第128話 少女達の迷走珍走妄想劇
「はああああ」
コラキア冒険者ギルドの一階酒場の四人掛けテーブル席で、酒場の右奥の窓際の席でレナが四角いテーブルに突っ伏して深いゝゝため息を吐く。
隣で魔法書(魔法の呪文が魔法陣で記された書物)を開いて黙読していたエルフ娘のフラニーが顔をしかめた。
「いい加減にしなさいよレナ。気が散って魔法のイメージが頭に入らないわ」
右手の人差し指で魔法陣の中に描かれたルーン文字をなぞりながら魔力のイメージを脳内に正確に再現しながらフラニーが抗議の声を上げると、レナはテーブルにつっぷしたまま首だけ向けて見上げて抑揚のない声で質問する。
「それ。それてさぁ~あ?」
「くっ・・・。何?」イライラッ!
「魔法って覚えてれば使えるわけじゃん。なんで毎日そうやって同じページを読み直してるわけ?」
「はぁ・・・たく。何も知らないのね。魔法ってのはね、呪文を唱えるのもそうだけど、毎回魔法陣を書きながらなんて時間のかかる作業してたら実戦じゃ使えないの。だからこうやって、毎日正確に魔法のイメージを頭の中に描いて瞬時に発動できるようにしておかないといけないのよ」
「だからつまり、覚えてれば使えるわけじゃん?」
「人の記憶力がどの程度持続するでもないでしょ。一度覚えればポンポン使えるわけじゃなの。毎日こうやって勉強して、咄嗟の時でもいつでも頭で思い描けるように訓練していないと、何かの拍子に使えませんでしたとかあるわけよ。
「へー」
興味なさげにレナはテーブルの下で足を真っ直ぐに延ばしてバタ足を始めた。
パタンと魔法の書を閉じてキリっとレナを睨みつける。
「いい加減にしなさいよレナ!」
「えーなーにー」
「セージがアニアスと結婚しただけじゃない!」
「はぁ・・・。エルフ娘には結婚って軽いものな訳ね。セージは今度は、魔物じゃなくて人間と一緒になったってことなのよ。生涯の約束しちゃったわけよ。オンリーワンなわけなのよ」
「まったくこれだから! 彼の娘を自称してるなら父親の結婚の祝福くらいしてあげなさいよ!」
「チッ」
「その舌打ち!」
「チッ」
「それにね、レナ。結婚ってお互い同じ屋根の下で暮らしましょうねって事で、」
「そう言う事じゃん」
「一人としか結婚しちゃいけないってわけじゃないからね?」
「一人としか結婚しちゃいけないって事、え??」
フラニーの言葉にひょこっと面を上げて不思議そうに彼女の顔を見るレナ。
「いやいや、結婚って一夫一妻・・・じゃないの?」
「少なくともそんな決まりはないわ。まぁ、世間体的には一夫一妻だけど、世の権力者たちは複数の男を侍らせる夫人とか妻を何人も娶る殿方とかいるわけだから。私たちはすでに彼と一つ屋根の下で暮らしてるのだから気にするほどの事でもないわ。間違いなんて起きるものなのだし」
「うわぁ・・・。フラニーがアミナみたいなこと言いだしてる・・・。けどさアニアスがみんなを追い出したり、セージの方が出ていくことだってあるんじゃん?」
「うっ!? ・・・ないわよきっと!」
「なんでさ」
「だって、セージよ!? 寂しがり屋さんの! というかアルア達の面倒誰が見てるのよ!」
「あの子たち結構おっきくなってきてるし、手がかからなくなってきてるよ?」
「うっ!? ・・・・・・・・・・・・まずいのかしら・・・」
「だーかーらー落ち込んでるんじゃーん」
「え? まずいの? これって、まずいの?」
「だからいってんじゃーん」
レナはテーブルの上に突っ伏して両手も前に突き出してバタつかせ、下では足をバタつかせて奇妙な踊りを始める。
フラニーは唐突に無言になって魔法の書を開いて勉強を再開した。
ほかの客達の食事の喧騒も耳に入らなくなって、フラニーは魔法が頭に入ってこないまま顔を七変化して悩み出してしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます