが良い

 異民族との交流:他宗教に寛容、度胸がある

 幼少期:いつかは独立したいが、実は父のように堅実に暮らしたいとも思っている


 これらは世界をつくれば、客観的な要素となって登場人物を肉付けしてくれるでしょう。

 いくつかは相反する性格ですが、人間的な二面性、ということでどうにかなりそうです。行動が多様化する可能性も持たせることができます。


 ヒロインとしては、蛮族(海岸線沿いの他民族)の娘、ライバル手工ギルドの娘、領主の娘、宋的な王朝の末姫、辺りが出てくるでしょう。素性が決まっていれば、性格も生み出しやすそうです。



 もちろん、ここにモンスターや魔法、異種族、冒険者を登場させても、いくつかの要素には気を配る必要があると思いますが、大量の矛盾を生み出して崩壊ということにはならないでしょう。


 人気ワードである、異世界転生やハーレム要素も取り入れることができる余地は残っています。例えば、知識を生かして、異国の地で流行っているであろうクロスボウやギリシア火薬を取り入れて海上戦で圧勝する、としてもいいかもしれません(その際には、船の形状や海戦の主流戦術に気を払わなければならないでしょう)。

 タイトル的には、「北方商人の息子に転生したけど気が付いたら海軍総督になっていた」でしょうか(ありがち)。



 ところが各要素が"どのような出自を持つのか"、"どのような属性をもっているのか"、ということをある程度理解をしていなければ、削っても良いところ、加えても良いものを判別するのは困難です。

 官僚制的な社会なのに騎士のような存在が権力を持っている、ということは避けなければなりません。地形や気候が条件となる制度や兵種が共存するということも、世界を崩壊させる要因です。


 知っておけば避ける事や改変することで防ぐことができます。

 本小説ではそういう意味も含めて、色んな要素や国家の紹介ができたら、と思うのです。

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