王国のライフライン 海と貿易
前回、宿の関係で貿易について触れました。
貿易は原始社会からその土地に足りないものを補うためになされてきました。時代が進むにつれて様々なものを流通させ、発達すれば数千キロも遠くの品物を手に取ることができるようになる、というシステムです。
今でこそ様々な環境が整えられていますが、貿易によって運ばれてきた異国の物品を見た人々が受けた衝撃は計り知れません。貿易は基本的に海を持っている国が有利です。
ファンタジー世界の貿易はどのような品を扱うことになるのでしょうか。
・史実の貿易とファンタジー世界の貿易
・史実中世の交易品
・ファンタジー世界の交易品
・史実中国における海洋事情
・冒険者と船旅、海洋民族
・海の生物の脅威と出現率
・変わった交易品
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・史実の貿易とファンタジー世界の貿易
商人の交易活動は、ある地点で生産されたものを、遠くのより需要が多い地点で売りさばくことで利益を上げるというものです。
安く買って高く売る、というのが基本で、その売る場所は生産地から距離が離れている必要があるでしょう。
したがって、商人は離れた地まで実際にいって売り買いすることになります。
史実でも11世紀から12世紀では、遍歴商人という、都市間を移動しながら売買する定住しない商人は一般的でした。
商人が純粋な戦闘を生業にしている人達より非力なのは当たり前のことです。しかし旅をしていれば事故にあうだろうし、獣や野盗に襲われることがあります。
そこで商人は隊商を組んだり、統治者に保護を求めます。交易路の整備も、国が請け負う事が多かったのでした。国としても交易路から莫大な利益を受け取ることができるのです。ただ、唐が崩壊するとシルクロードでは治安が悪くなったように、地域によっては交易路の生命線は統治者でもあったようです。
これまでの頁で、商人は冒険者に護衛を依頼すると書きましたが、その理由は統治者に余裕がなかったからでした。
モンスターから素材が採れて、生息するモンスターに地域ごとに差があるとすれば、それはその地域の特産品となることと思います。
それらを手に入れたいと思うのは、自然な流れです。
史実より早い段階から、物の流れは活発だったのではないでしょうか。加えて、エルフやドワーフといった他種族と関係を結んでいる場合は、もっと異文化交流は進んでいたでしょう。
なんども書いてきましたが、ファンタジー世界では封建制の崩壊は史実より早く起こると思われます。冒険者や商人といった人材の活発的な移動や、モンスターや魔族といった明確化した敵対勢力の存在といった要素で、王政の登場は早まるでしょう。
・史実中世の交易品
史実ヨーロッパで他民族との交流が活発的になるのは中世後期のことです。窓口、玄関口は欧州の中では東に位置し、海を持っているイタリアでした。
中世ヨーロッパには、たくさんの交易品が方々から流れてきました。
代わりにイタリアから出ていったものは、たくさんの金、未開の地で捕まえた奴隷、ガラス玉です。
輸入品として有名なのは胡椒でしょう。非常に高価であり、関税の代わりに徴収されるということもありました。
オリエント(東方)からは絹織物、香辛料、香料、染料、それに織物の製法や装飾技術などを持ってきます。それらは非常に高い輸送費が加算されるために、教会や宮廷の一部に供給されました。
海上輸送が強みの北方からは、農産物に木材、毛皮、海産品など、たくさんのかさばる品目が輸入されます。
一度は耳にしたことがある"ハンザ同盟"とは、異民族の権利が基本的に保障されないバイキングにおいて、その中で商売をしていくために遍歴商人たちがつくった団体です。都市を作り上げて国と対決するまでになりました。
イタリアの商人達はこれらの交易品を利用して、力をつけ、問題を解決していくのでした。
・ファンタジー世界の交易品
ファンタジー世界の貿易事情はどうだったでしょう。
すでに他種族との交流があるファンタジー世界ですので、他民族との交流もすんなりと進むでしょう。
