貴族の思惑

第126話 ファーレン・ベイルン

 純白の外壁に青い塗料の美しい瓦屋根、外周を守る高さ3メートルの塀は程よく切り出された石垣で出来ており、四隅にとんがり屋根を持つ尖塔。

 トーナ王国でも一目置かれる貴族、ファーレン・ベイルン伯爵の城だ。

 正面の鉄の格子門を潜ると続く長い庭を真っ直ぐに突っ切る石畳の道の先に鋭角なデザインが攻撃的な印象を受ける白い壁と青い屋根の3階建ての大きな屋敷が威風堂々と建ち、トピアリーで飾られた広大な庭は所々迷宮のように入り組み、常に警備の兵士が番犬の大型猟犬を連れて巡回している。

 非常時には砦としても機能する、辺境領1枚目の防衛ライン。

 同様に防衛ラインを形成する辺境伯は他に四人いるが、ファーレン・ベイルン伯爵はビーガン・オルザイル伯爵と並んで五伯爵の中でも1、2を争う領主だった。

 そして、辺境伯で終わるつもりは毛頭ない。

 金髪に黒い肌の少女。年齢的にも20年前に失踪した太陽の女神サーラーナの加護を受けて生まれた第1王女である可能性が高い。


(彼女を手に入れ、妻に迎える事が出来れば、辺境伯のこの私が王族に名を連ねる事も、よしんば王家に入り王位継承権を狙う事も夢ではない)


 その為に、三度に渡り手を下したというのに、ひとつも良い報告が返ってこないとは。

 十畳の広さの硝子戸で閉じられた本棚に囲まれた執務室の中で、豪奢な彫刻を施された机の前に牛革の黒に近い茶色のソファに座り気難しそうに眉をひそめる三十代半ばの金髪をオールバックに纏めた年齢にしては皴の目立つファーレン伯爵がため息を吐いた時、適度な蔦を模した彫刻を施された扉が1回ノックされる。

 瞬時に思考を遮られてフゥっと勢いよく息を吐いて一呼吸置くと、不機嫌さを隠しもせずファーレンは少し怒気を含んだ声を上げた。


「誰か」


『申し訳ございません伯爵閣下。執事のウォードにございます』


「ウォードか。入れ」


 レバー式のドアノブが捻られてガチャリと金属の擦れる音と共にドアが外側に開いて初老のやや痩せた長身の黒い執事服に身を纏った男性が会釈をして部屋に一歩入り深々とお辞儀をして答える。


「失礼いたします、旦那様」


「考え事をしていただけだ。かまわん」


「はい。実は、コラキアに向かっていた草の繋ぎが戻りましたので、ご報告を」


「ほう。良い知らせであろうな」


 ファーレンの目が鋭く細められる。

 ウォードは少し姿勢を戻してその表情を見て、再び深々とお辞儀をして言った。


「申し訳ございません。悪い知らせになろうかと・・・」


 怒りに任せてファーレンが机を勢いよく、両手で強打して書類の一枚が床に舞った。


「謁見室に通せ。すぐに参る」


「畏まりました。ご指示の通りに・・・」




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