第125話 転移勇者は寝て起きて敗北を知る

 おっはよー! みんなー!!

 元気してっかなあ!?

 元気出していこー!!

 私はげんきだぞう! すこぶる! とても!

 大・元・気ーーーーー!!





 で、どうやら昨夜は呑みすぎてしまったようね。気が付いたら冒険者ギルドのギルド長の執務室横にある仮眠室で寝ていたわ!?

 それはどうでもいいわ!!

 どうでもいいの!

 でね?

 何が言いたいかと言うとですね。ええ。

 起きて「あーあたまいたーい」って上のホールに上ってくとですね。

 いたんです。

 カウンターに。

 男と女が。

 男はうざそうにしながらもまんざらでもなさそう。

 女は・・・赤い革鎧着た女は照れる男にしなだれかかってグラスを持って中身を手ずから飲ませようとしてる。

 とってもうらやまバカバカしい状況。


「って、セージとアニアスじゃーーーーーん!!」


 そう。

 祭りに行くつもりが飲んだくれて寝てしまった私を置いてけぼりに話は急展開。

 二人付き合うことになったんだって。



 結婚を前提として。



「いやいや! お父さん! ラーラという女がありながらアニアスと付き合ってるってどういうことね!?」


「やかましい」


「やかましいですますな!! 不倫だよ! 離婚の危機だよ!?」


 攻める。超攻める。だって私大正論。

 だったのに、


「レナ、あんた何言ってるの?」


 アニアスがちょう真面目な顔してかわいそうな人でも見るように見つめて来るのが痛い!!


「魔物と結婚なんて、トーナ王国にそんな法は存在しない。セージは人間としてはまだ独り身だ」


「は!? うそでしょ!? おかしいでしょ!?」


「ちなみに、亜人と結婚するという定義もない」


「え!? え!? どゆことお!?」


「つまりだ」


 ぎゅーって、ぎゅーーーーーって!!

 セージに抱き着きやがったきいいいいいいいっ!?


「あたしとセージが結婚したところでなんの問題もないってことだ」


「おおありだよこんちくしょう!!」


「ちなみに、ラーラ公認だから」


「なに!? どういうことだ!?」


 おっと、お父さんもびっくりしてる。

 え? ちょっとまって? ラーラ公認って?

 ラーラったら不倫認めてるってわけ?


「セージ、そんなに驚くことないだろ」


「い、いやしかし・・・、だな・・・」


「熱烈なプロポーズしておいてそれはないぜ」


「だ、だがな、アニアス」


「しー。黙れ」


 アニアスめ!

 右手の人差し指立ててセージの唇ちょこんって・・・ちょこんっておさえやがった羨ま!!


「セージ。あたしたちはもう結婚するってきまってるんだ。まぁ、あたしだってラーラとは仲がいいし、あんたの娘達だってきらいじゃない。だから仲良くやっていく自信はある」


「う、そ、そうか・・・しかしだな・・・」


「コラ、顔背けんな。いいかセージ。あんたは家の大黒柱なんだ。どーんと構えてりゃあいい。妻の二人や三人くらい愛して見せろ」


「ええいクソ・・・どうしてこうなった・・・」


「おい!!」


 て、怒鳴りつけてがばって! がばって抱き着いておもくそベロチューとか!?

 はぎゃああああ!

 ありえないんですけど! ありえないんですけど!?

 レナちゃああああああんんんっ!!


「チョーーーーーップ!!」


「ぐわっ!?」


 おもくそセージの脳天にチョップくらわしたった。


「レナ! きさま!!」


「わーいだっ! バーカバーカ!! エロくそデカ男!! 死ね死ねバーカバーカ!!」


 脱兎のごとく逃げる私。

 激怒させたら追いかけて来るかな、なんて淡い期待なんかしてないんだからね!?

 逃げるよ。

 私は逃げる。

 追っては、

 こない!!


「んんん、なんでよ!?」


 おもくそ不満漏らしたら、背後にジェリスニーアがいた。


「フッ・・・・・・」


「ちょー!? そこっ! 今、鼻でわらったっしょ!?」


「おはようございますレナ様」


「ええそうですね! おはようおはようリビングドールくん!」


「その様子だとどうやら敗北したようですねザマー」


「くいいいいいい!? 見てなさいよ! 私だって・・・私だってねえ!?」


「一つ申し上げておきますが、セージ様の事をお父様と呼んでしまっている時点で、」


「ギクギクギクっ!?」


「セージ様からは女性として見られていない事を自覚しましょう」


「ひいいいい! いっちゃん気にしている所を!?」


「そもそもセージ様はただでさえ視野の狭い方です。中途半端なレナ様に振り向く事など奇跡が起こったとしてもありえません諦めるんだなザマァナイト。いや勇者」


「きいいいいいいいっ!?」


 生人形にまで馬鹿にされて・・・。

 だけど!

 私は!

 あきらめない!

 もう私がここに来た理由とか別にもうどーでもいいや。

 とにかく、そんな酒に飲まれた翌朝待っていたのは・・・。

 セージ・ニコラーエフに、日本人セイジの魂の宿る転生者に、正式な彼女が出来てしまったという事実だけだった・・・。

 ちくしょーーーーー!!




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