しかし、現実世界でいう東方勢力との接触の壁として、モンスターの存在があります。砂漠の民や草原の民が出てくることもありますが、東方民族の存在が確認できる世界は少数派だったりします。
ファンタジー世界の多くは、どうやらフン族やモンゴル人といった騎馬民族の襲撃も起こらなかったようですし、イスラム教徒が海を渡って攻めてきたり、バイキングの略奪などもなかったようです。それに伴う民族の移動などの重要な出来事も起こった様子もありません。
もちろん、ある地域の話に限定した展開である場合もあるので、そこで生活する主人公たちとは関わりのない土地や時代で、そういった騒動が巻き起こっている可能性はあります。
例えばレコンキスタ(国土回復運動)は、イスラム勢力を相手に行われたのではなく、魔族を相手に行われたのでしょう。
モンスターの存在は、異文化交流を大きく阻害しています。交易路の危険度が高いファンタジー世界であれば、史実と違いありとあらゆる文化の発展は止まってしまうことになるでしょう。
もしそれが解決できるなら、どのような航海が行われることになるでしょうか。
・史実中国における海洋事情
探検や交易のため、余裕のある文明はしばしば船旅を行います。
中世ヨーロッパが封建制真っ只中であるなか、同じころの中国では海上軍隊が進歩しています。例えば日本史にて我々がかならず覚える、あの日宋貿易は、900~1200年頃に行われたものでした。
中国の海軍発達の背景の一つとして、北から攻めてくる蛮族に対して、南宋が河川を防衛ラインとして戦ったという背景があります。
北宋が蛮族に滅ぼされ南に逃げ延び南宋となり、その後防衛ラインとして川を利用したのです。
パイク(ものすごく長い槍)やクロスボウで武装し、攻城兵器を搭載していた例もありました。
足踏みで回る双輪をくっつけた鉄甲船、などというびっくり兵器も登場します。まさしく水上要塞でしょう。
当時の中国の王朝、南宋は、世界でもっとも進歩していた国家のひとつでした。
そんな南宋がある中国南部は、河川が乏しい地形でした。文明の発展によくある川を用いた輸送ができず、人々は海上運送に頼り始めるようになります。
内陸用の船だったものが、海上軍船になるのも時間の問題でしょう。基本的に内陸より外洋の方が海は荒く、高い造船技術が必要になります。
北宋を滅ぼした蛮族をチンギスハンが制圧すると、モンゴルは南宋を攻撃しようとします。そのためにモンゴルは南宋より強い海軍を欲し、宋が持つ大きな港町を攻め落としました。そして沢山の船職人を捕まえました。こうしてモンゴルは造船技術を手に入れたのです。
地上で最強を誇ったモンゴルですから、当然軍船は外洋、遠洋進出のために発展します。
その後順調に南宋を滅ぼし、結果的に1281年に4000隻を超える軍船、世界最大規模の海軍を編成して日本に攻めてきます。これが元寇です。
しかしその攻勢は失敗します。
その後、理由はなんだかんだあるでしょうが、モンゴルの支配はほころび、本土では漢民族の軍閥ができて最後には明王朝が出来上がります。
支配域が内陸に偏ったモンゴルですので、船に比べて割高である陸上輸送のコストで物流が上手くいかず、それが滅びの一旦を担ったという考え方もできるようです。
さてこの流れでできた明王朝は、例にもれず強力な船団を有していました。
なんと1400年初頭にインド洋へ7回も遠征しています。強力な海軍は次々と沿岸の都市を中国を宗主国と認めさせ、最後はアフリカ大陸までやってきます。
大航海時代の偉大な商人として、我々は3人のポルトガル所属商人の名前を覚えさせられますが、彼らが裸足で逃げ出すような遠征事業を明王朝は展開していたのです。造船技術も航海技術も一歩も引けをとらなかったでしょう。
ヴァスコ・ダ・ガマの旗艦の5倍もの規模の船に、当時の海軍指揮官、
最後はいかにも官僚的な派閥争いによって事業規模は縮小しますが、少し何かが違えば、中国の船団は地中海を蹂躙したかもしれませんし、アメリカを発見したのも彼らだったかもしれません。
そんなIF話も興味ありますが、1400年前後にこれほどの船旅が行われるのです。
ちなみに中国における時代区分はヨーロッパとはずいぶん違い、宋の時代から近世に区分されます。貿易活動が行われることが近世の条件の一つなのかもしれません。
・冒険者と船旅、海洋民族
冒険者一行も例にもれず、船旅をして、海の怪物を倒したりしています。
ギリシャ神話のクラーケンや、古代生物であるメガロドンから大きな影響を受けたためでしょう。
ファンタジー世界の住人も海の外には興味をもって、何かしらの影響で危険な外洋に乗り出すのです。
交易に前向きなファンタジー世界の住人ですので、海路を用いたやりとりがあったかもしれませんし、半魚人たちとの交流があったかもしれません。
オーストラリア程度の規模の大陸が、本国の南にあって、という設定のファンタジー小説は、意外と多いように思います。
モンスターに交流を阻害されている世界で、なぜ彼らは大陸を発見することができたのでしょうか。
半魚人から情報を聞いたか、アボリジニのような海洋民族の存在が海洋都市にやってきたのかもしれません。
さて、船で海に乗り出すのならば、やはり海の生物におびえなければなりません。専門の戦闘技術が発達することでしょう。
水上戦闘や水中戦闘というのはどのように発達するでしょうか。
水の中では陸上の数倍の負荷がかかります。それを減らす工夫が行われるか、高速で泳ぐ方法が編み出されるかもしれません。
陸の上のように、剣を振るという動作は水の抵抗を受けて難しくなるので、槍が使われると考えられます。もしくは風魔法や水魔法で、水中を進むときに斥力のようなもの発生させながら剣を振るのかもしれません。呼吸を楽にする魔法があればそれも使われるでしょう。
飛び道具も魔法の影響を受けて、発達しそうです。
どちらにせよ負荷がかかる水中で長く行動する民族は、筋骨隆々になりそうです。
船の護衛として活躍する傍ら、スイス傭兵やイギリスのハイランダー、ドイツのイェーガーや日本の忍者などのように、特殊な環境で育った彼らは武力を売りに一定の地位を得るでしょう。
・海の生物の脅威と出現率
大抵の海の生物は住む範囲をきっちり決められています。
浅いところに住む生物は深海にすめませんし、深海の生物は多大な水圧の中に生きるようにできているからです。各々環境に適した体のつくりをしているのです。
そのため、海のモンスターが単種で海全体の覇権を握ることは考え難くなります。
シャチが行う狩りの映像を見ると、海の生物も高い知能を持っていることがわかります。ファンタジーにはもっと恐ろしい生物がいそうですが、クラーケンのような奇怪な深海生物は、せいぜいが浜辺に死体が打ち上げられたときに遭遇する程度でしょう。
さらに、象やクジラなどの巨大な生物は、繁殖力が比較的低くなっています。人間は技術を用いてそこから脱却しましたが、生命力と繁殖力は反比例するようです。陸の何倍も広い海であれば、滅多に出会わない珍獣のたぐいでしょう。
また、巨大生物が生息するには餌が豊富になければなりませんので、特殊で豊かな餌場にいることでしょう。例えば調査捕鯨が南極で行われるのは、クジラが南極に多くいるためです。
このことから、人間の普段の生活範囲に強力なモンスターが現れる、というのはなかなかない出来事であるといえます。だからこそドラゴンや海竜が人里に降りてくれば、物語の特別なイベントになると考えられ、そうであればファンタジー世界の住人はこれらの存在に常におびえる必要はなくなります。
・変わった交易品
死体といえばそこからも商品がとれます。人間は商売に見境がありません。
マッコウクジラの腸からで生成させる結石は、
捕鯨がはじまる前や、商業の為の捕鯨が禁止されてからは死骸や糞を偶然入手する方法で得るしかありませんが、龍などと当時の中国人が名づけたところをみると、随分ありがたがったことでしょう。
ファンタジー世界では漁業とは別に、海にいる生物でさえ、商売の対象として見始めるでしょう。真珠のような特定生物が生成する宝石も、発見されるかもしれません。
・改訂版追記
この先、何度か交易や海、船の利点やイタリアの事情といったことに触れることになります。海は社会を考える際に、重要なファクターとなります。海が詳しく描写されるファンタジー世界は少数派ですが、それ故に新しいアイディアや作品の雰囲気が沢山あることだろうと思います。
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